魔性の女、ビビ先輩の登場ですよ?
エルフの調味料、なんて聞けば身構えてしまうかもしれないが、なんてことはない。
肉食を禁じているエルフが、タンパク質を摂取するために生み出したという魔法植物を使った調味料だ。
俺はエルフ大豆と呼んでいるが、それがなんと、味から栄養素まで、ほぼ大豆なのである。
アールシュバリエにはエルフの新都民が多いので、スーパーには味噌そっくりなエルフ味噌や、醬油そっくりなエルフ醤油、発酵食品のエルフ納豆まで取り揃えてあった。
そんなエルフ料理に日本から転生してきた俺が記憶を呼び覚まされないことがあるだろうか、いや、ない。
一度マルドラームの民族料理を出してくれる料亭に行ったことがあるが、木でしつらえられた壁や柱は漆で黒光りしており、ドアまで障子やふすま、いわゆる紙でできていた。
とんがった耳の女将が着ている素朴な藍染の着物の図柄も花柄と、そこではすべてが植物で成立していた。
ひっつめた黒髪には花のかんざしが一輪。
見渡す限り、植物づくめ、これぞまさしく、森の民の文化と呼ぶにふさわしいだろう。
これまた木製の簡素なテーブルの上には、真っ黒い液体の入った瓶が1本でん、と置いてあって、他に何があるの? というぐらいにラベルもなにも貼られていない。
これがエルフ醤油だった。ほぼ醤油である。これをあらゆる食品にかけて食べる。
定番のエルフ味噌汁に、エルフのきんぴらごぼう、エルフ油揚げと根菜の酢漬けに、肉なんて申し訳程度にサケの切り身が1枚しかなかった。
そうだよな、肉食を限りなく廃そうと思ったら、こうなるよな。
エルフの食卓が日本食と似ているのか、日本食がエルフの食卓と似ているのか。
まさに文化収斂というやつだった。
俺は懐かしすぎて思わず涙した。
「お、お肉の方がよかったですか」
エルフ料理を前に、とつぜん泣き始めたハーフオークの俺に、申し訳なさそうに言う女将。
俺は彼女を抱き寄せ、「いいや、そうじゃない」と、とんがった耳に唇がふれるぐらいの至近距離で囁いた。
「い、いけません……お客様……あっ」
「騎士に人前で涙を流させるなど、よくも恥をかかせてくれたな。罰として、今夜はお前の耳が真っ赤になるぐらい沢山の愛をささやいてやる」
「あんっ……けだもの、けだものーっ!」
閑話休題。
みそ汁の完成である。
米も欲しかったが、ケーキを買っていたのでやめておいた。
オートミールやリゾットにするための米なので、日本米みたいにふっくら炊けないのが残念だったが、機会があれば挑戦してみたい。
豚肉のソテーと、甘辛くした里芋の煮っ転がし。
あとはお店で買ってきたケーキとオレンジジュースのクリスマス料理が出来上がった。
自分で味見してみると、可もなく不可もなく。
東京のガチ料理店に比べれば足元にも及ばないけど、まぁこんなもんだろう。
ちなみに魔法の調味料をつかえば、ガチ料理店と同じくらい旨くできてしまうんだがな。
俺は大好きなんだけど、リリエンタールの魔法舌には通用しないので、ウチでは使えなかった。
リリエンタールは食欲がわかないのか、神妙な面持ちでそれらを見つめていた。
「ほら、食べてみろリリエンタール。昼も食べてないんだろ? 今日のはそこそこ上手くできたと思うから」
「いつもコンビニ食ばっかりの兄さんの料理はあんまり信用ならないのですが……」
「最近のコンビニ食って、けっこう美味いよ?」
リリエンタールは、ケーキに突き刺したフォークをくるくる皿の上で迷わせながら、妙に不安げな表情で言った。
「兄さんは『残留魔法』が気にならないのですか?」
「『残留魔法』ってあれだろ? 魔法合成食品とか、倍速育成農法とかいうやつ」
「あんまり分かっていませんね。自炊をすれば安全かと言われれば、必ずしもそうでもないのですよ」
