2話
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「わ! ちょっと遅れたか~、急ご お兄ちゃん」
翌日の土曜日、朝7時の開店と共に、人がたくさん入って行くバーガーショップ。匠斗と舞も遅れないように、何とか席を確保した。
「じゃ、ココで待ってろよ舞、今注文してくるからな」
「うん、ありがとう」
なんとか席を確保して、匠斗が注文しに行ったが、注文カウンターも、結構人が居る、席が取ってあるのだから、安心だ。
予定のセットを二つ頼んで、番号プレートを持って戻って来て、テーブル席から見えやすいように置く。
「凄いな早朝から。やっぱみんな殆ど同じセットを頼んでいたな」
「だね。あと 空いているテーブル席が二つしか無いね」
「早めに来て良かったな」
「うん」
そう言っているうちに、店員スタッフがセットを持ってきてくれた。
「ごゆっくり」
と言って、戻って行く、忙しそうだ。
「しっかし、こんな朝早くから普通混まないだろ?.....って、俺たちもその一組なんだな」
「でも早めに来てよかったよ~、ほら、もう席無いじゃん」
周りを見ると、先ほどまで空いていたテーブル席が塞がった、満員だ。 座れない人達は、テイクアウトかドライブスルーに変えていく。
店内に入った一人の女の子が周りを見て、諦め顔になって店を出ようとした時に、その女の子と目が合った。
大きく見開いた目がこちらにくぎ付けで、次の瞬間近づいていきた。
そして一言。
「あの~.....、青木 匠斗くんだよね?」
その女の子は、少し首を傾げて言い、その時に少しだけ肩に乗っていた、セミロングの黒髪が揺れてハラリと揺れ落ちた。
「え...っと、確か 村上さんだったよね? 村上 凪穂さんだっけ」
凪穂は少し微笑みながら。
「そうよ青木くん」
凪穂が続ける。
「あの、お願いがあるの」
「なに?」
少し凪穂がモジモジしながら言う。
「えっと.....そこの空いた席、私座っていいかな?」
匠斗と舞は3人掛けの小さな丸いテーブル席なので、あと一つ席が空いている、そこを凪穂が指を指して言う。 それと、この込み具合を察して、舞が。
「あ、どうぞ、いいですよ、あと私達以外誰も来ませんから」
「いいかな? 青木くん」
今度は匠斗に瞳を向けて言った。
「いいよ、俺たちも今から食べ始めるところだから、早く注文してきたらいいよ」
すると、凪穂は満面の笑みで。
「ありがとう、ささっと行ってくるね」
「ああ」
言うが早いか、凪穂は注文カウンターに向かった。
「なになに?お兄ちゃん、あの女の子の事知っているの?」
「同じクラスの女の子だよ。 食べるぞ舞」
「は~い」
「「いっただっきま~す!」」
二人は待ち望んでいた、期間限定のセットメニューにかぶりついた。
食べながら匠斗が言う。
「しっかし毎年やってるこの期間限定って、こんなに人気があったんだな」
「そうだよ。 私コレの為にお小遣いを使うのを我慢していたんだ」
「なんだ? 600円なのに?」
「違うよお兄ちゃん。期間が短い分、何度でも楽しもうと、溜めたんだよ。 えへへ」
「はは.....敵わないな 舞には」
「えへへ。でもね、その時は友達もだけど、それ以外はお兄ちゃんについて来てほしいいの」
「一人じゃあ来辛いからな」
「そうなんだ~」
兄妹が会話していると。
「おまたせ~......って、待ってないか、お邪魔しま~す」
凪穂がトレーを持ってやって来た。
「一緒だな 村上さん」
「あ、堅苦しいから、凪穂でいいよ 匠斗くん」
席に座った凪穂が、微笑んだ。
「忙しいみたいですね、私達の時には、スタッフがトレーを運んできてくれたんですよ」
「えっと..........」
「あ! 妹の舞です 青木 舞。兄と一緒の高校で、一年です」
何故かホッとした顔をする凪穂。
「舞ちゃんね。よろしくね」
「はい!」
「うふふ、可愛いわ~」
このやり取りを見て、匠斗は首を傾げた。
「なに? 匠斗くん、不思議そうな顔して?」
察していたのが分かったみたいだ。
「いや、何て言うか凪穂って、学校とイメージ違うよな」
「どういう事?」
凪穂は、学校では大人しく、かといって陰キャの様な物静か と言う訳でもない。 それでも、普通にクラスメイトとはコミュニケーションをいい具合で取っている。 ただ結構一人で休憩時間はスマホを片手に、ひたすら何かやっている姿が印象的だ。
「う~~ん、何て言うか、こう言っちゃ何だけど、陰キャではない陰キャかな?.....あ、気分悪くした? ゴメン」
「いいよ。 へえ~、私って傍から見たらそんな風に見えてるんだ~」
「でも、今日初めてまともに話したけど、結構 普通な女の子なんだな~って思ったよ」
「あれ?褒めてる?」
「印象なんだけど...」
二人の事をジッと見ていた舞が、たまらず言った。
「ねえねえ、お二人さん。今はこの セットメニューを楽しもうよ~」
「「あ!!」」
「そうだった、今はコレを堪能しなくては」
「そうだね、匠斗くん」
今まで全くコミュニケーション取っていなかった凪穂とのやり取りだったが、こうやって偶然だか何だか、会話まですることが出来、抱いていた印象が、180度 ひっくり返ってしまった。
匠斗は、食べ終わった後少しだけ、スマホを取り出し、いつものアプリを開いた。
それをチラ見した凪穂の瞳が見開いて。
「匠斗くん、そのアプリ!!.....いつから入れてるの?」
驚くように言う凪穂に、匠斗が一瞬驚く。
「あ! びっくりした。何だよ?」
「いえね、そのアプリって小説が読み書きできるヤツよね」
「そうだが、何か?」
「あ、いえいえ、いいの、ゴメンね大声出して」
「い、いや いいけど...」
それを見ていた舞が、またもや言う。
「お兄ちゃん、そろそろ時間だよ?」
匠斗がスマホの時計を見ると、もう9時前だった。
「わ! あぶね~、教えてくれてありがとな、舞」
「いいよ、私に付き合ってくれたんだから」
「何か予定でもあるの?まだ朝早いのに」
「はは、勉強会だよ。オレ頭悪いし」
「そうなの?」
ちょっと グサッと くる匠斗。
「そうなんだ、だからコレから親友と、その彼女と勉強会なんだ」
「もしかして、いつも良く喋っている、えっと.....えっと.....そう、加藤くんだったっけ?」
「あれ、知ってるじゃん、なんだかんだ言って」
「ま、一応クラスメイトだからね、話した事無いけど」
「亮 って、加藤 亮がフルネームなんだが、その彼女が勉強を教えてくれるんで、大学受験に向かって、早めにこの春から準備って事なんだ」
「へえ、偉いね、今からやるなんて」
「で、その加藤くんの彼女って?」
結構グイッと来るんだな、凪穂って、と思いながら。
「隣のクラスの 木下 葵 だけど」
「え!! あの 木下さん? いつも学年上位の?」
「知ってるの?」
「張り出しにいつも居る常連じゃないの、いいな~」
「何が?」
「勉強教えてもらって...」
またまた舞が。
「ねえねえ時間が来ちゃうよ お兄ちゃん」
「あ、いけね! 両親のも買って、そろそろ行かなきゃ」
忙しく、後片付けをしている兄妹に、凪穂が。
「ねえ、匠斗くん 私も入れてもらえないかな?.....ダメ?」
「ええ?・・・・・」
それが始まりだった。