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9話 剣のお祭りに参加しよう!

 一週間が過ぎた。

 当面、異世界での目標は金を稼ぐことと、スキルを会得、成長させて強くなることに集中しようと決めた。


 そこで、まず異世界について図書館で調べ物をした。オゾン語7だと読み書きも問題ないのだ。おかげで、興味深い知識を得られた。


 例えば魔物は生後、他の魔物にやられないために速く成長するらしい。ギンローも今は成長が一旦落ち着いたが、体長一メートルくらいになっている。

 さすがに、これは相当速い部類に入る。

 知能も発達し、魔物を狩る際には非常に頼りになるパートナーだ。


 俺の方もフリーPは二千ポイント以上あるし、スキルも剣術、回復魔法、火魔法がそれぞれ4に成長した。

 ハイヒールと火壁という魔法を新たに覚えたので日々活用している。


『ヒト、オオイネー?』 


 冒険者ギルドに向かう途中、ギンローが首を傾げる。


「今日は活気があるな」 


 まだ午前中だというのに、すでに仕事をやめて談笑している人々が目立つ。気になりつつもギルドに入ると、ナスカが元気よく駆けつけてくる。


「アニキ、おはよう! 今日もカッコいいね!」

「おはよう。特にカッコ良くはないけどね」

「そんなことない、アニキはカッコイイよッ」 

 アノ事件以来心を入れ替えたナスカは、今では別人のように良い人になった。


「それより、今日はお祭りでもあるのか?」

「今日は剣戟祭りがあるんですよ」


 響きから想像はつくが気になるな。

 ナスカが言うには、毎年行われる一種の祭りなのだが、町中で剣を振っても良い特殊なものらしい。


 普通、町中で武器を使った戦闘は禁止されているけれど、今日だけは別なんだそうで。

 木剣を持ち歩くかどうかで参加の意思表示が行われる。よく見れば、この冒険者ギルドでも貸し出ししているな。


「貴族でも平民でも関係なしに参加できるんだ。無礼講だから、日頃貴族に恨み辛みがある人は絶対に参加するね」


 無論、殺しは御法度だけど、多少の怪我くらいならば見逃される。逆に、若い男の貴族などは、これに参加しないと腰抜けと評されることもあると。


「アニキはどうします?」


 剣術スキルを上げるのに有効そうだな。


「参加してみようかな」

「そうこなくちゃ! アニキに勝てるやつなんて、この町にはいないと思う。アタシも参加するけど、出会っても攻撃してこないでくれよ~」

「はいはい」


 ナスカが持ってきてくれた木刀を受け取り、俺は外に出る。

 祭りは、町の見張り塔にある大鐘が鳴らされたら始まるとのこと。


『ボクハー?』

「ギンローは参加できないなー。今日は応援だけよろしくな」

『ワカッタ、ガンバッテナ~』


 ギルドの外に出ると、先ほどより更に賑わいが増している。大通りだけではなく、小道などにも人は多い。木剣を手にしていない方が多いので観戦目的だろう。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 お、ついに始まるみたいだ。勝負方法だが、いきなり攻撃を仕掛けたりするのは禁止で、戦いたい相手の木剣に自分のを軽く当てる必要がある。

