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17の魔剣と銀の君  作者: 葛城 駿
学園都市編
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エピローグ

ペンが紙の上を走る音だけが響く一室。その中で書類がうず高く積まれた執務机に向かう学長、ガルバー・ラインスロートはペンを走らせる手を止めないまま、深いため息を吐いた。

その様子を隣の補佐用の執務机から見咎めたメルア・ドーリッシュが、「お茶にしましょう」と声をかけた。


「ありがとう、メルア君。今日も美味しいよ」


「ありがとうございます。それより、やはり厳しいのですか?」


「うーん……、なんとか遣り繰りできるかと思ったんだけど、やっぱり厳しいだろうね」


「無理もないでしょう。街の修復、防御、その他にも学長が魔力を回すべき場所は数多くあります。いくら学長が魔導元帥と言えども、その魔力にも限りがあるのですから」


「だからと言って、弱音を吐けないのが僕の立場なんだよね」


「それは仕方ありませんが……、その、学園都市の深部の方々に助力を頼めないんですか?」


「それは難しいんだ。既に事件解決に助力してもらったからね。むしろ、不甲斐なさのお叱りを受けたくらいだよ」


疲れたように笑う学長が肩をすくめる。目の下のクマやボサボサの髪、うっすらと見える無精髭がやつれた印象を更に強めた。


「では、どうするつもりなのです?」


「……あまり良い顔はされないだろうけど、昔の教え子に頼るよ。魔力の量は僕より上だし、とても優秀だ。学園都市の卒業生でもあるから、なんだかんだと助けてくれると思うよ」


「そのような人物がいるのですか?」


「貴族でとても忙しいからなかなか会えないけどね」


久しく会っていない、かつての教え子を想う学長を横目で見つつ、メルアは学長の机に大量の書類を追加する。その量に唖然とした学長に一言。


「では、休憩はもう終わりですね」


抵抗もせず、疲れた顔で書類に向かう学長を見て、メルアは己の机に積まれた大量の書類を見る。ため息を吐きたい衝動を押し殺して、再びペンを取った。

それから数時間、黙々と作業を進めていたところでドアがノックされた。メルアが入室を許可すると、「失礼」と言いながら入ってきたのはフィニアスだった。


「忙しいところすまんが報告だ」


「大丈夫だよ。何かな?」


お茶を入れようと立ち上がったメルアを片手で制しながら、フィニアスは手に持った資料を見た。


「例の巨大魔獣だが、粗方の調査が終了した。ノーマン・ニルギリスが使用した薬品と魔獣については、ほぼ全ての特定が済んだと思われる。検体の一部を採取したら処分してもいいか?」


「まずはお疲れ様。短い期間でよくやってくれた。魔獣の部分については処分してもいいけど、ユーリ・アデレードの母親部分は分けてやってくれないか?」


「その部分は既に分離済みだそうだ。ただし、貴重な検体であることに変わりないから、同様に一部を採取させてもらうが。ちなみに、ユーリ・アデレード本人からは了承を得ている」


「彼女から了承を貰っているなら構わないよ」


「了解した」


フィニアスが手元のメモ帳に書きながら、顔を上げずに学長へ問いかけた。


「そういえば、魔力の件はどうなった?そろそろどういうつもりなのかを話し合っておかねば、こちらとしても体制を整えられんぞ」


「前にも話したけど、現状の学園都市の魔力だけでは修復と防衛が精一杯だね。学園関係者から魔力を供給しても、有事の際に対応しきれないのでは意味がない。だから、外部に頼ろうと思う」


「外部の協力機関か、卒業生か?だが、もうすぐ夏前の豊作祈願式があるだろう。どこも魔力は温存しておきたいはずだが?」


「それも考慮した上で、レイラ君に頼もうかなってね」


「レイラ……、レイラ・ヴァーミリオンか?しかし、ヴァーミリオンは督務貴族の代表格だろう。確かに魔力は申し分ないが、母校とはいえ督務の仕事を後回しにしてまで助力に来るか?」


「それは頼んでみないと分からないなぁ……」


学長が腕を組んで考え込むと、自分のデスクで事務仕事をしていたメルアが手を挙げた。


「横入りですみません。督務貴族とはなんでしょう?普通の貴族とは違うのですか?」


メルアの質問に答えたのはフィニアスだった。フィニアスは少し難しい顔をしながら説明する。


「全く違うな。そもそも、貴族とは各国の王や皇帝などの権力者から民衆をまとめる役目を担わされた家のことだ。当然、そうなればある程度の権力を持つことになるが、貴族はどれだけ権力を持っていようが、基本的に自己犠牲の精神を求められる。……が、全ての貴族がそれを遵守するとは限らない」


そこで言葉を切ったフィニアスは更に眉を寄せて語った。


「例え貴族を名乗っていようが、人間である以上はどうしても欲が出る。なまじ、権力も持っているから増長したり、悪事に手を染める連中も出てくる訳だ。そこで、必要とされるのが督務貴族となる」


「つまり、貴族を取り締まる貴族ということですか?」


「そうだ。どんなにクズ貴族だろうと権力は持っている。下手に手出しをすれば厄介事がこれでもかと雪崩れ込んで来る。そのために督務貴族というのが誕生した訳だ。そして、督務貴族はそれ以外の権力を持たない。理由は分かるな?」


