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鮮血舞う戦場と妹

~エルナス城テラス~



「ふむ、ではやはりエルガル様が暗殺者を手引きしていたということか、セレン?」


「はい。密偵の方は未だ昏睡状態ですので詳細はわかりませんが、その事に関してはわたくしの方でも確信できた所です」


 現在、エルナス城のテラスにはセレン、ディアナ、ロードの三人が揃っていた。


「そうか……。

ところでロードよお前は何をやっている?」


「はい?主様のところに向かおうとしているだけですが?」


 ロードはテラスの柵に足を掛け、今にも飛び出しそうな格好をしている。


「お前、ここを何階だと思っているんだ……。

まあそれは良い、行ってどうする?」


「もちろん主様をお助けします。

それがたとえ無駄になるとしても、私にはここでじっとしていることなど出来ません。

まさか姉上、止めるつもりでは無いでしょうね?」


 ロードの周りに魔力が集められる。


「止められるものか、お前がその気になったら面倒くさくて敵わん。だがそろそろ……」


「あら、来たようですね」


 三人の視線の先では、吸血鬼と人狼の集団が二手に別れてこちらに向かって進軍していた。


 そして吸血鬼たちの顔ぶれは、いずれも古参の強力な者達ばかりのようだ。


「チッ……頭の固いクソ虫連中ですね。

おまけに人狼まで寝返っているとは、全く度し難い。

本来なら裏切り者は私の手で八つ裂きにしたい所ですが、今は主様の身が最優先です……。

姉上、セレン様、城の事はお任せしましたよ」


そう言い残すと、ロードはテラスから飛び降りて敵陣の真ん中を突っ切って行った。


「ロードは行っちゃったのね♪」


 ロードが飛び出したすぐ後に、ユリーナがテラスに顔を出す。


「妹様……。

はい、全くしょうがないやつです。

あれでは狂犬と呼ばるのも無理はないでしょうね」


 弟の事を考え、ディアナが溜め息を吐く。


「フフッ、でも意外です。

てっきりディアナさんも飛び出していくのでは無いかと思っていました」


「私だって、出来るなら今すぐ主様の所に向かいたいさ。

だが他ならぬ主様が決められた事だ。

番犬などと呼ばれている私は、せいぜい主様が任せてくださったこの城を守り抜くとするさ!」


 そう言ってテラスを飛び降りる。


「それじゃあユリーナも行こうかな。

お姉さま、お城の守りをお願いしても良い?」


「勿論ですよ、ユリーナちゃん。

お城の事は大丈夫ですから、気にせず行ってきてください」


「ありがとう♪それじゃあ、行ってくるね♪」


 後には、杖を持ったセレンだけが残された。


「さて、お城が傷付いてはいけないので結界を張りましょう。『サンライトウォール』」


 セレンが詠唱すると同時に、網目状の光の壁が形成される。

 エルナス城を囲む形で半球状に広がっており、結界を破らない限り、侵入は不可能だろう。


「これで問題は無いでしょう。

吸血鬼の方々は二人が何とかしてくれますので、結界の維持に集中していれば大丈夫」


 セレンが結界の維持の為に目を閉じて集中する。


(ラクール様、無事にお戻りいただけますようお祈りしております)










~エルナス城城門前~



(ロードの奴め、ようやく行ったか……。

まずは態勢を立て直さねばな。)


 人狼の集団は、鬼のような形相で突撃してきたロードに陣形を乱され、混乱していた。


「落ち着け!負傷者は後方に配置し、まずは城内に入ることを優先しろ!」


 人狼軍を指揮する立場として叫ぶ。


(被害は少ない。だが、こちら側の軍には圧倒的に士気が足りていない。早急に片を付けねば……ん?)


 誰かがこちらへやってくる。


「ほう。貴様ら、これはいったい何の真似だ?

たかだか数百の人狼風情が、主様に弓引くつもりではあるまいな」


「ディアナ……」


 人狼軍のリーダーが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。


「いや、言わなくても理由は分かる。

どうせ吸血鬼の連中に脅されて、仕方なく付き従っているんだろう?見れば分かるさ」


「……その通りだ」


 人狼の集団は明らかに及び腰だ。

 この戦いを望んでいないことは傍目から見てもよく分かる。


「だが、裏切りは事実だ。相応の報いは受けてもらうぞ」


 そう言ってディアナが歩を進める。


「……お前一人で我々を相手にするつもりか?」


 当然の疑問だろう。

 辺りには他に誰もおらず、彼女一人だけなのだから。


「??

何を当たり前のことを言っている。

吸血鬼相手に屈服するような雑魚どもは、私一人で十分に決まっているだろう。

近衛隊を連れてくるまでもない」


「ぐっ……」


 人狼達は図星を突かれて誰一人言い返せない。


「そうだな、使うまでも無いと思っていたが特別に見せてやろう」


 そう言ってディアナは魔人スルトを出現させた。


(な!?)


