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7話 冒険者殺しの蛇女

 翌朝、顔見知りの宿泊客からこんな話を教えてもらった。

 フィラセムの若者の間では、誕生日に童貞や処女を捨てると将来幸せになるというおまじないがあると。


「相手がイケてればイケているほど良いんだってさ。変な話だよな~」

「はは……」


 昨晩のことは、お礼の意味もあるのだろうが、そういった事情もあってのことか。

 自室で眠っているのか、まだアリナさんの姿が見えなくて内心ホッとする。


『アーン、アァーン、イイー』

「どうしたギンロー? 変な声だして」

『アリナ、キノウ、イッテタ~。キモチ、イイ~、ユウトサーン』

「冗談はやめなさーーい!」


 咄嗟に、俺はギンローの口を塞いだ。まさか起きていたとは露知らず……。他の客から好奇の視線または殺意のこもった眼力を向けられたので、俺はそそくさと宿を出発する。


 今日は治癒院は休みなので、ギンローと冒険者ギルドに行ってリンリンさんに挨拶する。

「おはようございます、何かいい依頼あります?」

「待ってましたよユウト君! ちょうどいいのがあるの。Dランクだから君も受けられるよ」


 彼女が上機嫌に教えてくれたのは、ラミアという蛇女を倒して、髪を納品するというもの。

 ラミアは上半身が人間、下半身が大蛇という魔物らしい。


「今の時期が活動期なんです。髪が綺麗で、カツラにも薬の調合にも使えるってわけで」

「じゃあ、それをお願いします」

「はーい、頑張ってくださいね~」


 山は町から近く、日帰りできるそうなのでそれほど準備もせずに出発する。

 ギンローとのんびり移動すること数時間、目的の山の麓に到着した。冒険者パーティらしき人たちが何組か確認できる。

 その内、女一人男二人で構成されたパーティが近寄ってくる。声をかけてきたのは赤髪の女だ。


「オマエの顔、冒険者ギルドで見たことあるわ」

「こんにちは。最近登録したユウトと言います」

「あっそ。アタシはナスカ」

「よろしくお願いします、ナスカさん」

「違うだろ? ナスカ様、だろ?」


 ナスカは腰に手を当てて、挑発するように舌を出す。うわ、面倒臭いのに絡まれてしまったな。どこの世界にも、性格がアレなやつはいるってことか。

 仲間もニヤニヤとしていて気分は良くない。

 俺が挨拶を切り上げて去ろうとしたら、ドンッと背中を蹴られる。


「ムカついた? なら反撃してみろよ。無理だろうけどね。オマエ弱いもん」

『ユウト、ヨワクナイ!』

「あうっ、てめえ!?」


 俺より先にギンローが飛び出して、ナスカの手甲に噛みついた。振り放そうとナスカは腕をブンブン振る。

 仲間が剣を抜いて斬りかかろうとしたので、俺は前蹴りをそいつの胸に入れた。


「ギンロー、戻ってこい」


 ひとまずギンローを横に戻ってこさせて、相手との距離を取る。ナスカとその仲間はカンカンなようで全員が武器を抜いた。


「オッマエエエ、覚悟しろよ!」

「元はといえば、そっちが売ってきたケンカだろう」


 俺ももう、こいつらを先輩扱いなんてしない。

 どちらが先に一歩踏むかという一触即発の状態を壊したのは、意外にも第三者のパーティだった。


「おいキミたち。こんなところで争いはやめろ。目的はラミアじゃないのか? こんなところで無駄な体力を使ってどうする」


 まさに正論であり、感情的なナスカたちも冷静さを取り戻した。


「ケッ、覚えてろよ。ギルドで会ったらボコボコにしてやる」

「黙ってやられるつもりはないけどな」


 少し睨み合いの後、ナスカたちは山を登っていく。止めてくれた冒険者に、軽く事情説明して礼を述べておく。


「いいんだ。そんなことだと思った。あいつらは最近登録したDランクなんだけど、ガラが悪いって噂だったんだ」


 彼らも新人だったんだ。道理で風格みたいなものがないわけだ。


「ラミア狩りだろうが気をつけるんだよ。基本単体だが、中には複数で動くのもいる。それを見つけたら逃げた方がいい」

