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62話 作戦


「ふがぅ……」


 彼女の脇腹を殴ったときの感触は、硬い。相当腹筋を鍛え上げているのだと一発で伝わってきた。

 口は悪いけれど努力家なんだな。少し感心しつつ俺は転移でその場から逃げる。ピピが豪快に殴り返してきたからだ。

 拳が虚空を切ると、非常に悔しそうな表情をしていた。


「逃げんじゃないっての!」


「使える技を使うのは当然ですよ。それより、もうやめましょう。俺は眠いですし、明日から訓練もあるんでしょう?」


 度を超した馬鹿ではないらしい。ピピが剣を収めたので俺はさっさと町に帰ろうとする。


「もう近いし、一緒に帰らないかい」


「結構です」


 俺はトランスのお誘いを断り、一人で外壁までいくと転移で町の中に入った。

 それから妙に輝きの強い月を見上げ、ため息をつく。


「なんだかなぁ……」


 あの人たちには、嫌でも注目しておくべきだろうな。



 翌日からクラーケン討伐のための訓練が始まった。


 この間の経験も活かし、次の戦いではどのように動くかの確認と連携が主だ。クラーケンは本体を海の中に隠して攻撃する。どうやって海面におびき出すかは過去のデータから判明している。


「捕食の触手を二本とも失うと、あいつは躍起になって取り戻そうとする」


 再生に時間がかかるので失いたくないのだろう、とトランスは付け加えた。

 クラーケンは触角だけで生体反応を探れるが完璧じゃない。焦ると視認したくて出てくるってわけだ。


 ただし口が大砲の口みたいになっており、そこから水やら発射する。撃たれたら水圧でやられる可能性も高い。


 なんといっても倒す方法。相手の体は超ビッグサイズ。子に邪魔されながら本体を倒す余裕があるのかってところでみんな黙り込む。調子こいたのがウリュウとピピだ。


「俺がいるだろ? 俺の高速魔法ならやれるさ。一発じゃ無理でも何発も叩き込めばいける」


「いいや、あーしの多閃斬撃なら倒せる。今回ばかりは自信があるのよ」


 自己主張が強くてケンカ仕掛けている。あれでよくパーティ組めてるよね。


 どうやって本体に近づくのかとトランスに問われると、二人とも俺を見た。転移魔法で連れていけと? 俺に頼らないで戦ってほしいものだ。そんな都合の良い男はごめんなので、やんわりと断った。


 めっちゃキレられたけれど。


「だったら提案を出せ。使える力を使わないのは怠慢だ」


「そうですね……俺が強力な魔法をクラーケンの本体に使うか、もしくは破壊力のある武器で攻撃できる人を転移させるか」


 別に転移させるのが嫌なわけじゃない。あの二人を連れていくのは避けたい。実は感情的な話だけじゃなく、俺はあのパーティを懸念している。

 命がかかるところでは共闘したくない。


「あたしはどうかしら?」


「待ってました、と言いたいよ」


 オリーヌが名乗り出てくれたので本当に嬉しい。信頼できるし、破壊力も申し分ない。


 本当に成功できるのかと半信半疑の人もいた。そこで広場で試してみる。


 彼女はクラーケンに有効そうな大技があると言う。跳躍して高い位置から魔力を込めた大剣を地面に振り下ろす技。名前は、流星落とし。厨二ネームかっこいいと思います。


「クラーケンの本体に足場があればいいけど、ないなら上空に連れてってほしいの」


「技は、空中からでもいけるのか?」


「練習すればやれるはずよ」


 上段に構えたオリーヌに触れる。

 十メートルくらい先の空中に転移。オリーヌはバランスを崩すこともなく、地面に豪快に大剣を振り落とした。


 轟音――!


 そして派手にひび割れる石畳の地面。壊れた石が破片となってあちこちに飛ぶ。


「やっぱり本調子じゃないけど、まずまずね。練習でもっと威力は上がるはずよ」


 このセリフで作戦の方向性が決まった。顔面にこれをかまされたら、さすがにクラーケンも致命傷を負うはずだ。

 仕留めきれない場合、俺が覚醒して強力なのをぶち込むって方法もあるしな。


 各自チームを組んで訓練していく。ソフィアはギンローを抱いたまま二段ジャンプして、空中で放り投げて攻撃させる方法を編み出した。

 触手は上に逃げるもんな。


 夕方に訓練を終え、ギルドでみんな一緒に食事を取った。


「僕たち、これから針馬を狩りにいくんだ。良かったらアドバイスもらえないかな?」


 トランスのパーティに誘われた。体力的には問題ないけど断らせてもらう。俺はトランス、ウリュウ、ピピの三人を信用していない。合う合わないもあるが、それ以前の問題だ。


 ピピが俺を罵ってきたので適当に流そうとしたら、ソフィアが激憤した。


「いい加減にしてください。先生は攻めに守りに人一倍頑張っています。それに先生がいなかったら作戦だって成り立ちません。汚い言葉を使うのはやめてください!」


「言うねーお嬢ちゃん。そんなに~ユウトが好きなの~?」


「貴方こそ、トランスさんが好きなんじゃないですか」


「なっ!? あ、あーしがそんな乙女に見えんのかよ!」


「見えますね。いつもベッタリしていますし」


「表出なさいよ、相手してあげるって言ってんの!」


「望むところです」


 女のプライドをかけたバトルが勃発! なんてのはどうにか回避させた。宥めるのにだいぶ苦労した。周りの野次馬に煽る人がいるから困るよ本当。


 ギンローはこの状況で眠ってしまうし……。


 冒険者は気が強い人が多いので、ある程度の衝突は仕方ないのだろう。


 訓練と魔物狩りで時間が消費される日々が流れていく。

 フリーPは4000まで貯まったが新しいものは取らないでおいた。覚醒したときのことを考えて。


 オリーヌは要塞と町を頻繁に行き来してたけれど、悪魔の情報を掴むことはできなかった。

 クラーケンを倒してからゆっくり取り組めばいいだろう。


 訓練は順調だったけどウリュウとピピとは度々ちょっかいを出された。

 途中、抵抗してウリュウと魔法勝負を行った。難なく勝利した。拍子抜けしたほどだ。

 得意技は爆炎矢を連続で撃つという派手なものだが、それだけだ。爆発を避けつつ、魔力調整スキルで強めのをお返ししたら尻もちついて軽い腰痛になって終了。


 そうそう、ピピに関してもソフィアに完敗していた。斬撃波をことごとく躱され、距離を詰められて終わり。俊敏で手数の多いソフィアの剣技の前に為す術がなかった。


 それ以来、ピピもウリュウも俺たちにデカい態度を取ってこなくなった。二人ともトランスに比べると実力はかなり落ちる。


 ともあれ、一週間が経過して、俺たちは訓練の成果を試すときが訪れた。



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