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浴場で欲情じゃあないんだよ!

「かゆい所はありませんか?」


「ああ、大丈夫だ」


俺は今、彩華に背中を洗ってもらっている。

どうしてこんな状況になったのかと言うと。


 まず脱衣所で服を脱いで露天風呂の扉を開けた。

 そしてさあ風呂に入るぞーと中に足を踏み入れた所で、三つ指揃えて深いお辞儀をした彩華の姿が目に入って……。


 ごめんやっぱり分かんない!

 どうしてこうなった!?


「……」


 ただ、そのお辞儀がまるで女将さんのように綺麗な姿勢だったことは覚えてい……。


 いやいや待てよ?


 お辞儀が女将さんそっくりで、ここに案内したのも女将さん。


 ニッコニコの女将さん……。


……つまり、あの人のせいだこれ!!


 やられたよ!

 どおりでニッコニコの笑顔だったはずだ!!


「しゅ、主君」


 あっはい、何でしょう。


「今日は一緒にお出かけできて、とても楽しかったです。主君はどうでしたか?」


 もちろん楽しかったよ。


「ああ、俺にとっても楽しい時間だった」


「本当ですか! 私、主君が気を遣ってくれているんじゃないかと思って、ずっと気になってたんです」


「そんな訳があるか、誘ったのは俺自身だ。

お前が心配するような事は何一つ無いと約束する」


「主君……」


「それよりも彩華。その髪留め、本当は気に入らなかったのでは無いか?」


「え?」


「夕刻、店の前で見たお前の顔が、どうにも落ち込んでいるように見えたのでな。

もしそうなら別の物を買っても良いが……」


 うぅ、センスが無くてごめんね?


「……フフッ。主君でもそんな事を考えたりするんですね、少し意外です」


「そうか?」


「はい、主君は不安なんて一度も感じたことが無いと思っていました」


 何!?その完璧超人なイメージ!?


「そんな生き物が居るものか。

俺だって不安に思う時はある、感情があるのだから当然だ。……幻滅したか?」


「そんな、幻滅なんてしませんよ!

主君が身近に感じられて、そして私の事を考えてくれたというのが、ただ嬉しかっただけです」


「彩華……」


「私、あの日あの門の前で貴方に誘われた時、嬉しかったんです。

この人と生きたい、この人の為に生きようって。

今でもそんなことばかり毎日考えているんですよ?

そんな敬愛する方からの贈り物を喜ばない人なんて、居るはずが無いじゃないですか」


「……」


「ですから、主君が心配する事なんてありませんよ」


「では、なぜ……」


「はい?」


「なぜ、泣いているのだ。彩華」


「…………えっ?」


彩華はその言葉とは裏腹に、辛そうな顔で涙を流してた。


「あ、あれ!?ご、ごめんなさい!私ったら……」


「いや……構わん」


「あ、あはは。駄目ですね。

心配無いって言ったばかりなのに泣いちゃうなんて」


「……」


「もう、白状しちゃいます。

さっきの言葉、本当全部は言い切って無いんです。

私があの門前で貴方の手をとった時、初めて人生に意味が出来ました。

差し伸べられた手の温かさを知ったんです。

貴方の為に生きて、貴方の為に死のうと思ったんです。

そしてそう、前はそれで良かった。

貴方の力になることで、毎日が幸せでした」


「……」


「でも、最近はおかしいんです。

力しか取り柄の無い私が、主君に力で頼られることに不満を感じてるんです。

それだけじゃない!

主君の周りに女性がいることが嫌なんです。

いえ、嘘です。嘘を付きました。

本当は……本当は!! 

周りにいる女性の中に、私が居ない事が耐えられないんです!!!」


……彩華。


「夕方、あのお店の前で貴方から髪留めを貰った時、すごく嬉しかった。

宝物にしようって思えたんです。

でも、私の種族を象った模様を見て、ふと思ってしまいました。

主君が求めてるのは、私じゃ無くて私の力なんじゃ無いかって、そう考えてしまったんです。

その後は不安で不安で仕方ありません!

もう今も押し潰されそうなくらい苦しいんです!!」


……。


「主君は、時代遅れの武術だけを磨いてきた女はお嫌いですか?

今流行りの魔法が得意なセレンさんのような可憐な女性がお好きですか?

私は……私はもう、貴方の近くでしか安らぎを感じられません!