「ご忠告、感謝します」

「うん、キミは礼儀がなってるね。きっといい冒険者になるよ」


 冒険者も荒々しい人たちばかりではない。この人たちを目にすれば明らかだ。

 彼らと別れてから、俺はギンローの頭を撫でる。


「さっきはありがとな」

『ギンロー、クヤシカッタ……。ユウト、ツヨイ、カッコイイ。ダカラ、クヤシカッタァ』

「よしよし、可愛いやつめ」


 コチョコチョとくすぐってやると、楽しそうにするのでしばらくジャレた。

 それから山を登り、ラミアを探す。気配察知があるので接近されたらわかるが、警戒は怠らない。


『ユウトー、イヤナニオイ、スル』

「魔物の臭い、わかるのか。どっちだ」

『コッチ』


 ギンローについていき、緩い斜面を上る。山は枯れ木が多く、見通しがあまり良くない。

 斜面を登り切ると、すぐ近くに生物の背中が見えた。


 上半身が裸で腰あたりから下が蛇なので、ラミアで間違いないだろう。

 ただ、想像していたよりはデカいな……。立ち姿で二メートルは超えている。


 クチャクチャ、クチャクチャ。

 上品ではない音を立てて食事をしているのだが……どうも人間の内臓を食ってるようだ。


「二人がかりで負けたのか……」


 死体は二つある。二対一で冒険者が負けたと考えると油断できる相手ではない。

 食事に夢中で気づかれてないので先手を打つ。

 髪を汚さないよう、土魔法を選ぶ。尖岩弾せんがんだんという鏃のような形を岩を作り、飛ばす。


「ギャッ!?」


 背中に刺さるとラミアが悲鳴を上げ、振り向いた。化け物顔を予想していたのだけど、普通の女性の顔で意外だ。

 ラミアは歯を剥き出しにして、蛇と同じく地面を豪快に這って俺に接近してくる。その速度たるや目を瞠る物があり、俺は反撃ではなくて横に転がって逃げる。


 バキバキッ――ラミアが背後にあった細木に体を巻き付け、瞬時にへし折る。

 なるほど、捕まったら相当危険っぽいな。

 さらに折れた木を投げつけてくる。俺がこれを切り落とす間に、肉薄してくるのだから頭もいい。

 だが、刃を返して掴みかかってきたラミアの顔を斬る。


「くそ、ちょっと浅かったかッ」

『テツダウ!』


 ギンローがラミアの腕に上手く噛みつき、相手の注意を引きつける。タイミングを窺い、俺は刃先を敵の心臓に突き刺す。

 弱点は人と同じらしい。血も赤い。

 死亡確認の意味も込めてフリーPを調べると、なんと80も増えていた。


「生きてますかっ」


 虚しい声かけとなった。二人とも完全に死亡していた。


「この依頼、Cランク設定の方がいいだろ……」


 俺は身体能力や剣術スキルがあるが、駆け出しの新人だとかなり苦戦するはず。

 ともあれ、ラミアの髪を切って収納する。情報通り、綺麗な黒髪だった。

 これで依頼は達成だけど、まだ余力があるのでP稼ぎで引き続き狩りを続行。


『ナカマイタッ』

「うそ、どこに!?」


 首を回して探すが俺には見つけられない。でもギンローは走り出した。

 そして地面にいる何かを前脚で抑えつけてグリグリとやっている。


「それは、マムシ?」

『オナジイロ、ナカマ?』

「あ~、仲間っちゃ仲間だけどなぁ」


 ラミアも下半身はマムシと似た柄なので、ギンローは子分だとでも思ったのだろう。


『タベテイイ?』

「そいつ毒あるからダメかな……待てよ」


 ここで俺は閃いた。錬金術でこいつを活用できるぞ。

 ゲームでは、ナイフや矢+毒生物で、毒矢や毒ナイフを生成することが可能だったはず。ただ質を上げるには一匹では弱い。


「同じ蛇、探して倒すことってできる?」

『デキル!』


 ギンローは優秀な子で一時間で五匹も集めてくれた。

 俺はこの死体とストーカーからこの前奪ったナイフを使って、毒ナイフの生成に成功する。

 さらに50P消費して投擲2を会得しておく。

 二時間ほど、ナイフを木の幹に投げつける訓練をして投擲3に強化した。


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