「そうなんだ。ごめん、兄ちゃん自分で料理をしたら平気だと思ってた」
「ダメですよ。スーパーで買ったお肉にしたって、鶏さんや牛さんの飼料を生み出すのに魔法を使っているし、冷凍保存して輸送するのに魔法の力を使うし、冷凍保存せずに生のまま輸送する場合は転移魔法のゲートをくぐらせているし。どんな食品も、必ずどこかに魔法を使っているものなのです」
「それって、もう何を食べても一緒ってことじゃない? 何も食べられなくなっちゃわない?」
「危機意識の問題なのです。最近は、どんな食品でもおいしく仕上がる『魔法の調味料』まで存在するのです。まったく、とんだ魔法の調味料なのです」
「……あれ、俺にはふつーに美味いんだけど。そんなにダメなの?」
「ダメです」
と、リリエンタールは苦虫をかみつぶしたような顔をして言った。
「兄さん、いいですか? 人間が毎日食品から残留魔法を浴び続けていると、がんの発症や、発育不良、はては魔法を浴びてミュータント化するなどの問題が考えられます。兄さんも、コンビニ食ばっかり食べるのはもうやめてくださいよ?」
「わかった、これからはなるだけ自炊することにするよ。お前のためにもな」
「素直な兄さんは好きです」
「俺もお前のことが好きだよ」
「兄さんの方が私の事をもっと好きです」
「お前の方が俺の事をもっと好きなんじゃないの?」
体に悪いけど美味しいものの存在を認めてくれない、厳しい妹なのだった。
まあ、せっかく異世界の記憶もよみがえってくれた事だしな。
妹がおいしい食事を食べられるのなら、頑張って自炊するようにしよう。
リリエンタールは、豚肉のソテーを口に運んだ。
もぐもぐもぐもぐ……。
リリエンタールが危惧している残留魔法に関しては、俺はまったく心配していなかった。
なんせ今の俺は、魔法を一切使わずに調理するスキルを持っているからだ。
おまけに闇魔法をこっそり発動させて、残留魔法をあらかた消し去っておいた。
いま、彼女の口内は、初めて味わう『無属性』の味によって満たされているはずだ。
この無属性攻撃は、魔法使いに効く。
リリエンタールは、電撃が走ったみたいにぴしりり、と背筋を伸ばした。
胸のカンフー猫がダイナミックに飛び膝蹴りを放ってきて、真正面にいた俺は顔を背けてそれをかわした。
まるで皿の上に何か不思議なものがあるみたいに俺の作った豚肉のソテーに目を落としていた。
さらに、一口、二口、と食べていく。
箸が止まらない、どうやら気に入ったらしい。
最後にエルフ味噌汁をすすって、ふわぁぁ、と目を輝かせて感嘆をもらしていた。
リリエンタールは、素晴らしいものを食べてしまったという驚きの表情で器を見ていたが、やがてその輝く目を俺に向けた。
「兄さん、去勢しましょう」
「どうした、リリ。懐かしい冗談だな」
「去勢しましょう!」
俺は苦笑して首を横に振った。
その昔、俺たちの母親が他界したころ、リリエンタールは本家に引き取ってもらうことになったのだが、「兄ちゃんと結婚する!」といって家の前にある石の門の残骸を蹴って飛び出し、俺のところに押しかけてきたのだった。
ひとりきりになるのが嫌で、俺が学校に行こうとするとわんわん泣いて、けっきょく騎士学園まで引っ付いてきたりしていた。
やれやれ、仕方ないな、学生の身分で苦しい生活をしているけれど、ここは兄ちゃんが養ってやるか、などと上から目線で言っていた端から、妹は騎士学園に講演に来ていたアールシュバリエ騎士団からスカウトを受け、姫騎士になって俺を養う立場になった。
ちなみに姫騎士というのは、騎士候補生の成績優秀な美男美女から選ばれる近衛兵だ。
