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皇帝の帰還

処女作になります。

どうぞ愉快な仲間達をお願いいたします。

 今日は最高幹部の宵闇(よいやみ)が集まる軍議の日。

 そしてここはバルファス大陸の帝都にある、エルナス城の玉座の間。


 簡素な、それでいて華やかな作りになっているこの玉座の間は、部屋の主が不在にも関わらず、

その存在感を損なう事が無い。

 これは敬愛する我らの主様(あるじさま)が、自ら手を加えたお陰だろう。

 本当に美しい場所だ。


 私、『ディアナ・ファルシオン』はこの空間に存在できることを誇りに思う。

 あのお方が作り上げた場所で、あのお方のお側で忠義を尽くす事が出来るという事は、私にとってこの上無い喜びだ。

 だと言うのに…。


"ダンッッ!!"


 「ふざけるな!!」


 稀少なアダマンタイトで作られた長机を殴り付け大声をあげるのは、この城の最高幹部である『宵闇(よいやみ)』のメンバーの一人、古参の吸血鬼たちを(まと)め上げる『エルガル・ド・ミルノス』様だ。


「このバルファス大陸を統一した今、他の五大陸がにらみ合いを続ける現状こそ攻め込む好機であろうが!

お前らとて、それが分からぬ訳ではあるまい、特に『ロード』よ!!」


 エルガル様が拳に力を込めすぎたのか、

長机に亀裂が走る。


「しかしエルガル様、主様から賜ったご命令は"我々宵闇があの方に変わり領内を統治せよ"、との事だったはずです。

その命令以上の事を独断でするべきでは無いかと」


「ぐぬぅ!」


『ロード・ファルシオン』

 ロードと呼ばれた金色の髪を持つ青年は私の実の弟であり、私と同じ宵闇の一人でもある。


 ある事件をきっかけに私たち姉弟は騎士として、生涯の忠誠をあの方に誓ったのだが、今は思い出に浸っている場合では無い。

 このままで不味い事になるのだ……。


「あはは……流石に無断で他の大陸を攻めるのは良くないですよね。主君のお力も無しでは厳しい戦いになるでしょうし」


「黙れ!魔法もロクに使えぬ新参者風情が!発言を許可した覚えは無いぞ!!」


「あはは……すみません」


 怒鳴られた彼女の名は龍崎(りゅうざき)彩華(さやか)

 主様が自ら率いれた新たな仲間だ。

 茶色の髪は東の大陸に多く暮らす人間の特徴であり、彼女もまたその美しい茶色の髪を肩の辺りでまとめている。


 そして彩華はまだこの城に来てから日が浅い。

 古参の部隊から認められていないという事実がある。

 しかし、今のエルガル様の物言いは流石に腹に()えかねたぞ……!!


「エルガル様!!今のお言葉を見過ごすことは出来ません!

サヤカは主様が自ら引き抜いた人材です!

その彼女を否定することは、我々の主を否定することと同義です!」


「なんだと!!」


「姉上の言った通りですよ。

サヤカはもはや我々の仲間、それなりの接し方があるはずです。

それに先程から考えておりましたが、栄えある玉座の間に机を持ち込んで軍議をするなど、非常識なのではありませんか?

やはり今からでも場所を移すべきです」


 弟の横顔に冷や汗が流れる。

 宵闇の人数は5人。

 表向きは一括りにされているが、私たちには

序列のようなものが存在する。

 発言をするのにも一苦労だ。

 しかし弟が焦った原因はそこではない。

 弟も知っているのだ。

 私と同じ場所で聞いていたのだから。


「しかしな、長年吸血鬼に仕えたお前たち人狼の一族ならばよく分かるだろう。我ら吸血鬼の誇りを。

新参者がでかい顔をして城内にのさばる事など許されるはずがない!

