剣と化獣と
タイトルの"化獣"は、"ばけもの"と読んで頂ければ幸いです。
エルナス城のテラスからロードが飛び出す。
「狂犬が現れたぞぉぉ!!」
敵軍の誰かが叫んだことで一斉に敵の目がロードに向くが、それを気せず腰の剣を抜き放って突撃する。
「貴様ら……どけぇぇ!!!!」
剣と魔法を駆使することで、全速力に近い勢いを維持しながら敵軍の中央を突破した。
(温泉街メールドはここから西に行ったところにある!
私の足ならば数時間で森を抜けて到着するはずだ。急がなければ!)
ーー
ーー
(見えた、メールドだ!
主様の宿泊先は鈍色亭、確か中央にある宿だったな!)
森を走り抜けてきたロードが、そのままの勢いでメールドの外壁を走って登る。
外壁の上まで登りきったところで、腰を抜かした見張りが何かを言っていたが、視線で黙らせる。
(中央……あそこだ!)
ロードは目算で距離を測ると、足に力をためて飛んだ。
ーー
ーー
「ああ……陛下を見失ってしまった」
「エルガル様からどのようなお叱りを受けることか」
「結局抱いて頂けなかった……はぁ」
鈍色亭の前では三人の若い吸血鬼が肩を落としていた。
最後の女吸血鬼だけは場違いな理由だったが……。
"ドゴォォォォン!!"
と、そこへ砲弾のような着地音を響かせたロードが現れる。
「「「ロード様!?」」」
ありえない光景に三人が目を白黒させる。
「おい貴様ら、主様は何処だ?」
つかつかと三人の方へ歩いてくると、そのまま手近な男吸血鬼の首を掴み上げ、地面に叩き付けた。
「ぐぇ!?」
「早く言え。
今、主様は何処にいらっしゃるのだ?」
そのまま倒れた男吸血鬼の首を締め上げる。
「そ、それが!我々も見失ってしまい、分からないのです!!」
もう一人の男が慌てて答える。
が、さらに強く首を締められる。
「ぐ……げ……」
「私が聞きたいのはそんな言葉では無い。
主様は何処にいらっしゃるのか?
と訊いたのだ。答えられないのならば……」
既に顔面蒼白となった男に、ロードが掌を向けて魔力を集める。
「死ね……
「あ、あー!! そうだ!! エルガル様は北の森へ向かうとおっしゃっていました!!
皇帝陛下もそこへ向かわれたと思います!!!」
「……」
女吸血鬼が矢継ぎ早に言うと、ロードが掴んでいた手を離した。
同時に、張り詰めていた空気が弛緩する。
「そうですか、では」
それだけ言い残して、ロードは飛び去るように北の森へ向かって行ってしまった。
「ブクブク………」
「し、死ぬかと……思った……」
「怖かった………」
後には泡を吹いている者と、涙目でその場にへたり込んだ二人だけが残された。
ーー
ーー
(北の森か……やはり盗賊団討伐の話自体が嘘だったのだろう。
エルガル様の目的は分からないが、サヤカを仕留めようとしているのに間違いは無い。
主様の身に危険が及ぶ前に合流しなければ!)
と、ロードが走りながら考えていたところで、森の一角から凄まじい光が上がる。
(あそこか!)
最速の動きで光の方へと向かう。
およそ数秒で到着した彼がそこで見たものは……。
グォアアアァァァァ!!
(な、何だこいつは!?)
それは、ロードが初めて見るような巨大な化け物だった。
「エルガル、その姿ではもはや言葉も届かないだろう」
(今、主様は何とおっしゃった!?
アレがエルガル様だというのか!いやしかし、確かに……)
その見た目からは想像もつかないが、時折発する声や吐き出す炎には、僅かに面影がある。
「今、俺が終わらせてやる」
そう言ってラクールが二刀を抜き放つと、次の瞬間横に飛ぶ。
数瞬前までラクールの身体があった場所には、巨大な前足が叩き付けられていた。
(お助けしなければ! しかし……ぐっ!体が動かない!?)
見れば、彩華も片膝をついて動けずにいる。
(この感覚、最近どこかで……。思い出したぞ!
主様の圧力、あれと同じだ!!)
ラクールが帰って来た日、玉座の間で感じた圧倒的な圧力と同じ類いのものだった。
(どうしてこんな化け物が主様と同じ力を……!)
ロードが考えている間にも、戦闘は激化していく。
キメラが前足を横に振るえば、辺りの木々はすべて横に薙ぎ倒され、土埃が舞う。
見えなくなった視界の中、キメラが口から特大の炎を吐き出す。
「『飛閃』」
森を焼き付くさんばかりの炎の奔流は、しかし地面に届く前にラクールの剣圧で吹き飛ばされる。
(何と言う戦いだ。
あんな化け物の攻撃に当たればひとたまりも無いというのに、主様には焦り一つ見られない。)
キメラの後方から、蛇の頭を持った尻尾が襲いかかる。
それをラクールは受け流し、尻尾を先から順に切り刻んで行く。
キメラは地上での交戦が不利だと悟ったのか、ラクールから距離を取るために背中の翼を使って空へと後退する。
しかし、今しがた尻尾を切り刻んでいたはずのラクールの姿は、既に地上には無かった。
「ふむ、相変わらずだなエルガル。
力任せに攻撃してから後退しようとする癖は変えられぬようだ」
キメラが振り向くと、既にラクールは背中に回っていた。
「這いつくばれ」
振り抜かれた二刀によって、両の翼が切断される。
グギャァァァァァ!!
地上へと落下しながらキメラが絶叫する。
そのまま巨体が地面へ落下すると、辺りには強烈な地響きが起こった。
「……まだ余力がありそうだなエルガルよ、次で終わりとしよう」
後から着地したラクールと、起き上がったキメラが睨み合う。
辺りの空気が緊張感を持ち、徐々に張り詰めていく。
「グルゥゥゥゥ……」
「最近、巨大な物体を切るための技を開発したのだが、まさかお前相手に使う事になるとはな…………。
来い!!!」
その掛け声を合図に、キメラが前足を全身で振り上げた。
そして爪の先が頂点に達した瞬間、見上げるような巨体からは想像もつかない速度で足が振り下ろされる。
それはラクールが居る場所に寸分違わず落下していき、そして地面を叩き付ける直前、切り飛ばされた。
グギャァァァァァ!
大地を穿つはずだった右の前足を失って、キメラが倒れようとするが、ラクールの追撃がそれを許さない。
残像が見えるほどの速さでキメラの四肢を次々と切断していき、流水のような流れる動作で胴体に無数の傷をつける。
最後に一際強烈な横薙ぎを見舞うと、その場で佇む。
「『千水乱華咲』」
そう呟いた瞬間、キメラが崩れ落ちその体から目映い光が空へと放たれた。
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