表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/70

6話 ストーカーをしばく

「今日は少し大きくなった程度だな」

 

 朝起きるとギンローのサイズチェックするのが日課になった。

 もしかして、食事量か栄養が足りてないのかもしれない。


「急成長ないと逆に心配になってくるよ」

『シンパイ、シナクテ、イイッテバヨー』

「あっはっは、どこで覚えたんだよ~」

 

 ギンローを何とか抱っこして一階に下りる。

 食欲は相変わらずで安心する。

 豚肉を食べて『ブッタニク、イチバンスキー!』、魚を食べて『サカナガ、イチバンダヨ!』、卵料理を食べて『イチバンハ、タマゴーッ!』。

 君はあれか、三股とかしてる彼氏かい?

 賑やかな食事を終えてから、アリナさんと軽く打ち合わせする。


「それじゃ、治癒の仕事が終わったら落ち合いましょう」

「よろしくお願いします」

 

 ギンローを預かってもらって、俺はジェシカ治癒院に向かう。ストーカーは大抵午後から動き出すので、午前中は普通に過ごす。

 今日も金持ちを治療していると、ジェシカさんが言う。


「知り合いの道具屋が、いいポーション多く仕入れたみたいなの。すごい錬金術師がこの町にやってきたみたいよ」

 

 ……それ、俺のことじゃないの? 


「へえ、そうなんですね」

 

 一応知らないフリをしておく。ポーション売りまくるなど、治癒院からしたら商売敵に思われてもおかしくない。

 ところが、ジェシカさんの反応は逆だった。


「私も会ってみたいわ。いい人だったら結婚したいくらい」

「いや、それはちょっと」

「え? どうして貴方が反応するの?」

「あっ、怪我してますね、どうしましたー!」 

 申し訳ないが、患者さんを利用させてもらって誤魔化した。

 昼前には三十人以上を診終わったので帰り支度を始める。


「ねえユウト。今日見てて思ったんだけど、貴方のヒールの効果上がってない?」

 

 最初彼女に披露したときは回復魔法2だったけど、今では3に上がっている。


「多くの人を見たからかもしれませんね」

「一日二日で……? 何年か修行したみたいな風に感じたわ」

「それじゃあ、失礼します~」

「あー、誤魔化したわねぇ~~」 

 

 俺だけチートもらってますから、なんて説明はさすがにしにくいからなぁ。

 待ち合わせ場所に行くと、すでにアリナさんとギンローが待っていた。

 抱きついてペロッペロッしてくるギンローをいなしつつ、昼飯を食べに行く。

 

「安くて従魔オッケーなところ紹介しますね」

「気を遣ってもらってすみません」

『スミマシェン!』 

 

 そうそう、この大食いギンローのためにスミマシェン。

 場所は大きめの大衆食堂で、鳥肉と魚料理を出してくれるところだった。

 白米がないのと味付け薄めなのが残念だけど、贅沢は言うまい。


 食事中、彼女がチラチラとアイコンタクトをしてきたので俺は確認する。


「もしかして、いますか?」

「……はい。隅っこに座っているローブの人です」


 ワイン色のローブで、フードを目深に被っているため顔はよくわからない。体格は並だ。

 あいつは元々、青鳥亭に客として訪れたのだが、その時にアリナさんに一目惚れしてしつこくデートに誘うようになった。

 何度も断られると、ああやってストーカー化した。


「自分以外の男と付き合ったらそいつを殺す、が脅し文句でしたっけ」

「はい。ですから、私たちもあまり恋人とまでは思われない方が」

「いえ、どうせ倒すんだ。挑発しましょう」

 

 店を出る際、俺は許可を取ってアリナさんと手を繋ぐ。それだけだと甘いので、肩も抱き寄せてみた。


「どこか迷惑をかけずに闘えるところってあります?」

「ありますけど、無理だけは」

「平気です。ギンロー、お前はアリナさんを守るんだぞ」

『ウイ!』

 

 覚悟は決まったので案内してもらう。フード男は、予想通り後をつけてきている。 

 町外れのひと気のない公園で、俺は立ち止まってフード男を待つ。相手は堂々と公園内に入ってきた。


「アリナァアアアア! てめえおれを裏切ったなぁああ!」

 