それにあやつが不在なのだ、玉座の間を使ったところで誰が困ると言うのだ!」


「エルガル様!」


「くどいぞロード!我ら吸血鬼一族の誇りを忘れ、保身に走るか!

そのような事、お前たちの先祖が知れば何と言……」


 このままでは不味い。

 もうすぐのはずだ。

 私たち姉弟は口止めされている。

 故にそれを口実に口論を止めることが出来ない。

 不味い、このままでは…。

 あのお方が…

『ラクール様』がお戻りになられ


 ……っ!!



その瞬間



誰一人として身体を動かすことが

出来なくなった



見えない鎖で縛られたような



呼吸さえも忘れてしまうほどの重圧



目に見えない何かが

一瞬にして皆を黙らせる



あれほど声を荒げていたエルガル様とて例外ではない



しかしこの広い玉座の間を満たす

"これ"を何と呼べば良いのか

私には分からない



相手を殺すような気配では無い



しかし決して逆らう事の出来ない

いや逆らう気も起こさせない

未知の"何か"



これがいわゆる絶対のカリスマ

と呼ばれるものなのか



私程度に推し量れるものでは

無いのかもしれない



ただこの圧倒的な上位者の圧力に

殺気が加わった瞬間

私の身体は生を諦めてしまうのではないかと

そんな予感がしてならない



「!!はぁっ」


 圧が解かれ、誰かが呼吸を思い出したのだろう。

 弟かエルガル様か、私自身かもしれない。

 そのような瑣末事すぐに忘れた。


 ザッ!!


 皆が一斉に膝をつき玉座の入り口へと頭を垂れる。

 我先にと行動した結果が皆の動きを揃えてしまうとは、何とも皮肉なものだ。


 緊張感だけが膨れ上がって行くなか、ついに扉は開かれる。


「同胞たちよ、今戻った」


 漆黒に濡れたような御髪の美しさ。

 魂を震わせるような美声。

 久々に拝見したその麗しいお姿に、涙が込み上げるがグッとこらえる。

 帰還を知らされていた私以外にお応えする事は出来ないだろうからだ。

 心の準備はしていた。

 さあ今、その心からの声をお伝えしよう。



「お帰りなさいませ。我らが主、

『ラクール・ド・エルナス』様!」









 やぁみんな!

 俺の名前は

『ラクール・ド・エルナス』!

 とっても気さくな吸血鬼の皇帝さ、

気軽に☆らくるん☆って呼んでくれよな!!





 はあ…俺は未だに独りで何を言っているんだろうか…。


 この独り言(声に出してないので独り"言"ではない)もかれこれ数百年は続けてしまっている。

 自分で言うのも何だが、

割りと苦労しているのだ。


 俺はいわゆる異世界転生者と言うやつだ。

 前世では大した実力も無いのに学校や社会の中で勝手に祭り上げられ、その外面を保つために苦労してきた。

 それなのに、気付いたらもうなんか

宇宙大戦争的なのに巻き込まれて

あっさり死んじゃってたし。


 しかしお陰で、異世界へ転生できたと実感したときには、それはそれは喜んだものだ。

 これで自分に素直に生きられるようになったぞ!と。


 しかし現実はいつだってうまく行かない。

 今だって…


「久しぶりにみんなと会えるのね!ユリーナ、楽しみで落ち着かないわ!ね?お兄様♪」


「ああ、そうだな」


 今の天使の美声も霞むような、可愛いらしい声の持ち主は、マイスイートシスター(妹)で名前を『ユリーナ・ド・エルナス』という。

妹と言っても血は繋がってないし、

何なら彼女はダンピール、つまり半分人間の半分吸血鬼だ。


 だが、血の繋がりなど関係ない!

 可愛い妹(数百歳ではあるが)という事実こそが重要なのだ!

 それに彼女は俺をお兄様と呼んで慕ってくれている。

 それだけで兄として、これ以上無い幸せだと言いきる事が出来るのだ!


