表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/70

8話 冒険者は過酷です

 二体目のラミアは、驚くことに木の上にいた。

 理由は明白で睡眠中なのだ。不意打ちを避けるために高いところで休憩ってわけだ。


 シュッ――グサッ。

 だが投擲を覚えた俺にとっては関係なかった。動かない的ということもあり、ナイフはラミアの脇腹に深めに食い込む。

 敵は慌てて地面に落下したが、ここは攻めずにギンローと木陰に隠れた。 


「ッ……?」 


 ラミアは周囲を警戒しながらナイフを抜く。傷を庇うようにして場を離れ出した。

 俺たちはこっそり後をつける。数分もしない内に、ラミアは倒れて苦しみ出した。毒が効いてきたのだ。


「今、楽にしてあげるよ」


 もがくラミアにトドメをさした。毒ナイフが有効だと知れたのは良かった。

 ただ、使うほど毒ナイフも劣化していくと思うので、そこは注意しよう。


「あと一、二体始末してから戻ろうか」


 ギンローの鼻を頼って新たなラミアを探しに行く。わりとすぐに、遠目に発見できたのだが、今回は少々状況が異なる。


『ニタイ、イル』

「ああ、それに先に戦ってる人がいるみたいだ」


 ラミアが二体組んでおり、一人の冒険者が必死に剣を振り回している。仲間もいたらしいが、やられたのか倒れていた。

 そして、必死に戦ってる一人なのが……


「くそくそくそくそくそっ、なん、で、何で当たんないの!」


 二十歳前後の赤髪の女は、さっき俺にケンカを売ってきたナスカだった。剣の腕は下の上、または中の下くらいか。

 ラミア二体には、まるで通じていない。


「アアッ!? ちっくしょおおおお」


 尻尾で剣を遠くに弾かれ、絶体絶命のピンチに追い込まれてしまった。


「キケケケ」


 ラミアたちが初めて聞く笑い声をあげる。ナスカは腰が砕け、立ち上がることすらできない。

 ……どうしたもんか。


 他の冒険者から複数相手は避けろと言われている。しかもナスカは、他人をなめ腐った性格で危険を冒してまで助ける価値はない。

 が、さすがに見捨てて逃げるってのはどうもな……。しかも、今ならラミアは二体ともこちらに背中を向けている。


「気にくわないやつではあるが――」


 爆炎矢を一発叩き込む。髪は勿体ないけど、後頭部にぶつけたので即死だったようだ。

 残る一体が怒りの形相で地面を這って攻めてくる。


『クルヨ』

「大丈夫さ」


 相手の動きに合わせて、俺は横一閃に剣を振り抜く。ラミアが人の上半身と蛇の下半身の境目から真っ二つに分かれる。

 今のは上手く決まったな。

 ナスカの状態を確認するため近づくと、足をハの字にして、お漏らししていた。


「粗相するほど怖かったのか」

「うっ、あっ、ううっ、くっ」

「仲間の二人は……死んでるな」


 巻き付かれて、そのまま絞め殺されたのだろう。ナスカは、泣きじゃくるだけで反論すらしてこない。


「さっき、俺にケンカ売った時の威勢はどうした?」

「うぐ……勝て……勝てると、思ってたのに……だって、ケンカじゃ、誰にも負けた、こと……」


 想像だけど、チンピラみたいに生きてきたせいで井の中の蛙になっていたってことか。


「何にせよ実力不足は認めなきゃ進めないぞ。他人を見下して生きている暇があったら、一回でも多く剣を振るべきだな。……で、こいつらはどうするつもりだ?」

「……どっちも、身寄りがいない。だから、せめて供養してやりたい」

「何かの縁だ。供養の間くらい、周りを見張ってやってもいい」

「…………助かる」


 か細い声ではあるが、ナスカは礼を言う。ここまで殊勝になるのは、仲間が死んで精神的に参っているからだろう。