国王など政府の重役が国外に出かけるときにその近辺警護をしたり、国際イベントがあればその警備を務めたりする、王国の華とも呼ばれるアイドル的存在である。
そんな王国のアイドルがダンジョン探索のアルバイトなんかしていると格好悪いので、給料は通常の騎士の5倍から10倍は保証されている。
おまけに魔法士の資格は特級まで取っているし、彼女の年収はこの時点ですでに俺の生涯年収を上回ることが確約されていた。おうふ。
ちなみに、俺は目つきが悪いから姫騎士に採用されなかった。
日々ダンジョンに潜ってモンスターと戦っている騎士とは、まるで別世界の存在なのである。
「大丈夫、兄ちゃんはリリがやしなってあげるからー!」
と言っていた頼もしい妹は、兄妹では結婚できないという事実を知ると、代わりに「兄ちゃん、私が養ってあげるから、去勢して?」というようになってきたのだった。
リリにとって、結婚するということは貞操を独占するということと同義だったらしい。
騎士にはなりたくない。
だが、このまま騎士をやめてしまえば、妹に養ってもらう未来が確定している。
そして去勢されてしまう。
ハーフオークとして、これ以上の拷問はもはやないと言ってもいいだろう。
それで、どうしても魔法士の資格が欲しかったのだ。
……まあ世の中、そう上手くはいかないよな。
「ではー、わがしゃににゅーしゃするりゆうをおきかせねがえますかー」
魔導学園の3代目クラスの教室には、10才にも満たないちびっこ達がいて、わーきゃー騒いでいた。
魔法使いのクラス分けに年齢は関係ない。
むしろ大人になると魔力が消えてしまう人もいるので、なるべく若い頃からの鍛錬と独立が望まれていた。
「はい、御社アルミラージは、世界でもトップクラスの業績を持つ食品メーカーのひとつであり、御社の魔法無添加食材へのこだわりに強い感銘を受けました。また独自の魔法無添加食材の技術開発に、私の能力を生かせるのではないかと思ったからです」
「ふむふむー」
子どもたちは、ぎこちない手つきで真面目にメモを取ってくれていた。
可愛らしい仕草で、見ているとほっこりしてくる。
いま、俺と子どもたちは向かい合わせになるように椅子を並べて、俺を対象にした模擬面接試験に挑んでいた。
騎士学園の生徒なのに、魔法士の資格を取ろうとしてツインタワーの反対側に通い詰めていた俺は、クラスでも浮いた存在だったのだが、子どもたちはひそかに俺の事を応援してくれていたのだ。
あと、彼らは手作りクッキーが弱点だった。
俺の闇魔法料理の練習台にもなってくれた。
「ではー、ドナテッロさんはー、騎士学園に10年通っておられますがー、その間なにをなさっておいででしたかー」
「はい、私は『魔法舌』の妹のために、魔法を使わない料理の作り方を研究していました。その分野の知識に関しては誰にも負けません。その結果として、御社の食品が1番有効な素材だという考えに至りました」
「ではー、在学中に魔法技能資格をひとつも取られていないのには、なにか理由があるのでしょうかー」
「……正直に言いますと、私の魔法の才はほとんどなかったのです。しかし、その代わりに魔法を使わない作業が得意でして……」
「げんざいアールシュバリエはー、急速にグローバル化が進んでいますー。獣人やエルフ、小人といった特殊技能を持つ異種族の人材があふれている社会でー、『身体回復』や『心話』、『高速演算』といった魔法技能を使わない作業とは、いったいどんな作業なんでしょうかー」
「……ええと、ですね」
「『魔法舌』の妹さんのために就職先を決めてるんですねー、ドナテロさんはー、シスコンでいらっしゃいますかー」
「ああそうさ、俺はシスコンさ! シスコンで何が悪い!」