 だが今の妹とのやり取りで分かるように、この数百年で俺の表情筋と感情表現は前世の俺と同じく死んでしまったらしい。

 無表情で「ああ、そうだな」

とか、何だよお前はコミュ障かよ!


……そういやコミュ障だったわぁ。


「そんなにはしゃぐと転んでしまいますよ、ユリーナちゃん」


「はーい♪」


 妹を注意してくれた

 おっとり美声の持ち主は、俺の妻であり元聖女の肩書きを持つ『セレン マークフィル』だ。

 彼女はこの城の政務も担当できるほど頭が良く、さらに美しい。まさに完璧超人。

 あと常にニコニコしてる。


 だが、実は妻であると口に出して言ったことが無い。

 無いけど、周りもそんな感じで扱ってるし、今さら聞くのも怖いので心の中では俺の嫁で通している。後には引けんのだ!!


 さてこの二人についてだが、

ユリーナは人間で例えれば12歳くらいの見た目で、前世の記憶で言うゴスロリファッションが大好きだ。

 しかしコスプレ感が無いのはその幼い美貌のお陰であろう。

 俺にとっては可愛い妹すぎて、目に入れても痛くないくらいだ。


 セレンは見た目16歳くらいの聖女だ。

 物語から出てきたような、まんま銀髪の聖女様だ。

 仮にもヴァンパイア城の幹部が元聖女ってどうなの?と思わないでもないが気にしない。

 彼女もその神聖な美貌から目に入れても痛くない……と言っておきたい所なのだが、

激しく主張する双丘が(まぶた)辺りでつっかえそうだ。


 そして、彼女らはその華奢な見た目に反して宵闇(よいやみ)という、この城の最高幹部の証である称号も持っている。


 そんな完璧ともいえる彼女たちを横に並べて何に苦労してるの?

 と聞かれれば、こう答えるしかない。


 この城の主が俺だから。


 いやいや何の間違いか、このちょっと力が強いだけの吸血鬼があれよあれよと言う間にこの城及び、この大陸を纏めあげる皇帝になっていたのだ。


 この世界『ミーリアヘルシャフト』には六つの大陸があり、その全てで魔法が盛んに使われている。

 今の時代、魔法こそがこの世の全て!の勢いだ。

 もちろん魔法を使えない者も一定数存在しておりは、その者たちは蔑まれながら生活している。

 そして何を隠そう俺も魔法を使えないうちの一人なのだ。


 だというのに俺はこの城の主に相応しい大魔法使いであるだの、万物を見通すかのような類い稀な頭脳の持ち主であるだの、いろいろと気が滅入るような勘違いをされてしまっている。


 魔法も使えないし、頭も別に良くないよ…。


 今までは得意の身体能力と鉄面皮(てつめんぴ)で誤魔化してきたけど、それも何時までもつか……


 ああ、昔は良かったのになぁ。

 近接戦が主流の時代はまだ活躍できてた。

 みんな、いきなり流行りだした魔法にすぐに適応しちゃって、俺だけ取り残された感じだよ。


「そろそろ玉座の間ね♪」


 もうそんなに歩いたか、結構長い廊下なんだけど考え事しすぎたかな。


「ラクール様、玉座の間に到着しましてございます」


 うんうん、そだねー。


「みんな揃ってるみたいね♪」


 うんうん、そだね……て、そんな馬鹿な!!


 ディアナには帰るの内緒にしといてねって言ったはずだぞ。

 勢揃いしているハズがない。


 いや、でも間違いない。

 扉の向こうから白熱した声

(主にエルガルの)が聞こえる!


 ディアナは優秀だけど時々ドジだからなぁ。

 騎士っ娘の面もありドジっ娘の面もあるのだ。

 でも、しっかり者のロードも一緒に居たんだから忘れてたってことはないだろう。


 となると、エルガルか。

 あいつ「玉座の間で会議など、誇り高き吸血鬼にぴったりではないか!はっはっは!!」

とか言いそうだしなぁ、馬鹿だなぁ。

 うん!間違いなくあの馬鹿のせいだろう。


 ただ、最近は少し様子がおかしい気がする。

 焦ってるといえば良いのかな?