主君が望むのであれば、どんな女にでもなります!

魔法の鍛練もがんばります!

ですから、どうか!どうか貴方のお側に、私も!」


「もういい」


「あっ…………。嫌な女だと思いましたか?」


 そうじゃない。

 そんな顔をさせるつもりは無かったんだ。

 でも、これ以上話をさせる訳にはいかない。


「そんな訳があるか。

お前を追い詰めてしまった原因は、お前の気持ちに気が付いてやれなかった……いや、全てにおいて

優柔不断だった俺にある。

全て俺の不甲斐なさが招いた結果だ。すまない」


「そんなことは……」


 今言ったとおり、どっち付かずの態度を取ってきた俺の責任は大きい。

 今回の事だけじゃない。セレンに対しても、俺ははっきりと口に出して求婚したことがない。

 その結果、彩華に悲しい顔をさせてしまった。

 そして、セレンよりも先に彩華の想いに応えてあげる事もできない。

 部下の不安を解消できないなんて俺は駄目な皇帝だ。

 でも、それでも……。


「だがな、これだけは言っておく。

セレンだけではない。お前も十分魅力的な女だ。

お前のような娘に言い寄られて気を悪くする男などいない」


「え、ええっ!」


「それにな、武術だ魔法だなどというのは些細なことに過ぎない、俺がお前を引き抜こうと決めた時、決してお前の力だけを見て判断したのではないと分かってくれ」


「では……私は、あなたにとって……」


「今はその問いに対して答えることは出来ない。

俺は未だにセレンに対しても気持ちをはっきりさせていないのだからな」


「え!?」


 まあそりゃ驚くよね。

 皆から夫婦みたいな扱いを受けてるし。


「だから、俺がけじめを付けるまで待っていてくれないか?

全てが終わったとき、必ずお前の気持ちに応えると誓おう。

それまで、待っていてくれるか?」


「主君……。

嬉しいです。何処にいても、何時まででもお待ちしています。

あっ! でも、出来るだけ早くしてくれると嬉しいです。寂しいですから」


「ああ、善処しよう。

そうだな、では待たせる詫びにこう言うのはどうだ。

その髪留め、宝物にすると言ったな。

ならば今回の休養中、肌身離さず身につけておけ。

そして俺が近くに居ないときは、その髪留めの先を引っ張れ。

その音を聞きつけて、俺が何処からでも駆けつけてやろう」


「嬉しい……ですけど、音が聞こえない時はどうします?」


「必ず聞きとるさ」


「絶対に来てくれるんですか?」


「ああ、必ず向かおう」


 俺は耳が良いからね!


「ふふっ、嬉しいです。

もう不安なんて無くなっちゃいました。

主君のお陰です!」


「良かったな」


「ああ! でも一つありました!」


「なんだ」


 なんだろう??


「セレンさんは良いとして、妹様はどうするんですか?

第二婦人ですから、私よりも先になりますよね?」


 ん?何故ここでユリーナの名前が出てくるんだろうか。

 あのお嫁さん発言は、幼い頃によくある、

"私、大きくなったらパパと結婚するの!"と同じようなものだよ?


「それにディアナさんも居ますよね、私よりも長い時間一緒にいるんですから先に結婚することになるんでしょうか?」


 あ、ああ、ディアナね。

 ディアナか、うーんディアナ。

 ディアナだもんなぁ。


……。


 分かんない!


「ふむ、ディアナに関しては分からんな」


「もしかすると、私の番はずいぶん先になるかもしれませんね?」


「そうかもな」


「ですね」


「ふっ」 「ふふっ」


 二人で笑い合う。


「そろそろ湯に浸かるか。

ここは暖かいが、ずっと素肌でいるのも良くはなかろう」


「そうですね。

それであの、今日だけは隣で浸かっても良いですか?」


「ああ、良いぞ。俺の側は安らぐのだろう?

存分に近くで英気を養って、明日に備えてくれ」


「もう!からかわないでくださいよ!」


「フッ、ついな」


 その後しばらくは、二人で温泉に浸かりながら語り合う楽しい時間を過ごした。

お読みいただき、ありがとうございます。


むふふな展開を期待して頂いた方、申し訳ございません。


お怒りの方がいらっしゃいましたら、らくるんの肉体美を細かく描写した後日談を書きますので、どうかお許し下さい。

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