 死体を並べ、その前に花を置いて、ナスカは目をつぶって冥福を祈る。


『……ユウト、マタ、キタ』

「ひぃぃっ……!」


 まだまだ遠い場所にいるラミアに恐怖したナスカが、再びお漏らしをしてしまう。

 さっきの今ではさすがに可哀想なので、俺は弓と魔法を使って襲ってくるラミアを仕留め、髪を切り取った。


「す、すげぇ……。こんなに強い人、初めて見た……」

『ウン、ユウトツヨイ』

「俺なんてまだまだだよ。さて、町までは送ってあげてもいいけど?」


 ナスカは恥ずかしそうに頭を下げる。

 町の入り口に来るまで、ナスカはずっと無言だった。時折、目頭に涙を浮かべていた。

 もう、冒険者は無理だろう。俺がそう思った矢先、彼女は意外なことを言い出す。


「アニキって、呼んでもいい?」

「はい?」

「いやだから、あんたの……ユウトさんのこと、アニキって呼びたいんだけど……」


 えええー、それはどういう意図ですか。

 俺が戸惑っていると、こっちにもあるらしい土下座でナスカは頼み込んできた。


「あんな失礼なこと言って今更だけど、助けてくれて本当に感謝してるし、あんなすごい人初めて。せめてそう呼ばせて欲しい」

「まぁ、呼ぶのは自由だけど……」

「ありがとうアニキ! アタシ、アニキみたいな超カッコイイ冒険者になれるよう頑張るね!」


 あぁ、冒険者辞めないんだ。あれで心折れないってことは、案外向いているのかもしれない。


「アタシのことパシリにでも、何にでも使っていいからね。アニキの言うことならなんでも聞くから」

「じゃあ、無理な依頼は受けるなよ」

「うん、わかった」


 最初見た時とは異なる、毒気の抜けた笑みをナスカは浮かべた。笑うと可愛いもんだな。

 一緒にギルドに行って今回の依頼について報告する。俺の報酬は四十万と高かった。

 ラミアが人気者になるわけだ。

 結構疲れたので宿に戻って休む。


「今日もお疲れ様でした。いっぱいに食べてくださいねっ」


 夕食時、アリナとさんが気持ちのこもった料理を振る舞ってくれる。他の客に比べて、どう見てもボリュームがあった。


「ちょっと、あいつだけ明らかに量多いじゃん」

「アリナちゃん、おかしくない?」

「何もおかしくありませんよ~」


 妬みの視線を送られたが、そこは溜まったフリーPの振り分けでも考えながらやり過ごす。

 視力2、嗅覚1、聴力1の三つを会得しておく。戦いに身を置くならば、五感は鋭いに越したことはない。

 これで俺のステータスは以下になった。


 スキル:オゾン語7 収納2 隠密1 気配察知1 錬金術3 視力2 嗅覚1 聴力1 身体能力3 投擲3 拳術2 剣術3 槍術1 斧術1 鎚術1 弓術2 盾術1 火魔法3 水魔法2 風魔法2 土魔法2 雷魔法2 回復魔法3 物理耐性1 魔法耐性1 全状態異常耐性2 魔力調整3 魔力増量3 従魔6 全スキル成長10



 随分と数は増えたし、地味にレベルアップしているのもある。

 転生してまだ数日ということを考慮すれば、順調と判断していいだろう。


 翌朝、妙な寒さを覚えて俺は目を覚ます。風邪でも引いたかと思ったら、また少しデカくなったギンローの仕業だった。


「何それ?」

『ツメタイノ、ハケルヨウニ、ナッタ!』


 凍えるような冷気を口から吐けるようになったらしく、椅子が凍り付いている。


「戦闘にも役立ちそうでいいな。ただし、それ宿の物だからそれ以上は禁止~」

『ウイ』


 元気にハシャギ回るギンローの横で、俺は大きく伸びをして、一日の準備を始める。

 さあ、異世界の一日がまた始まる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