 何だか性格が変わったんだよね。


 今度あいつが欲しがってた秘蔵の酒出して、悩みでも聞いてやるか。

 聖水が入ってた瓶に隠してるから、誰にもバレてはいないはず!


「ちょっとー!お兄様が帰って来るのにみんな騒がしいよね!ユリーナが静かにさせちゃおうか?」


「いや、構わん」


 うーん、可愛いけど

君に任せたらどうなるか分からないからね?


 しかしどうしたものか、帰って来て早々こんな事じゃ、先が思いやられるなー。

 うおー、ストレスじゃあ!

 ストレスで"お腹の腹痛が痛い"んじゃあ!


「「ぐっ!?」」


 あれ、二人とも苦しそうにしちゃってどうしたの?俺の心のギャグ、通じちゃった?


 今のはギャグは重言(じゅうげん)って言いますねん!

 頭痛が痛い的なやつね?へっへっへっ。


「っ!!お兄様!」


「……!ラクール様、中の方も静かになりましたので、もうよろしいのではないでしょうか?」


 ん???


……


……


……


 あっやばい!

 解除!!解除!!


 久々にやってしまった、心の声なんて通じるわけないよな……。

 今俺は、無意識に能力を発動してしまっていたらしい。相手を威圧するような能力だ。

便宜上、《霊圧(れいあつ)》と呼んでる(かっこいいから)。


 転生して初めて霊圧が発動したときはヴァンパイアの固有能力かと思ったが、どうやら俺だけしか持っていないらしい。

 俺専用だと分かったときには小躍りするほど喜んだものだが、この能力には欠点がある。


 第一に制御が難しい。

 感情が激しく動いた時に発動しやすいのだが非常に分かりづらい。

 例えば、幸せの絶頂で安らいだ状態の時なんかは発動しないし、似ている状態の嬉しさで狂喜乱舞した時なんかは不意に発動してしまったりする。

 平常時に任意で発動できないか試したけど、ほとんど成功しなかったしね。


 第二に敵味方関係なく発動する。

 これは、例えば戦場で不意に発動

してしまったとしよう。

 すると、敵味方同時にストップしてしまい、俺だけ動けます状態になってしまう。

 とても気まずい。


 よってこれは封印することにしたのだが、

最近は穏やかな気持ちでいることが多かったので、ついつい油断して発動してしまったらしい。

 てへぺろ☆


「はぁ…はぁ…流石お兄様ね、

みんなも迎える準備が出来たみたいだし、さっそく入りましょ♪」


「ラクール様がお帰りになられたと知れば、皆も喜ぶことでしょう」


 えー入りたくないなぁ。


 無邪気なユリーナと常にニコニコしているセレンのお陰で、俺は今なんとか平静を保てている。


 でも扉の向こうから音一つしてないんだよね!

 嫌な予感がぷんぷんなんだよね!

 なに?みんなおこ?おこなの?

 さっきのはそんなに怒る事なの!?

 俺は悪い吸血鬼じゃないよ!だから許して!


 だあー!もう行くしかない!

 みんな仲間だ、そうだ仲間アピールして入れば大丈夫!

 みんなの皇帝が今帰ってきたよー!

 だから怒らないでねー!


「同胞たちよ、今戻った」


……あ、あれ?みんな伏せてる?


「お帰りなさいませ。我らが主

『ラクール・ド・エルナス』様!」


いや怒って無かったんだね!

良かったー!!

ただいま!!

お読みいただき、ありがとうございます。


☆らくるん☆には、ぜひ勘違いで苦労していただきたいです。

それもイケメン吸血鬼の責務だと、私は思います。

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