エピローグ 過ぎ去った約束
「ラクールよ!
今回の戦、成功したら宴を開こうぞ!!」
「勝つ度にやっているではないか、エルガル」
とある館の一室で、今より少しだけ若い二人の吸血鬼が向かいあっていた。
「分かっておらんな! 次の戦いに勝利できればここら一帯は制圧したも同然。
吸血鬼の世に一歩近づけるではないか!!」
「ふん、吸血鬼の世など……。
まだバルファス大陸も統一出来ていないのに、気の遠くなる話だな?」
「ぐぬぅ、そ、それは我ら新進気鋭の二人組にかかれば容易なこと!!
このちっぽけな大陸など、我らの力ですぐに制圧してしまうのだ! はっはっはっ!」
酒が回っているのか、二人の頬には赤みが差している。
そして片方は既に出来上がっているようだ。
「また中身の無い事を……」
「おお、中身の無い話と言えば、セレンとはどうなっているのだ。
もう婚約は済ませているのだろう?」
婚約の話をされてラクールが一瞬固まるが、エルガルは気がつかない。
「その話はしないといつも言っているはずだ」
「堅苦しいやつめ!
まあいい、ならば我の妻たちの話を聞け!
まず最初の出会いは、夏の涼しい夜のことだった、人虎の………………
ーー
ーー
―
……と、我が悪漢から救い出し、見事嫁にすることに成功したのだ!」
「長い」
ラクールがぴしゃりと言いきる。
長々と数十分も聞かされては、その反応も致し方無いだろう。
「むぅ、そうか?」
「ああ。その後に一人息子が出来て、大層可愛くて仕方が無いというところまで覚えてしまったぞ」
「そうかそうか、何度も話した甲斐があったな!」
「いや、迷惑だ」
「そう言うな! 吸血鬼は子が出来にくいのだ、自慢してしまうのも仕方が無いことであろう!!」
「……まあ、よく数年で子が出来たとは思うがな」
吸血鬼は種族的に長命であり、その分子供が出来づらい。
その基準で言えば、エルガルの第一子は中々の早さで生まれたと言えるだろう。
「うむ、我は出産祝いに『エストレーモ』を所望するぞ!」
「……そんな稀少な酒、手に入る訳が無いだろう」
エストレーモはそれ一つで城を購入出来るような値段のする白ワインだ。
あまりに稀少なので、金銭だけでは買うことすら出来ない。
「むぅ、それもそうか……。だがいつか飲んでみたいものだ」
「ああ、大陸を統一したら飲めるようになるさ。
それまで絶対に生き残るぞ」
「うむ! 任せておけ!」
場所は変わり、戦の後処理に追われる兵士たちが忙しなく動いている。
その近くに腰を降ろした疲労困憊の二人は、昇り始めた朝日を眺めていた。
「俺達の勝ちか」
「うむ、これで一区切り着いたな! 帰って妻たちに報告したい!」
「ああ、俺もセレンと温泉に行きたいところだ」
彼らは今回の戦も勝利を納め、これからの事について話し合っていた。
「お主は相変わらず温泉が好きだな!? それでも吸血鬼か?」
「ふん、お前は欲望に関しては忠実なまでに吸血鬼だな。少しは落ち着いたらどうだ」
「つ、妻たちと過ごしたいのはどの種族も持つ当然の欲求だろう! それよりもだ!
今回で一度争いも落ち着いたのだから、ここらで一つ、約束を交わそうではないか!」
「約束?」
「ああ! 我ら吸血鬼が世界の頂点を目指すのだから、そのための決意表明が必要だ! さあ、やるぞ!」
「そんなこと、いつもお前が言っているでは無いか……。
まあ良い、それなら平和も加えろ。
世界を統一した後に争いが起こっては敵わんからな」
「なるほど! ではいくぞ!」
「ああ」
「我ら吸血鬼が世界の頂点となり!」
「平和な世界を作ることを」
「「ここに誓おう!」」
そうして硬く手を握り合う。
「それではこれからも頼むぞ! ラクール!」
「ああ」
「ふふっ、お二人とも仲がよろしいですね」
二人が決意を新たにしていると、後ろから声がかかる。
「セレンか」
「ふむ、セレンも来たことであるし、我らも事後処理に行くとするか!」
「そうだな」
「はい、お願いしますね」
そうして三人は、忙しなく動く兵達の元へ向かっていった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
第一章の本編はこれにて終了です。
その後幕間を幾つか挟み、第二章に入りたいと思います。
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これからも吸血鬼の皇帝をよろしくお願いします。




