1話
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青木 匠斗と 村上 凪穂は高校3年生、平凡な二人が出会うだけの話。
この二人は、至って普通で、コレと言って突起している部分など無く、極々普通な一般市民である.....が。
◇
高校3年となり、今まで何の色恋沙汰もなく過ごしてきた匠斗だが、今年、同じクラスになった小学校からの唯一の親友である 加藤 亮に、最近彼女が出来て、それを聞いた匠斗は、羨ましくってしょうがない。 でも、その亮の彼女が、匠斗も良く知っている女の子だったので、驚きだ。
「匠斗、もう大学は決めたのか?」
「いやまだだが、お前は決めたのか? 亮」
週末の金曜日、昼休憩。進学の話であるが、匠斗は残念な事に、学年成績はあまり良い方ではない。
「オレは葵と一緒の大学に行く事にした」
葵とは、亮の彼女で 木下 葵だ。 亮も葵も、匠斗とは、小学校からの友達で、今まで唯一の女の子の友達だ。亮と一緒で、気さくな関係で、話していて楽しいし、意外にこの二人、匠斗の事を親身になって心配もしてくれる。
「いいな~。この幸せもんが~」
「ははは、ま、俺が入れればだけどな」
「全くその通り」
「お、言うねえ 匠斗。オレと一緒なくせに」
「全くだ、こまったな」
二人の成績は、学年270人の内、100位前後が定位置である。 成績まで親友である。
「あなたたち、そこ笑えるトコじゃないでしょ? ホントにもう...。自分の立ち位置を考えてなさいよ」
葵がいきなり二人を叱りつけた。
隣のクラスなので、しょっちゅう遊びに来る。
「スマン、葵。」
「匠斗も もっと成績上げなくちゃならないのに、まだお尻に火が付いてないのね」
「葵、オレも怒られるのか?」
「と~ぜん! 三人で、一緒の大学に行くんでしょ? 頑張りなさい」
葵の成績は学年でいつも20位以内に居るので、何とも言えない二人。
「頑張るって...今からやっても間に合わないと思うけどな~」
「何言ってるの、私がまとめて二人面倒見るから、今週末からでも始める? 例の勉強会の話」
「オレはいいぞ、匠斗はどうする?」
以前から 匠斗と亮は、成績があまり良くない。
亮が葵と付き合った時期から、このままこの3人で、同じ大学に行きたいと言う、無謀なこの男子達を、何とかしないと、今年でこの関係は終わってしまう。 それがイヤで、じゃあ 勉強会を開いて、葵に受験時期まで教えてもらおうと、毎週の勉強会の開催を計画していた。
匠斗は少し考えながら。
「俺がそこに入ると、二人のお邪魔じゃあないかな......」
「な~に言ってるの、来なさい 匠斗。今からでもやって行けば、必ず結果は出てくるから」
そうして、この3人はコレからの勉強会の予定をたてていった。
◇
「そうなの。毎週末なの?」
学校で決めた勉強会の事を、家に帰った匠斗は 母親の恵に話した。
「そうなんだ、今週末から、用事がない限り、毎週土曜日の午前中だけ、いつもの三人でやる事になったんだ」
「いつものって、亮くん と葵ちゃんの事かな?」
「うんそうだよ。で、場所なんだけど、毎回持ち回りって言うか、お互いの家を順番に回ると言う事にしたんだ。いいかな?母さん」
恵が嬉しそうに。
「いいに決まってるじゃない。匠斗もやっとやる気を出してくれたのね、お母さん嬉しいわ」
(母さん違うんだ。じつは、俺が大学に行っても、3人と居たいと言う、簡単な理由なんだよ(匠))
「あ、ありがとう母さん」
そこへ、妹の舞が学校から帰って来て、いきなりの一言が。
「ただいま~!...って、お兄ちゃん、お母さんにお小遣いアップの相談かな~.....」
「何だ舞、部活はどうした?」
「今日は先生が会合でお休みになりました」
「でも、吹奏楽だろ? ロングトーンでも出来るじゃないか?」
「そんな.....、早く帰りたかったんだもん!」
「そうか.....]
舞が目を光らせて。
「で、お小遣いは?」
「違い違う! 勉強会の話だ」
「うわ!! 朝日が西から上がりそう」
「お前な~...」
「だって信じらんないもん。 お兄ちゃんが 勉強だなんて」
「俺を何だと思ってるんだ」
「ただの 平均 平凡な 高三かな?」
聞いていた恵が。
「それはホントの事よね、舞」
「母さんまで.....]
「だって、舞は高一でも、学年15位が平均なんだから、見習ったら? 匠斗」
「う~..........」
「あはは、お兄ちゃん落ち込まないで」
「う~..........」
「匠斗、サイレンじゃあ無いんだから」
「勉強会、自分なりに頑張ります」
「よろしい!」
三人で笑った。
「ところでお兄ちゃん」
「なんだ?舞」
「明日なんだけど、空いてる?」
「さっき言った勉強会が10時からなんだ」
「そっか~.....」
少しシュンとする舞。
「何か言ってみな舞」
「あ、あのね」
言い辛そうに言ってみる。
「いつも良く行くバーガーショップで、今日から新しいセットが出たんだ。一人で行くのがイヤだから、お兄ちゃんが一緒に行ってくれないかな~なんて.....」
「それ、何時からだ?」
「朝メニューになってたから、朝7時からだよ」
「お~、だったら行けるぞ。 オレ、9時半まで家に帰れば、亮の家には軽く間にあうからな」
「うわ!ありがとう お兄ちゃん、愛してるから~」
「はいはい、愛されてるな~オレ」
それを聞いていた恵が。
「だったら、お父さんと私の分、テイクアウトしてきてくれない? 全額出すから」
「わあい! やった~お母さんありがとう」
「私達いつものヤツよ、舞。お願いね」
「は~い」
このバーガーショップが、後の匠斗の人生を変えるとは、本人は思っても見なかった。