現実味のある突飛な夢の話
血の感触も、温度も、その滑らかさも知らない。
だが、俺は知っていることになっているし、目の前の惨状を現実に忠実だとも思った。
霞んだ目を凝らすと、離れた場所に足が落ちている。
足先からふくらはぎへとゆっくりと目を這わせると、それらが女のものであることがわかった。
細いし、ペディキュアも塗ってあるし、つるりと滑りがよさそうな肉をしている。
もちろんそれだけで性別などわからないのだが、俺はその推測が正しいと疑うことはしなかった。
太ももから付け根を見て、ようやくこれらが一人の両足であることに気がついた。
この女は、股の中央から切断されていた。
ここら辺の記憶はあまりないし、本当に見たのかもわからないが、とにかくそういうことになっている。
しかも、顔を見てないのに、よく会う女性だということもわかった。
少し記憶が飛んで、目の前には女性を切断したであろう犯人がいた。
どうやら俺は何かしらのゲームに負けたことで、この女性は真っ二つにされてしまったらしい。
ゲームは数回行われ、その度に股から十センチずつ頭に向かって切られたようだ。
それは申し訳ないと思うべきだし、犯人に対しては恐怖を抱くべきである。
しかし、俺は前述の通り、ずっと血を見ていたのである。
これは夢の話だ。
起きてからもう何時間か経ち、また寝るところだが、未だに赤くて暖かかったであろう血のことだけを考えている。
夢などいわば空想であるため、さっさと忘れてしまいたいものだ。
ただ、血の他にもひとつだけ考えていることがある。
あの視点は俺自身だったのかということだ。
仮に俺じゃなかったとして、誰の悲惨なシーンを見させられていたのだろうか。
俺からしたらあの女性は知り合いじゃない。
全くの赤の他人である。
そして、もし俺自身の視点だった場合、それはそれで恐ろしい気もした。
夢の中での思考はもちろん、今もこうして夢のことを考えているということは、現実に確実に侵食してきているからだ。
突飛な理屈であるが、それも夢に侵されているせいなのかもしれないと思えてしまうことが、より恐怖を助長させている。