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17の魔剣と銀の君  作者: 葛城 駿
紅い断罪編
27/38

プロローグ

夜の港に低い汽笛の音が響いた。今夜の最終便だった船から、続々と乗客や積み荷が降ろされる。

人混みでごった返す中、夜の暗さでも一際目立つ深紅の髪がすれ違う人々の視線を奪った。夜も更けてきた頃合いにも関わらず、深紅の髪が風に揺れる度に振り返り、又は凝視する人々がいた。しかし、当の本人は全く興味がない風に、ただ無造作に払うだけだった。

人々の視線を奪う若い女性に着き従うように歩く、まだ子供と言っていいような少年2人が、それなりに多い荷物や旅行カバンを持って遅れないように歩いている。少年の片方がヒィヒィ言いながら女性に声をかけた。


師匠(せんせい)、僕たちは荷物の配送を頼んで来ます。お疲れでしたら先に宿に入っていてもらえますか?」


「あら、気遣いは不要です。あなた達は荷物の手配をつけたら学長に手紙を届けなさい」


「こんな時間にですか……?」


(わたくし)を呼びつけたくせに、当の本人はもう休んでいるなどと私が許しません。まぁ、どうせ雑務に追われて死人のような無様な格好で書類と懇意にしているはずですから、私からの遣いだと言えば通してくれるでしょう。

それでも断られたら、私が直々にその怠慢を断罪して差し上げます」


「わ、分かりました。では、師匠はどちらに?」


「久しぶりの古巣ですもの、馴染みの店に顔を出すくらいは大丈夫でしょう」


女性……、レイラ・ヴァーミリオンは荷物を持って遠ざかる従者2人とは違う方向に向かった。

向かう先は、細い路地を入った奥にある、地元の人でも知らないような小さな店だった。レイラは勝手知ったように堂々と扉を開けて中に入る。店内は見た目通り、5人も入ればぎゅうぎゅうの狭さで、既に二人組の客が飲みながらカードに興じていた。