俺は思わず声を上げて立ち上がり、スマホのお気に入り妹画像集を見せつけて力説した。
「ほら! 見ろよ、めっちゃくちゃ可愛いんだぞ、うちのリリエンタールは! こんな可愛い子が毎日俺と一緒にご飯食べて、俺みたいな甲斐性なしの料理を美味しい美味しいって言いながら幸せそうな顔してくれるんだ、そりゃー御社目指すぐらい人生変わるってのー!」
「落ち着いてくださいドナテッロさん」
「ドナテロにいちゃー、落ち着けー」
「さっきから妹という単語を使いすぎだぞー」
「ではー、最後に、これだけは他の人には負けないという、ドナテロさんならではのセールスポイントはありますかー」
「はい……それはこれです!」
俺は持参していた包み紙を開き、子どもたちの前にクッキーを取り出して見せた。
バターや砂糖をふんだんに使った高カロリーなこってりクッキーである。
歓声を上げながら子どもたちはわらわらと駆け寄ってきて、あっという間にクッキーはなくなってしまった。
「採用!」
「さいよー!」
「ぜひ明日から来てくれたまえー!」
ふっ、ちょろいぜ。
本番もこのくらい上手くいってくれることを祈ろう。
くすくす、笑い声が聞こえて、俺はどきん、と胸の高鳴りを覚えた。
「なかなかいい自己アピールね、ドナテッロ」
見ると、窓にセーラー服の美少女が腰かけていた。
金色のさらさらとしたロングヘアは、子どもたちが触りたがるぐらい不思議な透明感がある。
しなやかな足はプリーツスカートの端から惜しげもなく陽光の中にさらされていた。
誰が見ても美少女と呼ぶにふさわしい迫力を備えた顔に、白い耳がみょんっと伸びていた。
エルフ耳に、セーラー服とスマホ。そして腰に差しているのは厳めしい日本刀。
魔道学園3代目クラス、50年生のビビ先輩だ。
俺の憧れの先輩でもある。
「だれー? ドナテッロにーちゃんの彼女か?」
「ちがうちがう、3代目クラスのビビ先輩だよ」
「えー、あんな人今までいなかったよー?」
「先輩はいま就活で忙しいから、なかなか学校に来られないんだ」
「違うわ、ただサボってブラブラしてるだけよ」
と、俺がせっかくフォローしても、身も蓋もない言い方をするビビ先輩。
いくら魔法の得意なエルフでも、異種族の魔術を身に着けるためには何十年もかかる。
ずっと同じ授業ばかり50年も受けていられないので、まだ在籍中なのに何年も学校に来ていないエルフの学生はざらにいるのだった。
つまり人間の魔法技術は、それだけの価値があるのだ。
「今日は戯れに魔法薬研究室に行って、得意のエルフテクノロジーで哀れな男どもを性的に興奮させる媚薬を作っていたの。さっきそれを男子更衣室にまき散らしてきたわ。……ふふふ、次の男子体育が見物ね?」
「じゃあ、俺とビビ先輩でカメラ持って、ロッカーの中に潜みに行きましょうよ」
「落ち着きなさい、エルフジョークよ」
俺がオークジョークで絡むと顔を赤くするビビ先輩マジ可愛い。
迫られると弱いんだよ。
やっぱエルフの女の子大好きだ。
「まったく、小さい頃は可愛いショタだったのに、大人になると汚らわしいオークになっちゃったわね。聞いたわよ? ダンジョンで5人の女の子を襲って孕ませて騎士学園から謹慎処分を受けてるんでしょ?」
「事実無根ですよ、そんなの。この俺がダンジョン探索にゴムを忘れていくようなへまをするオークに見えますか? ふごふご」
「それもそうね。すごい説得力だわ、ドナテッロ」
エルフは精霊を通じて、遠く離れた森のエルフとコミュニケーションを取ることが出来る。
精霊ネット(SNS)と呼ばれる独自の通信網を持ち、生まれた時から常にネットにつないでいる状態なのだ。
さらにスマホのような魔工デバイスの普及によって、彼らの精霊ネットは海を越え、世界規模にまで拡大していた。