メルアは頷いた。督務貴族の権力がそれのみなのは、貴族を取り締まる貴族が自由に権力を行使できるとあっては意味がないからだ。故に、督務貴族は取り締まることしかできないのだろう。


「その、ヴァーミリオン家は督務貴族として有名なんですか?」


「督務貴族も国毎にそこそこの数がいるが、最も活発に活動しているのがヴァーミリオンだ。代々の当主やその家族、親族に至るまで督務の活動をしているようだ。個人ではなく、ヴァーミリオンという貴族に与えられた二つ名は『断罪』。貴族からは『貴族狩り』と陰口を叩かれているな」


「そんな家の人がここの卒業生だったんですか……」


やや、恐れの入った感想を漏らすメルアに学長が笑う。学長は棚から封筒を出すとメルアに手渡した。封筒には書類が大量に入っていた。


「学長、これは?」


「レイラ君の在学中の始末書だよ。学生時代から督務貴族として振る舞っていた証だね」


「これは……」


書類を見てメルアは頭を抱えた。あんまりな内容に頭痛がしたのだ。


「面白いだろう?レイラ君は学園中の貴族の素行を正そうとして大暴れしたんだよ。終いには、教師まで殴り飛ばしてね。僕が学長になってからしばらく経つけど、自宅へ強制送還されたのはレイラ君が唯一だよ」


「それは笑い事ではないでしょう……」


「最近、10年間では最も始末書を書かされた生徒として記録を残したのさ。まぁ、それと同時に卒業時には最優秀を取って行ったけどね」


「……桁外れの正義感、ということで納得します。実際、優秀であることに違いは無さそうですし」


困ったように言うメルアの言葉に頷きつつも、眉根を寄せるフィニアスは普段の3割増しくらいに迫力が増していた。


「確かに、魔力という点では卒業生の中でも随一だろう。加えて、魔力の緻密な制御にも長けていた。卒業してからも鍛練を続けているだろうから、卒業時よりも更に強くなっているのは間違いない。だが、それらを上回るほどにじゃじゃ馬が過ぎると思うがな」


「フィニアス、これでも悩んだ末の決断なんだ。この期に及んで決心を揺らがせるようなことは無しにしてくれよ……」


「どうにも心配が尽きん。魔力不足を補う役だけをやらせて、さっさと帰らせるべきだ」


フィニアスのぞんざいな言い方に学長は内心、同意していた。

だが、果たしてレイラ・ヴァーミリオンが大人しく言うことを聞くだろうか?あの、灼熱の炎のような存在が。

学長の疲れきった胃がキリキリと痛み出す。そっと押さえた学長にメルアが言う。


「学長、魔剣関連のことは伏せた方が良いのでは?」


これには、学長とフィニアスが揃って頷いた。



***



師匠(せんせい)、学園都市からお手紙ですよ」


「学園都市から、ですって?」


「はい、学長のガルバー様からになってます」


「学長先生が(わたくし)に……」


まだ、少年と青年の中間のような若い男の子に師匠(せんせい)、と呼ばれた女性が深紅の長髪をさらりと流す。執務机の上の大量の書類を片付け、目の前の空間を強引に作り出した。


「さて、学長先生が私に直接手紙とは、どんなご用でしょうね」


「この間の魔獣襲撃の件では?」


「私に断罪するような者が現れたのかしら?」


彼女が手を横に差し出す。すかさずそこに、瀟洒なペーパーナイフが置かれた。手紙の封をサッと切ると中から手紙を取り出し、読み始めた。


「……なるほど、街の建て直しに私の魔力を借りたいということですか。督務とはいえ、貴族として頼られたからには応えない、という選択肢はありませんわね。……予定は?」


「直近では特にありません。ちょうど仕事が終わったタイミングでしたから」


「では近日中に伺うように返事を出しておきなさい。ついでに、学園都市の教師や近辺の貴族の調査も並行して進めるように」


「かしこまりました。……師匠、たまにはゆっくり羽を伸ばすというのも悪くないのではありませんか?」


「そう言われて見れば……、最後に休みを取ったのはいつだったかしら?」


「もう2年前です。師匠の信念は素晴らしいですが、休みも時々入れなければ体が持ちませんよ」


「お気遣いありがとう。ならば、今回はちょっとした旅行気分で行きましょうか。私の不在時はお兄様か叔父様に代行してもらって、久しぶりの学園都市を楽しみましょう。供は2人ほど、選定しておいてちょうだい。

私は仕事の代行のお願いをして参ります。今日は本邸に泊まりますから、貴方達は仕事が終わったら随時、休暇にしなさい」


「かしこまりました」


女性が深紅の髪をなびかせ、堂々とした足取りで部屋を後にした。そんな彼女を送り出した、秘書兼弟子の彼はホッと一息を吐いた。


「やっと休める……」


まだ若いというのに、あまりにも疲れきった声だった。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。


気にいった所などがありましたら感想など、残してくれると嬉しいです。


ブックマーク、高評価お待ちしておりますので忘れずにお願いいたします。

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