 人の目も気にしない怒声で人を脅かそうとする。この怒気まみれの男には嫌悪感しかない。

 肩をふるわせ、怯えているアリナさんが可哀想だ。


「いい加減にしろよ。少女につきまとって恥ずかしいと思わないのか」

「……お前、名前は?」

「ユウトだ。そっちも名前を名乗れ」

「ケルアだ。死んでいく野郎に名乗ってもしょうがないけどな」


 殺気満タンだな。俺も久しぶりにここまでイラついているので剣を抜く。ケルアは、果物ナイフくらいの刃物を両手に一本ずつ握っている。


「おれは絶対に的を外さねえ、絶対にな」

「そういう御託はいいから、早く投げてこい」

「ギエエエエエエエッ!」

  

 奇声と共に投擲してきた。言うだけあって速いがちゃんと反応できる。剣を振って弾くと、二投目がすぐに迫る。これも難なく。

 ここで三投目が即座に来たのでさすがに驚いた。


「アハハハハッ、おれは止まらねえぞ。いつまで剣を振れるか見ものだぜ」

 

 対処しつつ観察すると、どうもスキルの収納からナイフを出して、そのまま投げているようだ。

 大量にしまっておけば、体力が続く限り延々と投げられるわけだ。

 そこで、投擲の合間を盗んで電撃を飛ばす。雷魔法だ。


「痛ェ!?」

 

 手に命中して、ケルアはナイフを落として動きを止めた。俺は疾走して顔面に膝蹴りを決める。

 倒れたケルアの首元に刃を突きつけて見下ろす。


「死ぬのはお前の方だったみたいだな」

「こ、殺さないで、お願い」

「でも生きてたら、アリナさんにつきまとって迷惑かけ続けるんだろう? 死んだ方がいいな」

「やめる、もう二度とやらない。約束するから」

「お前みたいなやつの約束ほど信じられないものはない」

 

 本心だ。俺はケルアの腕に関節技を決めると、右腕を思いきり折った。耳をつんざくような汚い悲鳴が響き渡る。


「次は左腕だ。もう投擲できないようにな」

「本当にっ、本当にもうつきまといません……! 宿にも二度といきませんから、許してください」

「次、アリナさんの前に顔を見せたら命はないぞ。いいな?」

「はぃぃっ、はいぃぃっ」

 

 目が完全に敗北者のそれだったので解放してやることにした。ケルアはナイフも回収せずに這々の体で逃げていった。

 ちょっとやり過ぎた気がしないでもないな。

「これで、もうストーカーはやめると思うんですけどね」

「やっぱり、ユウトさんってすごく強いんですねっ」

『ツヨイ、ユウト、ツヨイー!』

 

 ま、九十九パー、チートのおかげですけどね!


  ◇ ◆ ◇


 その日の晩、俺はまた夜中に起こされた。

 昨日と同じノック音。そしてドアの外にいたのもアリナさんだった。ただ昨日と違って、その、扇情的というか――ランジェリー姿なのはなぜだ!?


「ど、ど、どうしました?」

 

 年甲斐もなく慌てる自分がカッコ悪い。不意打ち過ぎてね。


「中に入っても、いいですか」

「どうぞ」

 

 彼女は室内に入るなりドアの鍵を閉める。なぜ鍵を? と俺が疑問に思った瞬間、胸に抱きつかれて思考が吹き飛ぶ。

 

「今日はありがとうございました。本当に助かりました。これはお礼っていうか、お願いっていうか」

「お礼ならもう受け取りました」

 

 五万まけて、二十万ギラほど受け取ったのだ。

 彼女は薫香漂わせながら、上目遣いで俺の顔を見つめてくる。たまらず顔を逸らすと残念そうな声音が返ってきた。


「今晩だけでいいんです。それとも、私はそんなに魅力ありませんか?」

「そんなことはないです。でも、まずいんですよ。成人男性が十八歳未満に手を出すと捕まりますし」

「そんな法律、フィラセムにはありませんよ?」


 あぁ、そりゃないわ……だってここ異世界だし。それに、と彼女は付け加えた。


「仮にそうだとしても問題ありません。私、実は今日が誕生日ですから!」

「そうでしたか……」

「だからこそ、初めてはユウトさんがいいんです」

 

 えーっ、すげー展開きたな……。しかも彼女、腕を回して俺をガッチリホールドしている。本当に初めてかってくらい積極的だ。

 まあ、俺も男なわけで、ここまでされて逃げたらさすがに恥だと感じる。

 結局、彼女の希望に応じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