もはや情報処理系のお仕事で、エルフにかなう人間はいなかった。彼らはエルフという歩く集合知なのだ。
そう、魔法の使えない人間になんて、仕事はない。
騎士のような命を張る危険な仕事以外は。
それが魔法社会の現実だった。
「俺の方は休学して、モンスターの魔法の研究をしているんですが、そっちの方はぶっちゃけ、行き詰まっちゃってて……」
「あら意外。モンスター退治は得意だったと思うけど?」
「というか、あいつら俺が近づくと逃げるから、肝心の魔法が観察できないんですよ。それよりも、魔工機技師資格を取るほうが現実的かなって」
「魔工機技師資格を? この魔工デバイスの時代に?」
「そう」
「ふむふむ、たとえば?」
俺は、柱の横に備え付けてある真っ赤な消火器を指さした。
「たとえば、あの消火器は圧縮した空気で消火剤を噴き出す仕組みになっているんです。けれど、消火器の中には魔石が1個も入っていないんですよ」
「じゃあ魔法が使えないと使えないの?」
「そうでもないです。この塔だけで何百個も設置して、しかも何年も使わないものなのに、ぜんぶに魔石を組み込むと、魔石の無駄になるんです。だから製造工場に1個だけ魔石を使っておいて、あらかじめ圧縮した空気と消火剤を詰め込んだ缶を何百個も作るんです」
目まぐるしい産業革命期から200年、何でもかんでも魔法を使えばいいという時代は終わった。
環境汚染を考えなくてはならないし、石油資源と同様に、魔石資源にも限りがある。
ハイブリッド、エコロジー、魔法フリー食品、魔法世界は徐々に魔法を使わない方向にシフトしようとしている。
必要なものがあったらとりあえず自分で作ってみるドワーフという種族は、子供の頃から身の回りの食器や住居を作って生活するという。
物質精製の魔法も使えることから、まさに歩く3Dプリンターだった。もはや工業系のお仕事で彼らにかなう人間はいない。
けれども、人間はアイデアでこの立場をひっくり返した。
俺の強みは、魔法の存在しない世界の記憶があること。
前世の記憶を使えば、俺も一獲千金を狙えるのではないか、などと考えていたのだ。
「なるほど、なるほど、で、何かオリジナルのアイデアはあるの?」
「はい……電子レンジを作ろうかと思っています」
「電子……レンジ?」
「はい。高周波マイクロウェーブを照射することで、水分子を振動させ、加熱する……魔法を一切使わない、けれど魔法のような調理器具です」
ビビ先輩は、俺をじーっと見ていた。
そう、電子レンジは、魔法を使わずに料理するにはとても便利なアイテムだ。
魔法使いは手っ取り早く魔法で温めてしまうのだが、これなら魔法は一切使わずにすむ。
俺が騎士のアルバイトで長丁場になるときなど、これさえあれば、あらかじめ料理を作りおきしておいて、妹に「レンチンしてね」ができるのだ。
だが、ビビ先輩は首をかしげていた。
料理に魔法を使わないでいる利点が考えられないらしい。
まあ、最終的に闇魔法を使わなければ、完全に魔力付与を取り除くことはできないからな。
闇魔法使いの料理人は必須だ。
「あと、ガスコンロとか」
「ガス……?」
これも必須だ。
この二種類の調理器具があれば、魔法を一切使わないで加熱調理をすることが可能。
俺の料理はさらなる無属性を得るのだ。
ビビ先輩は腕を組んで、眉間にしわをよせていた。
むーん、と、必死に需要がどこにあるかを考えてくれている。
需要、需要、需要、需要……。
考えた末に、ビビ先輩は顔をあげた
「ドナテッロ、あなたひょっとして『特区』の出身なの?」
と言われた。
「……『特区』?」
やっぱり不思議なことを言う人だな、と思ったけど、きっと向こうも同じことを思っていたに違いなかった。