男からのツンデレとか嬉しくないよね
「ふむ、少々やり過ぎたようだなエルガル。
ここから先は、俺が相手になろう」
「ラクール……!!」
(ちょっとちょっとやり過ぎじゃない!?
あんなに魔法撃ったら嫌がらせじゃすまないよね!?)
吸血鬼たちの攻撃は、明らかに嫌がらせの域を超えていた。
「遅くなってすまなかったな」
「い、いえ!嬉しいです!」
(全く、女の子をこんなにボロボロになるまで痛め付けるなんて……あれ?
ボロボロじゃない?肌に傷一つ無くない!?
どうして俺は呼ばれたの!?)
「あの、主君……」
ラクールが困惑していると、彩華が恥ずかしそうに声を掛けてきた。
「どうした」
「その、お姫さまだっこ……」
(そうだった! 恥ずかしいよね!)
「ああ、今降ろそう」
「い、いえ……そうではなくて。また今度、お姫さまだっこして欲しいなって思いまして。
ダメですか?」
(え、今!? 今それ言う!?
みんな見てるっていうのに、この娘も大概大物だよね!)
「ああ、また今度な」
そう言って彩華を降ろす。
「さてエルガルよ、この状況を説明してもらおうか」
(行き過ぎたパワハラの現場はしっかり押さえたからなー! 言い逃れは出来ないぞ!)
「ふん!お主なら全て知っているのであろう?
……まあ良い、我の口から説明してやる」
一呼吸置くと、エルガルが説明し始める。
「エルナス城からそこの女のような部外者を排除し、我ら吸血鬼が世界を支配するために、今回の遠征を計画したのだ」
(は!?)
「ふむ、つまり?」
「白々しいぞラクール!
盗賊団のでっち上げも、暗殺者の手引きも、すべて気が付いておるのだろう!
お主は昔からとぼけ癖があるからな!」
「ふむ……」
(パワハラ大作戦じゃなかったのか……!?)
「だが、今回は少しばかり気付くのが遅すぎたようだな。
既に吸血鬼の半数は城に向かって進軍している。
今ごろは制圧が完了しているであろう」
(何しちゃってんの!?)
「裏切りか」
「いえ主君、エルガルさんは裏切ったつもりは無いようですよ?」
「ふん! お主まで勘違いしおって!
吸血鬼以外の種族を排除した暁には、お主が皇帝としてこの世界を治めるのだ。
その為に我らはこの計画を実行したのだからな。
腑抜けきったお主の目を醒まさせるには、このくらいせねばならん」
(なにそれツンデレ!?
そこまで行くともうツンデレとは呼べないよ!?
馬鹿じゃん馬鹿!?
お前、昔はもっと賢かったよね!?
ボケちゃってんじゃないの!)
「エルガルさん、まだ分からないんですか?」
「何をだ」
ラクールが心の中でエルガルに罵詈雑言を浴びせている間にも、会話は進んでいく。
「主君が城を出たときから、全ては主君の掌の上だったんですよ。」
(全く、エルガルは昔から目の前の事しか頭に……え、今何て??)
「反乱分子を炙り出すには、こちらが隙を見せて犯行現場を取り押さえるのが一つの定石。
その策にあなたはまんまと嵌まってしまったんです」
「策だと……?」
「主君はあなたが内通している事に気が付き、温泉への同行を申し出ました。
あなたは主君を誘きだすことに成功したと勘違いしているようですが、実際にはあえて誘きだされていたんですよ」
彩華は一度ラクールの方を見ると、さらに説明する。
「それに出発前の挨拶で、主君はセレンさんにヒントを出していました。
城に危機が訪れる事を予め伝えていたんです。
今頃、宵闇の揃った城では吸血鬼の部隊が返り討ちに遭っている事でしょうね」
「本当かラクール!」
「ふむ……」
(いやいやいやいや!
温泉は単純に来たかっただけだし、セレンにヒントも出してないよ!)
吸血鬼の皇帝が、端から見れば思案げな表情で押し黙る。
(城の守りは任せた。とか普通の挨拶して来ただけじゃん!?もしかしてそれ?
だとしたらガバガバ推理すぎるよ!
それで城の危機を察しちゃうなら、セレンもおかしいよ!)
「まさか我が踊らされていたとはな、相変わらずの先見だ。千帝の名に陰りは無しと言うわけか」
(そのセリフは前にも聞いたよ、ていうか千帝はやめろ!)
「で? どうする! 我の計画に変更は無い。
吸血鬼を最上位に置き、お主の目を醒まさせるのが我の目的だ。
バレずに終えるつもりだったが、致し方無い。
お主には……少し……いた……いめに……ぐぅっ……!」
(な、なんだろう?戦いになるかと思ったんだけど、エルガルが急に苦しみだしたね)
辺りではエルガルに限らず、吸血鬼たちも地に伏せて胸を押さえている。
そしてエルガルに近い者から血を吐いて、次々と息絶えて行った。
「これ……は……クソッ!
奴の仕業か……おのれぇ……ぐおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
エルガルが叫ぶのと同時に、吸血鬼たちの死体から光が浮かび上がる。
その光はエルガルへと吸い込まれていき、次の瞬間、眩い光と強風が二人を襲った。
「くっ!」
「主君!!!」
ラクールを守る形で彩華が前に飛び出す。
光と強風は数秒間続いた。
徐々に弱まりようやく光収まると、そこには
エルガル"だったモノ"が居た。
グォアアアァァァァ!!
「主君……こ、これは……!」
「合成獣……『キメラ』か……!!」
この世界、ミーリアヘルシャフトにモンスターは居ない。
人形の種族は多数存在するが、化け物と呼ばれる見た目を持つモノは存在していなかった。
しかし、今目の前には居るのは、まさしく物語に出てくるような巨大なモンスターだった。
「ライオンの頭に山羊の胴体、
蛇の尻尾に……あれは蝙蝠の翼か。
オリジナルに少しだけ要素を加えてあるようだな」
「アレが何なのか知っているんですか?」
「詳しくは知らん。
だが、この世界に存在して良いモノでは無いな」
グォアアアァァァァ!!
もはや言葉とも雄叫びとも判断がつかない声で、エルガルが咆哮する。
「エルガル、その姿ではもはや言葉も届かないだろう」
彩華をそっと押し退け、ラクールが数歩前に出る。
「今、俺が終わらせてやる」
そして、腰に差した二振りの名刀を抜き放った。
お読みいただき、ありがとうございます。