「ごきげんよう。店主は息災かしら?」


客がちらりと目を向けたのを、視界の端に捉えつつ、無視する。用があるのは店主のみだからだ。

同じく狭いカウンターに立っている男が無言でカウンターを指で叩いた。何か注文しろ、ということだと判断したレイラは一言だけ告げた。


「クライムヴァインの愛した酒を」


「…………。少し待て」


カウンターの男が奥に引っ込む。客の二人組はいつの間にかいなくなっていた。

しばらくして、杖を突いた老人が奥から出てくる。老人はカウンターの向こうに立つレイラを見て、一言。


「誰かのぅ?」


「下らない茶番はけっこうです。私も忙しいので手短に済ませたいのですから」


「えらい別嬪さんだのぅ。ワシの孫の嫁か?」


「言いましたわよ?私は忙しい、と。思い出せるまで指先から燃やして差し上げましょうか」


「……相変わらずおっかない。ちょっとしたお茶目だろうが」


老人の喋り方が一転して若い男のものとなる。直前までの弱々しい老人の雰囲気はあっという間に霧散しており、今はピリピリとした緊張感が漂っている。


「昔から変わらんな。せっかくのキレイな顔がもったいない」


「あなたに誉められても微塵も嬉しくありませんわね。下手な社交辞令はやめて本題に移りましょう。あと、いい加減に姿を戻しなさい。話しづらい」


「はいよ。全く、もう少しくらい引っ掛かってくれてもいいじゃないか」


老人?が杖で床を叩いた瞬間、そこにいたのは老人ではなく、スーツを着こんだ若い男だった。


「見た目だけはそこそこ整ってるんですから、下手な小細工などしなければいいのに」


「微妙な誉め言葉ありがとよ。レイラ、お前がわざわざ来たのは学長に魔力の融通でも頼まれたからだろ?」


「その通り。この程度は予想がつくでしょうね」


「で?忙しいお前が魔力の融通を目的に来たのに、オレのところに顔を出したのはどんな理由だ?」


「あなたのような人の元に来るならひとつしかないでしょう。


そうですわね、学園都市で3年以内に起こったあらゆる特筆事項をまとめて出しなさい。期限は明日の昼まで、対価は情報の内容によって出しましょう」


「明日の昼だと!?急すぎるだろ、もっと時間をくれよ!」


「黙りなさい。割り増しを企んだところで無駄です。さっさと用意しなさい」


「……クソッ、バレてやがる……」


「お土産を置いて行きますから、ちっぽけなやる気をさっさと出して励みなさい」


レイラは何気なく自分の手を握った。一瞬だけ、手の隙間から炎が漏れたが、再び手を開くとそこには紅い宝石のようなものがひとつ乗っていた。


「げっ……!そんなもん、いらねぇよ!」


「期限内に用意出来なければ……、分かってますわね?無事に守れたならば、対価と共に差し上げます。使い方はご自由に。……ただし、悪い使い方をしたら私が地の底でも追いかけて断罪しますわ」


「ちくしょう……、そんなの逃げられねぇよ。まぁ、とんでもない切り札を手に入れたと、前向きに考えればいいか……」


「勝手にしなさい。私は『止まり木』にいますから、用意ができたら届けなさい。ではまた」


返事も聞かずにさっさとレイラは店から立ち去った。行くべきところはまだいくつかあるからだ。そのまま、更に学園都市の深い場所へと進んで行く。月の光も届かない、正に学園都市の深奥へと。




***




言うだけ言って本当に帰ったレイラに、男は疲れたように苦笑いする。思えば、昔から自信に満ち溢れていたレイラだが、今もその通りだというのは確かにそうかも知れない。

男がカウンターの椅子に腰を下ろして、レイラの置いて行った紅い宝石?を手に転がしていると、最初にカウンターにいた男が遠慮がちに声をかけた。


「アニキ、今のは?」


「昔馴染みだよ。学園の生徒だった頃、同じ班でよくつるんだもんさ」


「さっきの人、もしかして……」


「やめとけ、お前は知らないままの方が良い。それより、他の仕事を後回しにして最優先だ。今日は徹夜だな」


「了解です」


手下の男が奥に下がったのを見つつ、男は手元の宝石のような何かを転がす。


「全く、昔と変わらなすぎだろ。目的のために利用できるものは脅迫してでも使う、とかさ。これひとつでこの辺一帯が焦土になるってのに……」




***




レイラが宿に戻った頃には、既に夜明けまでもう少しといった頃合いだった。さすがに、寝ずのまま夜通し歩き回ったのは疲れた。今回は休暇の意味も持っていたから普段よりも、幾分か疲れを感じたことに、レイラは改めて気付いた。


「朝食までにお風呂を済ませなければならないわね」


こちらも、勝手知ったように裏口から宿へと入った。さすがに中はまだ薄暗く、店が稼働するのにも早かったようだ。

迷う素振りもなく、階上へと進み、いくつか部屋を通り過ぎてからひとつの部屋の前で立ち止まる。扉には一枚のカードが差してあった。


『レイラ・ヴァーミリオン様。

荷物は運び込んであります。部屋の鍵はお供の方に預けてあります』


というメモ書きがあった。宿の従業員の手書きだろう。

レイラは隣の部屋をノックもせず開けた。中のベッドでは従者の2人が寝ている。しばらく、無言で立っていたが無造作に手のひらに火の玉を作り出した。瞬間、2人が跳ね起きた。


