69話 悪魔八獄
日課の千里眼を発動させたら、トランスが冒険者たちと殺し合いをしていたのは驚いた。場所はすぐにわかった。ここの冒険者たちに連れて行ってもらったことがある。
貴重な道具や薬が多く、冒険者の間でも人気なんだとか。
宿から屋根を伝って転移でいくと二、三分で到着した。冒険者が逼迫していたため、誰にも伝えずに急いできた。
でも二人……救えなかったのは無念だ。少女を慰めようとしたが泣きじゃくってて話しを聞いてくれない。
兵士を呼んでくるべきか。でも彼女一人にするのは不安が残ると考えていたら問題が発生した。
いなくなったんだ、彼女が。ほんの数秒目を離しただけだというのに。周囲を見渡すと屋根上に人影を見つけた。
「貴様がユウトじゃな」
「……彼女になにをした?」
「気絶しただけじゃよ。そちらが動かなければ殺しはせぬ」
七十くらいの老爺だ。カンフー達人が着ていそうな裾の長い衣装で、肩まである銀髪が夜風に泳ぐ。
顔つきと行動を見ただけで真人間じゃないと理解できる。
現在、あいつは少女の首を掴んでいる。転移だろうと、俺が動けば即座に殺すだろう。
このタイミング。あの行動。そしてトランスよりも覇気が数段ある。
「まさか、お前がベルゼガスなのか」
「いかにも。儂の眷属がやられたと知り、もしやと思ってな」
「眷属がやられたのに余裕だな」
「少々驚きはしたが予想の範疇じゃよ。さて、お主も疲れたじゃろう。決着は明日の夜としようぞ。悪魔集会が教会で開かれる。そこにパーティでくるがよい。余計な人間を連れてきたときは、この少女の命はないぞ」
一方的に話すと、ベルゼガスは少女を担いだまま立ち去った。
追いかければ彼女が殺される。覚醒状態ももう終わりだったので無理は禁物か。
しかしトランスがやられてから到着までかなり早い。案外近くに隠れ家があるのだろうか。
ひとまず俺は宿に帰って事の流れを仲間たちに説明した。
明日の相談は夜遅くまで続く。ベルゼガスは間違いなく罠を仕掛けてくるだろう。素直にパーティだけで向かうべきか否か。
ギルドにも協力要請を出した方が賢いのかもしれない。でも選択肢は未来ある少女の命を見捨てるのと同義でもあった。
全員、パーティだけで乗り込むということで意見が一致した。
朝までしっかり眠り、俺たちは夜まで準備する。といっても、普段と同じことをやるしかない。
フリーPを貯めまくる。みんなの協力もあって現在では8000Pオーバーになった。昨日トランス相手に使ったのでかなり頑張ったよ。
神様、転生直後に一万もくれるなんて、ガチで優しい人なんだね……しみじみ。
さて、早めの夕食を取って数時間仮眠して。体長をバッチリ整えてから俺たちはいつもの顔ぶれで教会へ。
服装に統一感のない男数人が入り口を固めている。一応武器を手にしていたけど、俺たちに暴力を振るうつもりはないようだ。
名前を訊かれて答えると、すんなりと中に通された。
サディスティア教会はトラジストでもトップクラスに大きい建物だ。日中は一般人にも解放されており、巡礼者たちが多く集まるという。
神を崇拝する教会を悪魔が利用する。この教会はカルトルとジスタード、他の数名による貴族たちが共同所有している。
門番たちに案内されて、奥の礼拝堂へ入った。本来は長椅子が用意されているのだろう。今は取っ払った状態で、奥に相当な数の人間がいる。オリーヌやソフィアが警戒する。
「百人はいるかしら」
「しかも全員武器を所持しています」
一段高い説教台に立つのが昨日の老人……ベルゼガスだ。近くの床に、昨日の少女が縄で体を巻かれて横にされていた。意識はあるし、外傷も見当たらないので少しホッとする。
