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60話 馬と迷惑人


 トラジストはここから半日も馬車を走らせれば到着するらしい。

 ってことは、ベルゼガスの手下が近くにいてもおかしくない。


 実際、ここの住民が避難している要塞に悪魔が出没中だ。距離はここから一時間程度。

 オリーヌはこれから要塞に行き、悪魔の調査をするらしい。ソフィアもこれに同行することになった。


 俺も付き合いたいが、やることがある。

 フリーPを貯めたい! クラーケンや悪魔との戦いに備えておきたいんだ。


 そこでギンローと魔物退治に出る。

 今日中に二つ目のチートスキルを入手する。


 地元の冒険者にスポットを教えてもらって、そこへ向かった。そして山の麓で、お目当ての馬の魔物と出会えた。


 普通の馬の倍はあるし、体中にトゲが生えている。


 針馬はりうまというのだとか。密度が高いので刃物で攻撃しても弾かれるだろう。


『ヤク?』


「トドメは俺が刺したいんだ。試しに俺がやってみる」


 まずは相手の単純な突進をゴロンと転がって避け、振り向きざまに爆炎矢を放つ。命中して爆発したが、効いていない。火耐性が高いね。


 じゃあ次は落雷だ。ギンローに相手の注意を散らしてもらい、準備完了してから雷を落とす。


「ヒッヒッヒーン」


 俺を馬鹿にするような嘶きやめてくれる?