 観客は道脇に寄り、木剣を持つ者だけが道の真ん中を歩く。


「おおぅ、木剣持ちがいっぱい……」


 中には、すでに戦いを始めている人たちがいる。

 コツン、と俺も背後から誰かに木剣を当てられる。


「逃げてもいいんだぜ」


 細面の男が、不敵な笑みを浮かべていた。


「逃げちゃ、参加した意味ないでしょう」

「それじゃ遠慮なく!」


 俺の肩目がけて大振りされた木剣をステップを踏んで躱す。


「意外とやるなっ」


 ヴォンヴォンと男の木剣が風を切る音と観客たちの応援の声が入り交じる。

 俺は、相手が打ち終わったところを狙って手を叩く。木剣が落ちると、男は痛そうな顔をして言う。


「参った……」


 必要以上に攻撃してはいけない。俺の勝ちだ。

 うずうずしている男は多いらしく、次の相手はすぐに決まった。

 今度は禿頭の大男だ。


「おりゃああああ!」


 こっちも大振り連発の雑な攻撃が続く。身体強化、視力、剣術とスキルを揃えているおかげか余裕で立ち回れる。まず胴体に一撃。


「うがっ」


 動きが停止したところで手首を叩いてやって、今回も勝利を収める。俺のような並の体格の男が巨漢をぶっ倒したということで観客たちのボルテージが跳ね上がる。


「あの兄ちゃん強いな!」

「かっこいいぞーっ」

「いいぞ、その調子で貴族も倒しちまえー」


 ステータスを確認すると剣術5に強化されていたので、剣戟祭りに参加した意味はあった。

 しかし、貴族なんてこの辺にいるのか……と思ったら、身なりの良い金髪碧眼少女が俺の前に現れた。

 見覚えのある彼女は友好的に接してきた。


「こんにちは。以前、お会いしたの覚えていますか」

「もちろんです。門のところで……ソフィアさんでしたよね」


 貴族のアルライト家出身だったはずなので、敬称を様にするか迷ったが、今はこれでいく。

「覚えててくれて嬉しいです! ユウトさんにギンローのことは、ずっと気になってたんです」

「お気にかけてもらって光栄です。しかし、ソフィアさんも……」


 俺は視線を彼女の右手に移した。木剣を握っているのだ。さらに、周囲の観客がザワつき始めた。


「あれって、アルライト家のお嬢様か?」

「あそこの貴族も参加していたとは……」

「だが、もしあの二人が戦うなら面白いことになりそうだ」


 勝手に盛り上がるのはいいけど、ソフィアさんがどういう人か教えてもらえると嬉しいな。

 有名人ですね、と俺は彼女に言う。


「うちは貴族ですが、武力を重んじる一家なんです。町が魔物に襲われた時など、家族が退治したりすることもあるので」


 なるほど、それは有名にもなるわけだ。

 彼女はスッと木刀をこちらに伸ばす。


「先ほどの闘い、素晴らしかったです。私とも一戦、剣を交えていただけます?」

「お受けします」


 まだ若いとはいえ、武芸に秀でる一家に育った彼女の剣を拝見したい。そんな気持ちから俺は木刀を軽く相手の物に当てた。

 正眼に構える俺に対して、ソフィアさんは上段に構える型を取った。普段は柔らかい表情の彼女が途端にキツくなる。特に眼光だ。しばらく睨み合う。


「……私の威圧が……全く効かないなんて……」

「ん?」

「ユウトさんは、かなりの修羅場をくぐってきたのですね」


 俺は何もやってないのに、何故か評価される。思考を巡らすと、一つ思い当たることがあった。

 フリースキルに威圧というスキルが存在する。これが決まると、相手を恐怖状態にすることが可能なのだ。


 彼女はこの威圧を使ったにも関わらず、俺に何も変化が生じなかったから驚くのだ。

 全状態異常スキル――威圧を無効にしたのはこれだろうな。

 ソフィアさんはご丁寧に、いきますと合図をしてから俺に攻めかかってきた。


 今までの男達とは違う、コンパクトで鋭い振り。


「はぁあああああああ!!」

「おっと、うおっと、うわっと」


 避けたり受けたりで、大忙しだ。けど、十分ついていける。

 経験に大きく劣る俺が彼女と互角にやり合えるのは、間違いなくスキルの補助だ。

 彼女の袈裟蹴りに合わせ、俺はカウンター気味に木剣を振り上げた。


「きゃっ」


 彼女の剣が弾かれ、回転しながら頭上に上がっていく。


「ま、参りました。全然、敵う気がしませんでした」

「いえいえ、こちらこそお手合わせありがあとうございました」

「もし、失礼でなければ、流派をお聞かせ願いますか」


 リュウハ? それって美味しいの状態だ。苦し紛れに、自己流だと答えたところ、彼女が口をあんぐりと開けてしまう。あ、ダメな解答のやつだ。


「……どうりで、型にはまらない伸び伸びとした、先の読めない剣でした」


 強いて言うならゲームキャラの動きを脳内で再生して、真似してるだけでして……。


「ユウトさんの闘い、見学させてください」

「俺なんかので良かったら、どうぞ」


 そう許可を出したら、彼女はそれから木剣を置いて俺のことを観察し出した。

 剣戟祭りの間、俺は十人以上と戦ったけれど、誰にも負けなかった。


 祭りが終わると、ソフィアさんは随分と切羽詰まった顔で、こんなお願いをしてくるのだった。


「どうか、どうか私に剣を教えてください!」


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