何か起こりそう=必ず何か起こるって本当?
~鈍色亭西廊下~
俺は今、彩華との待ち合わせで広間へ向かっている。
しかし、歩きながらも思い出してしまうのは昨日の露天風呂だ!
それはもう最高だったの一言に尽きる!
まるで肌に吸い付くような心地の良いお湯に、ルームサービスのお酒がこれまたぴったりで、ここは楽園か?と勘違いする程の質の良さだった。
今日からは大浴場に入れるんだけど、もしかしたらあまりの気持ち良さに天国まで昇ってしまうかもしれない。
「あ、主君!おはようございます」
「ああ、おはよう」
広間に着くと、彩華が先に来ていた。
うーん少し残念だ。
ーーごめん、待った?ーー
ーーううん、今来たところー
みたいなやりとりをしたかったのに。
いや、まだ遅くないぞ、こっちから聞いてみよう。
「待たせたか?」
「いえ、二時間前に着いたので全然待って無いですよ!!」
いや、早すぎん!?
俺だったら寝不足になっちゃうよ……。
こりゃ敵いませんわ。
「では、行くか」
「はい!」
彩華はお腹空いてるだろうし、取りあえず、美味しい物を探しに行こうかな?
屋台が立ち並ぶ通りに来てみた。
メールドは、観光地なだけあって屋台の規模も大きいね。
「あ、主君!見てくださいこれ!可愛いですね!」
ん、何だろう?
「お! そいつに目を付けるとは彼女さん、お目が高いね!」
「か、彼女さん!?」
彩華が挙動不審になりながら反応する。
いや、普通にセールストークだと思うよ。
少しはそう見えてるかもしれないけど。
「これは、この街の名物の一つヒヨコ温泉玉子さ!
彼氏さんはお貴族様だろ? 一つ四百リア、どうだい?」
「どうしましょう、主君?」
あ、すごく欲しそうに見える。
何というか、こういう視線には弱いんだよね。
「ふむ、では二つ貰おうか」
「まいどあり! 二つで八百リアだ」
「ああ」
小銭を渡してヒヨコ温泉玉子を受け取る。
一応買ってみたけど、よく見たらこれ玉子の上の方に突起が付いたただの温泉卵だよね?
割ったら一緒だよね!?
なんだかなぁ、帝都に持ち帰っても流行るかどうか微妙だ。
「ところで店主よ、この辺りで盗賊団が出ているようだが、どの程度の被害なのだ」
一応、情報収集もしておかないとね。
「はて、盗賊団かい? 最近は他所から流れてくるゴロツキどもが多いしよく分からんなぁ。
まあ夜に外出はしたくないってくらいには嫌だね」
「ゴロツキ……ですか?」
「そうさ、まあお貴族様の護衛なら心配はいらんだろうけどな」
あれ、そんな程度なの?
まあいいや。取りあえず、次に行こうか。
「このヒヨコ温泉玉子、美味しいですね!」
「ああ」
俺たちは今、歩きながら温泉玉子を食べているところだ。
しかしこのヒヨコ温泉玉子、イロモノ枠の商品かと思ったけど意外と美味しい。
玉子の火の通りも適切で、付いてきたタレにもよく合う。
名物になるのも頷けるね。
…………ん?
チキン野郎が玉子を食べたら共食い?
はっはっは、良い度胸だ。
今心の中で罵倒した奴は、俺の鶏魔法の餌食になるがいい!!
「あ、主君!あんなところにヒヨコ温泉絨毯とか、鶏温泉入浴剤なんて物もありますよ!」
はあ!?何その変な名前の商品!?
やっぱりこの街の名物は、イロモノばっかりか!
しかも何故か鶏が多い!!