 にしても全然効いてないのな。落雷より強い三雷使っても結果はそう変わらないだろう。


『ジャア、アレヤッテミッカー!』


 ギンローに策があるようで、針馬の周りをぐるぐると回り出した。相手を翻弄する動き。少し目が回ったのか針馬がグラついたところで、ウォーターブレス。


 スライムを食べて覚えた技だ。

 消防ホースのごとく水を噴射することも可能だが、今回はドロッとした液体に変化させている。


 針馬が不快さに足踏みをする。動作が少々鈍い。


『ハリ、ナイトコネ~』


「了解」


 針が存在しない箇所は主に二つある。目と口だ。俺は半開きになっている口の中に剣を突き入れ、首の後ろまで貫通させた。


「頭いいな。応用力がすごいよ」


『サカナ、イッパイタベタ! ダカラ!』


 なるほどね。昨日の宴では港町だけあって干物など、魚系の食べ物が多かった。


 こちらでも魚を食べると頭が良くなるという認識がある。面白いのは、新鮮なものを早く調理するほど効果が高いと思われている。


 貴族の中には港で料理人と待機して、漁師から受け取り次第調理を始めさせる人もいるのだとか。


 ご苦労様……。ギョギョギョの人が見たらキレそう。


 さて、針馬の針は切り取る。錬金で使えそうだ。

 フリーPもかなり入るので、夕方まで馬狩りに集中した。


 ちなみに針馬は、この辺では外道馬とも呼ばれる。特に子供を殺したがるからで、過去には三人の幼児を背中に刺したまま見せびらかしたこともあると。


 単独でも倒せるよう工夫をして戦う。

 俺は土魔法の落とし穴でハメ、上がってくるところに剣を刺す。これで殺せると知った。


 ギンローは俊敏性で圧倒してから、爪で何事もないかのように仕留めていた。

 針……。剣すら弾くそれを強引に爪でぶっ壊す。そのワイルドさに痺れるね。


「ギンローが猫じゃなくて良かった。怒ったときにひっかかれるだろ? ハイヒールでも治らなそうだ」


『ゴロニャーォ。ニャオニャーオ。ネコニモ、ナレルヨ~』


 猫の手まねきを真似したので俺は走って逃げる。

 すぐに追いつかれた。身体能力じゃ勝てねえ。転移で近くの木の上に移動。


 ギンローはキョロキョロと左右を確認している。

 よしよし見失って……


『ミッケー!』


 ええ……今、俺はギンローの尻尾側にいたんだぞ。なんでそう簡単に発見できたかを訊くと、ニオイと返ってきた。

 そうか、ギンローの嗅覚は尋常じゃない。俺が嗅覚スキルを極めても足元にも及ばないな。


「なあ、前に悪魔とか雨女とかいただろ。あいつらの臭いって共通点ある?」


『イキモノ、ソレゾレチガウヨ~。デモ、イヤナニオイ。モノスゴク』


「例えば、今回の冒険者たちの中に嫌な臭いさせている人とかいるかな?」


『イナイカナァ。デモ……ウスイヒト、ナンニンカイタ』


 人間にしては体臭が弱すぎる人たちがいると。俺としては、当然それが誰かを訊く。


『ナマエ、ワスレタ!』


 うおおーーい、ギンローさんやー……。

 しっかりしておくれと気合い入れたいとこだが、ぶっちゃけ俺も全員は覚えていないしね。


 仕方ないなと狩りを続けて夕方に港町に戻る。

 ギルドで針を切り取った馬を二体、収納から出す。肉は普通に食えるらしいので。


「二体も倒したの? やっぱりあなたってすごいのね」


「いや、二十体は倒しましたよ」


「えぇ……。嘘……ついてる顔じゃないか」


 周囲の人たちが驚き通り越してドン引きしている。

 戦闘力もさることながら捜索能力がおかしいと指摘された。


 タネは簡単。ギンロー先生の嗅覚に頼るだけ。ま、俺も一応気配察知スキルはあるし、生物の気配は感じ取れる。


「あなたたちって、良い意味で似たもの同士よね。規格外プラス規格外っていうか」


「うんうん、こんなCランク怖すぎる」


 とかなんとか言いつつ、みなさん馬の料理してくれるから好きです。


 待っている間、俺はギルド内の物資を確認して臭い消しがどれかを教えてもらう。どこにでもありそうな緑の葉っぱだった。


「それをお湯につけて一日置く。その水を髪や皮膚に塗ると臭いが薄くなる」


「誰が使用してます?」


「リーダーのパーティだ。肉を食うため獣もよく狩るからな」


 ちなみにそのパーティは全員外出している。特に妙な点はないな。


 トランスのパーティはここじゃ有名で、ギルドへの貢献度も高い。トランスはSランクも確実だと思われている。そりゃあんだけ強いしな。


「でもトランスって、熱くなると前が見えないタイプじゃないですか?」


「あー、そういうとこあるな」


「――リーダーの悪口か?」


 会話に割って入ってきたのは、背が高くてオールバックの青年だ。裸の上に、直に前開きの黒い上着を着用。鈍器にもなりそうな大杖を軽そうに持っている。


 目つきは悪い。っていうか隈が凄い。寝てるのか心配になるレベル。


 この人は? という疑問の視線を冒険者に送る。


「ほら、パーティメンバーの一人だよ」


「ウリュウだ。よろしくな、実力派のユウトさんよ」


 手を出してきたので反射的に応じたら、相当強く握ってきやがった。

 握りつぶしてやろうってのが明らかだ。少々、否、かなりムカつくので力を返させてもらう。


「そろそろ離してもらえますかね」


「ほう。やっぱ強えな。ほらよ、自由を楽しめ」


 どこにでもいる性格の悪い男か。目をなるべく合わせないようにしてそそくさとテーブルに座る。

 普通に隣に座ってくるから困る。


「お前もちょっと強いからって調子乗ってんじゃねえぞ。俺だって攻撃は大得意だ。特に魔法な。クラーケンごとき、俺の特大魔法で余裕なわけだ」


 じゃあ、あんた一人で倒してくださいよ。大事になる前にサクッと倒してくれたら俺もこなかったのにね。


 自分語り兼自慢話に俺は耐える。

 ギンローはどっかいっちゃったし、ソフィアたちもまだ帰ってこない。


 飲み会で嫌いな上司の隣になったときの気分だ。


 つまり最悪ってこと。



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