 その巨体に人狼軍の誰もが圧倒されてしまい、リーダーすらも声が出せない。


「お前たちも見るのは初めてだったな? これが魔人スルトだ。

宵闇の名が伊達ではないと言うことを思い知らせた上で、たっぷりと再教育してやろう。

なに、少し焼けるだけだ、全力で障壁を張れば生き残れる。……多分な。」


"うわぁぁぁ!?"


 人狼たちが散り散りになって逃げていくが、もう遅い。


 スルトの拳が集団の中央に振り下ろされ、地面が弾けた。










「クソッ狂犬の奴、散々荒らし回りやがって!!」


「あの人狼風情が! 吸血鬼である我らをコケにしてくれたな!」


 吸血鬼の軍は既にロードの爪痕から回復しており、陣形も元通りになっている。


「行くぞ!」


「ああ!」


「まずは軟弱者から始末する!」


 吸血鬼は誇り高い生き物だ。

 故に今回の軍に、指揮者は存在していない。


 吸血鬼たちが門に入ろうと足を踏み出した所で、突如目の前に閃光が走る。


「これは!?」


「クソッ!あの忌々しい聖女の結界か!」


「砕けろ!『アイスブラスト』!」


 吸血鬼たちがそれぞれ魔法を放つが結界にはヒビも入らない。


「時間を掛けてられん、一気に畳み掛けるぞ!!」


「ダメよ♪」


 その声が聞こえたのと、発言した吸血鬼の首が落ちるのはほぼ同時だった。


 吸血鬼たちが声のした方へ一斉に視線を向ける。


 音もなく現れたのは、漆黒のロリータファッションに身を包んだユリーナだった。

 その手には、黒を凝縮したような黒剣が握られている。


「ユ、ユリーナか……」


「ねえ、おじ様たち。

どうして同じ城の仲間を攻撃するの?

ユリーナに教えて欲しいわ♪」


「お、お前には分からないことだ!!」


 吸血鬼の一人が叫ぶ。


 古参の吸血鬼たちが、年端も行かないような見た目のユリーナに、明らかな恐れを抱いている。


「ふーん?教えて欲しかったのになー。

まあでも良いわ♪

教えてくれてもくれなくても変らないもの♪

だって、皆殺しだからね♪」


 そう言ったと同時に、吸血鬼の集団の後方から悲鳴と血飛沫が舞った。


「お、おい!何をした!」


「魔法を使ったのよ♪

お姉さま程では無いけど、ユリーナも色々な種類の魔法が使えるの♪」


 右手には既に魔法の黒剣を出現させている。

そして同時に、あらぬ方向から雷を飛来させ数名の身体を撃ち抜いていく。


「今持っているのも、なかなかの物なの♪

闇魔法の『ダークマター』っていうんだけど、色々な形に変えられて便利よ。こんな風にね!!」


 剣の見た目をしていた黒い物体はノコギリの刃へと形を変え、飛び出したユリーナの手によって、次々と吸血鬼たちの四肢を切断していく。


「うっ!」


「……何故そのようなムゴい殺し方ばかり!」


「無邪気さを装った化け物め……!!」


「アッハハハハッ、化け物ってひっどーい!

でも、殺し方にこだわりがあるのは確かね♪

ユリーナって、お洋服とお人形が大好きでしょ?

でもそれと同じくらい血を見るのがだーい好きなの♪

おじ様たちの血は美味しくなさそうだから飲まないけど、いっぱい血は流して死んでいってね♪

アハハハハハハッ!!」


 半分吸血鬼の妹が、常軌を逸した言葉を放つ。


「『鮮血』のユリーナ、その紅い瞳だけが由来では無かったということか……!」


「気狂いだ……こんな化け物が存在していいはずがない!」


「こ、ころせ、殺せ!!」


 その言葉を合図に一斉に吸血鬼たちが飛びかかった。










「ふぅ、楽しかった♪」


 物の数分で作られた屍山血河の上で、血に染まった少女が呟く。


「お待たせしました、妹様」


「ディアナ、終わったのね♪」


 人狼の集団を沈めて来たディアナが合流する。


「しかし、相変わらず血がお好きなのですね」


「うん……。自分でも変だとは思ってるんだけどね。お兄様には内緒にして?」


「分かりました。

それにしても、今頃メールドの方はどうなっているのでしょうか」


「お兄様もサヤカも強いから心配要らないわ♪

それよりもロードよ! 一人だけ抜け駆けなんてズルいと思うの!

私だってお兄様に会いに行きたいわ!!」


「ははは、そうですね。

今度注意しておきますよ、まあ言っても聞かないでしょうけどね」


 弟の事を考えて、ディアナが苦笑する。


「それじゃあ、後片付けしに行こっか♪」


「はい、残党狩りの時間です」

お読みいただき、ありがとうございます。

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