「誰だ!?」


2人が揃ってレイラに向かって構えたのと同時に、レイラは2人の首元に炎の矢を突きつけた。


「減点ですわ。最低、私が宿に入った時点で起きていなさい。常日頃から私からの課題を念頭に置いて行動すること。いいですわね?」


「はい、申し訳ありません。師匠」


「よろしい。では鍵を出しなさい。朝食の後に学園へ向かいますから、それまでは自由時間にしましょう。まだ眠っていても構いませんわ」


「師匠はお休みにならないんですか?」


「不眠不休の活動など慣れていますし、その気になれば魔法でなんとかなりますもの。それに引き換え、あなた達はまだ成長期なのですから、無理に私に合わせても録な結果になりません。自分の限界をちゃんと理解した上で、計画的に日々を過ごさねばいくら無理を重ねたところで無意味ですわ」


レイラはそのまま2人を残して部屋から出た。ドア越しにベッドに入り直す音が微かに聞こえたのを確認して自室へと向かう。

鍵を使って部屋に入ったレイラは軽く手を振った。細かい火の粉のようなものが部屋中を漂った後、フッと消える。


「……立場上仕方ないとはいえ、馴染みの宿の部屋でも対策を講じなければならないのは、残念ですわね」


やや自嘲気味に言うレイラは気を取り直して、扉脇にまとめてある己の荷物を開けた。3つある旅行カバンのうち、一つは仕事関係の書類や事務用品がパンパンに詰まっていた。……実はこのカバンが一番重かった。

後でチェックする予定の書類をテーブルに山積みにして、次のカバンを開ける。中は着替えなどの衣類だ。適当に掴んでベッドに放り、最後のカバンを開ける。こちらは生活雑貨だった。


「ええと、これと……、こっちもね」


少し手間取りながら洗面用具を取り出す……のを諦めて、レイラは火の入っていない暖炉に向かって手を振った。

すると、燃料も無しに勢い良く燃え上がった。そのまま、暖炉に向かって話し始めた。


「ゴウラ、私の屋敷と繋ぎなさい。相手はフィズよ」


『フィズ、呼ぶ、レイラ、待て』


暖炉の炎がぐにゃぐにゃとうねり、エコーがかかったような声が応答する。数秒後、今度ははっきりとした女性の声が暖炉から届いた。


「レイラ様、フィズ参上しました。何なりと、どうぞ」


「夜分遅くまでご苦労様。悪いのだけど、洗面用具は何を使えば良いのかしら?」


「……だからあれほど女性のお供を連れて行くように、と言いましたのに。こうなることが予測できたから、先んじて言ってあったのですよ?」


「次からは気を付けます。それで、どれかしら?それとも、どれでもいいのかしら」


レイラは貴族なので、身の回りのことは基本的に従者やメイドの仕事である。なので、洗面用具と言っても、普段自分が何をどのように使っているのかあまり把握していないのであった。


「お待ちください。持って行った洗面用具のリストを確認します。……分かりました。私の言う通りのものを出してください」


それから、レイラは暖炉の声に説明されながらカバンから道具を引っ張り出した。レイラからして見れば、どれも同じようなもので少しうんざりした。

督務とはいえ、貴族は貴族。興味がないと言えども、人前に出る以上は、貴族として恥ずかしくない格好を常日頃から心得なければならない。

学生の頃から、督務の仕事にしか興味がなかったレイラは、自分を着飾る、又はそれに類する事柄が面倒で仕方なかった。故に、普段着は華やかさよりも、動きやすさ重視でシンプルなものに落ち着いた。貴族として、社交用のドレスも持ってはいるがあまり袖を通さないのが現実だった。

結局、フィズと呼ばれた声に半分説教のように使い方まで教わったレイラは、逃げるように手を振った。暖炉の炎が抗議するように荒々しく揺れるが、そのまま消えた。


「ふぅ、フィズったらお小言がどんどん長くなるわね」


屋敷ではない上に、誰も見ていない宿の部屋では取り繕う必要はないと判断したレイラは、その場で豪快に衣服を脱ぎ捨てる。脱いだ服はそのままに、着替えと洗面用具だけを持って浴室に消えて行った。少しして、水の流れる音だけが扉越しに響いた。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

気にいった所などがありましたら感想など、残してくれると嬉しいです。

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