ジスタードとカルトルの姿も発見できた。この場にいるって時点で黒確定だけど特に驚きはしない。
「よく臆せずにきた。ギルドなどに報告もしなかった。そうじゃの?」
ベゼルガスは横に視線を流す。偉そうに咳払いしてから問われたジスタードが話す。
「ええ、間違いありません。この町の情報は私が全て網羅しております」
「恥ずかしくないのか、領主ともあろう者が悪魔に与するなんて」
俺は半分呆れ気味に訊いた。ジスタードは唾を飛ばしながら大笑いする。自分の親どころか、その何世代前からずっと悪魔と組んでいたと自慢げに話す。
逆らう者は全て消してきたとも。反旗を掲げる者は拷問の末にいたぶって始末してきたそうだ。
ゲス野郎以外に、こいつを表現できる言葉ってあるんだろうか。こんな強欲なやつでも主人が口を開こうとすると一応黙るようだ。
「儂は、たまにどうしようもなく退屈になる。いつもは弱き人間をいじり殺して暇を凌ぐのだが、今回は楽しめそうじゃ」
「ベルゼガス! あたしの親友を殺したこと、忘れたとは言わせないわよ!」
「殺した人間のことなどいちいち覚えておらんわ。貴様とて、倒した魔物の顔を逐一記憶したりせぬだろう?」
挑発というよりは素で話している。それが余計にオリーヌの神経に触れるのだろうが。俺は肩に手をかけ、冷静さを取り戻すように促した。
頭に血がのぼったままじゃ技も精神も雑になる。
彼女は聡明だ。呼吸を整えて、すぐに平静を取り戻す。
ベルゼガスもオリーヌにはそれほど興味はなく、ギンローに気持ち悪い視線を注ぐ。
「マーナガルム。まだ生まれて間もないのじゃろう。この段階なら、儂の配下にすることも可能か。久々に胸躍るわい」
『ハイカッテ、ナニ?』
「手下ってことだよ」
『ヤダ~。アンナノトイッショニ、クラセナイ~』
「はは、大丈夫。俺がさっさと倒すからさ」
「ほうほう。飼い主に似るとはよく行ったものじゃ。まあよい、そろそろ始めよう。カルトル」
「はっ」
ゴホゴホと咳をしながらカルトルが一歩前に出る。俺を一瞥して、一瞬でも信じた自分が愚かだったと口にしていた。錬金術師の件だろう。
カルトルは信者たちに筋肉増強剤を飲むように指示した。信者は全員、手にコップを持っていた。中身までは見えないけど中に増強剤が入っているはず。
増強剤って液体なのか? ポーションみたいに異世界特有の飲み物だろう。身体能力をあげた上で、数の暴力を振るうわけだ。
「がああ、がほ、がほがほっ」
「ちょ、ば、これ……なに……苦しい」
異常事態? 信者たちが次々に苦しみだした。胸をかきむしったり、座り込んで嘔吐する者など。
本人たちも聞かされていなかったのか、カルトルに説明しろと手を伸ばす男がいた。
それを容赦なく前蹴りして押し返すカルトル。よぼよぼの老人のキックにも耐えられないほど、彼らは辛い状態なのだ。
「馬鹿めが。筋力増強剤など渡すものかよ。それは水にベルゼガス様の血を一滴入れたものだ。一滴ならば、お前らのような人間も強くなれる。もっとも三十分後には変わり果てた姿で死んでいるがね。もう、理性もなかろう」
信者たちの体が化物的に変化する。筋肉質になる、肥大化する、翼が生える、四足歩行の獣のようになるなど。共通点は肉体が全員どす黒くなっているのと目が赤一色になっていること。
よだれを垂れ流す元信者たちにベルゼガスが命令を下す。
「その者たちを殺すのじゃ。ただし狼の魔物だけは生け捕りにしろ」
本物の悪の手先となった化物たちが横何列にもなって攻めかかってくると広いはずの礼拝堂も狭く感じる。
さすがにこの数相手は押し切られるな。
俺は覚醒スキルを発動し、続けざまに800Pを払って広範囲の結界魔法を使った。