「それにしても、街が盗賊団に襲われているようには見えないですね」
そうだね。
さっきから街を見て回ってるけど、凄腕の盗賊団が街の近くにいるような雰囲気には見えない。
厄介な盗賊団なんて、エルガルが大袈裟に言ってただけなんだろう、まったく困った奴だよ。
「あ……この店は……」
彩華が一件のお土産屋の前で立ち止まった。
「どうした」
「いえ、私の故郷の品々が飾ってあるので、少し懐かしいな……と思いまして」
ああ、彩華は元々、スザク大陸の出身だからね。
東の端っこにある大陸だから、気軽に故郷に帰れなくて寂しいんだろう。
この髪留めなんか、彩華の種族をモチーフにしてるしプレゼントしたら喜んでくれるかな?
「ふむ……。店主、この髪留めを一つくれ」
「まいどあり!三万リアだね!
お客さん、実はこの髪留めには秘密があってね、この先っちょを引っ張ると……」
"ガァァァァァ!!"
「こうやって音が出るのさ!」
いや、音でかっ!?
絶対要らないでしょその機能!やっぱりこの街おかしいよ!
「主君?」
「これはお前にやろう。
寂しそうな顔をしていたからな、それに……」
彩華の頭に髪留めを当ててみる。
「よく似合っている」
「……ありがとうございます」
あ、あれ?あんまり嬉しそうじゃない……?
もしかして好みじゃなかった?
いや、変な音が鳴るからか!?ちくしょう失敗した!!
「そろそろ帰りましょうか? もうすぐお夕飯でしょうからね」
「そうだな」
ああ、最後に決められなかったよ、トホホ……。
~大浴場脱衣場~
デートは最後の最後で失敗しちゃったけど、概ね良かったと思うし、晩御飯もとっても美味しかった。
となれば残るは☆温泉☆だね。
しかも今日は大浴場貸し切り!
皇帝になればこんなことも出来ちゃうのだ!
わっはっは!
普段は気苦労の方が多いけど、こんな時は権力に感謝しちゃうね。
皇帝万歳!!権力万歳!!
それに女将のミカミさんだってニコニコした笑顔で貸してくれたからね。
もうニッコニコよニッコニコ!
これぞ皇帝パワーかな?
てか今更だけど、"みかみさん"で"おかみさん"って……プフ……似て……。
……ブッフォ!!
い、いかんいかん!
人の名前で笑うんじゃない!
心が汚れている証拠だぞ、ラクールよ。
これはもう天然かけ流しの温泉で心を洗い流すしか無いということだな……!!
それではいざ!大浴場へ!!
"ガラガラ!"
「お、お待ちしておりました。主君。」
そこにはタオル一枚の彩華さんが正座しておりましたとな。
……。
……。
……。
なんでじゃあ!!
~東の大森林~
"ガバッ!"
「サヤカァァァ!!……はっ!?」
「ようやく起きましたか、姉上」
馬車を走らせてから数時間、目覚めたディアナに対してロードが声を掛ける。
二人は現在、セレンによって呼び戻されため、急ぎ城に向かっていた。
「さっきのは……夢か」
車輪の音が響く室内で、ディアナが首を振って意識をはっきりさせようとする。
「ずいぶんうなされていましたよ。
一体どんな夢を見ればあんな風に取り乱すのやら」
「いや、ほとんど思い出せないのだがな。
主様とサヤカが温泉で二人きりになって、それから……それから……。あああ思い出したぁぁぁ!!!」
「落ち着いてください姉上、それはただの夢です。
それに、今はそんな呑気なことを言っている場合では無いでしょう?」
「うっ、そうだったな……。
私が眠ってからどれくらいだ?」
「数時間は眠っていたので、もうすぐ着くころでしょう」
「少々寝すぎたな」
「いえ、ちょうど良い頃合いだと思いますよ。
状況によっては、直ぐに戦闘になる事も考えられますので」
外では時折雷が鳴っており、数時間前から雨と共に止まる気配は無い。
「しかし、内部に密偵が忍び込んでいるとはな……。
どおりで簡単に侵入された訳だ、早く情報を届けねばなるまい」
「それだけではありませんよ、姉上」
「ああ分かっている、まさか……」
その瞬間、一際大きな雷鳴が鳴り響く。
「まさか、エルガル様から裏切りの可能性が出てくるとはな」
お読みいただき、ありがとうございます。
次回はハプニングではなく、確信犯でお送りします。




