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第1話

 早朝の境内掃除の最中、姉ミコトの足元が光ったと思った次の瞬間、眩しさのあまり目を閉じた一瞬で姉の姿が消えていた。


「え?」


 カランカランと転がる箒。何も無かったかのように囀る小鳥。姉だけが居なくなった境内。


「ウ、ウカ様ーーーーーーーーー!!」


 私、黒鉄稲荷の美人巫女姉妹(妹)であるミノリは叫びながら社へ飛び込んだのだった。

「ウ、ウカ様。いらっしゃいますか!?ウカ様!?」

「何だ騒々しい」

 霧のように現れたのは少年。ただし、狐の耳と尻尾が生えている少年だった。

「ウカ様、姉さんが、姉さんが消えました!!」

「は?」

「光ったら、次の瞬間に消えちゃったんです」

「ミコトが?・・・確かにミコトの気配を感じないな」

「姉さん、どうしちゃったのでしょうか?」

「・・・ワシの力だけではどうにもならんようじゃ。どれ、ちょっと出てくる。ミノリは大人しくしていろ」

「ウカ様・・・姉さんに何かあったら、私、私・・・」

「うむ」

「ウカ様に何するか分かりません」

「すぐ帰ってくる」


 ウカ様が戻ってきたのは昼前だった。

「分かったぞミノリ。ミコトは異世界の神に聖女として連れ去られたようだ」

「・・・イセカイ?姉さんは確かに聖女様のように清らかですけど・・・」

「つまり、別の世界の神に誘拐されたってことじゃ」

「何ですって!?」

 聖女として異世界に連れ去られた・・・ミノリ知ってる。聖女として召喚されて魔王を倒してとか言われて、倒した後に召喚された国の王子とかと結婚しようとしたら王子の婚約者が現れて「偽聖女」とか罵られて国を追い出されると見せかけて暗殺されちゃうんだよね!!姉さんが危険だ!!

「取り返さないと」

「今、変なこと考えていたろう・・・。まあ良い。それに私の巫女を連れ去るなど言語道断だ。ただ・・・」

「ただ?」

「私の力だけでは異世界に届かない。異世界に目印となる頸木を打ち込まなければ、ミコトは取り戻せない」

「頸木・・・」

「目印となるものがミコトの側に行けば、あちらの神に邪魔されず、ミコトを取り戻せるということじゃ」

「その目印・・・私がなれますか?」

「ミノリ・・・」

「姉さんは私が助けます!」

「分かった。八百万の神々の力で、お前を異世界に送ろう」

「はい」

「管狐を持ってけよ」

「はい!!いつも一緒ですから。ねえ、アリ・ヲリ・ハベリ」

「「「ケーン」」」

「・・・よし。ならば、お前を異世界へと送る。着地点は異世界の神の力の届かぬ所だ。ミコトとは離れているハズだ。気を付けて行け」

「はい」


 ウカ様が何かを唱え始めると、体が揺らぐ感触がした。自分が薄くなっていくような・・・。


 自分が戻って来たと感じた瞬間、ミノリは暗い部屋の真ん中に居た。

「ここが異世界?」

「・・・誰だ」

後ろから声が聞こえた。振り返ったミノリの目に入ってきたのは一人の美丈夫であった。

(かっこいいけど・・・顔色悪ッ!!黒ッ!!)

「貴様、いきなり現れたな。サーズ国の手の者か?」

「さ?」

「なんだ違うのか。どちらにせよ、魔王の城の魔王の部屋に現れる力を持っているとはな・・・」

「ま、魔王?」

 異世界の神の力の届かない所・・・魔王の城・・・魔王・・・。


「って、いきなり最終ボスかい!!」

ミノリが叫ぶのも無理はなかった。


 ミノリが叫んだことによって魔王の部屋に重臣たちが飛び込んできた。

「何故ここに人間が」

「魔王様ご無事ですか」

「早く追い出せ」


「うるさい」


 魔王の一言で重臣たちが押し黙った。魔王はミノリの方に振り向くと改めて問うた。

「お前は何者だ」


「なるほどな。姉をこの世界の神にかどわかされたか」

ミノリはありのままを話した。姉の為ならば何も怖いもののないミノリであった。

「お前の姉を召喚したのはサーズ国だろう」

「サーズ国」

「我と敵対する宗教国家だ」

「敵対って・・・戦争とかしてるんですか?」

「いや?」

「?」

「こちらとしては何もしていない。人間を傷つけた事もない。が、向こうは『魔』という存在が許せないそうだ。一方的に難癖をつけられている状況だな」

「難癖・・・」

「それで、お前はどうするつもりだ?」

「どうって、姉さんを取り返します!!」

「どうやって?」

「とりあえず、サーズ国ってところに行ってみます」

「行ったところで折角、召喚した聖女を返してくれるとは思わんがな。魔王もこの通り健在だ」

「むー」

「・・・お前」

「ミノリです」

「・・・ミノリ。ここに留まるか?」

「・・・は?」

「姉を取り戻したいのだろう。なに、その内、聖女殿はサーズ国を出て此処に来るだろう。その際にサーズ国の手の者から姉を引き離し、元の世界に帰るが良い」

「な、なるほど」

 聖女召喚のセオリーから考えると、魔王の討伐前ならば姉は聖女としてチヤホヤされている時期だ。危険な状態ではない。

「どうだ」

「是非!!お世話になります!!」


 こうして、ミノリは魔王の城に留まることになったのだった。


「魔王様・・・何をお考えですか?」

「セバスか・・・」

広間からミノリが去った後、執事のセバスチャンが魔王に問いかけた。

「あんな小娘、さっさとサーズ国へと追い出せばよいものを・・・」

「・・・あの娘は聖女の弱点になる」

「なるほど。そう言う事ですか」

「それに」

「それに?」

「いや、聖女に対して、こちらもあの娘を盛り立てるのも面白い。そうだな、聖女に対して『魔女』というのはどうだ?」


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