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55話 自己紹介


 フィラセムを出発してから、ギンローは馬車内で退屈をしていた。あくびをかみ殺し、伏せの状態で休む。


 ソフィアとオリーヌの方はずっとユウトについての話をしている。会話内容には尽きないようだが、たまにはギンローのことを気遣ったりもする。


「先生っていつも忙しそうなんです。ギンローと一緒のときはどんな感じ?」


『イツモ、ナニカト、タタカッテル』


「やっぱりそうよね……。週七で働いているときもあるし」


 異世界人は働きものの人が多いのか、という話題に移っていく。セラフィムはよく働く人が多いけれど、ユウトは比較にならないほど仕事するというのがソフィアの印象だ。


 移動の三日間、ソフィアとオリーヌは色んな女子トークをしたけれど、話せば話すほど異世界人への興味は深まっていくばかりだった。


 ギンローは基本的に寝ており、たまに外に出て馬車と並走する。馬車の速度はギンローにとっては遅いので、散歩のような感覚だ。


「お疲れ様、リーバレッドに着いたわよ」


 港町の入り口で、まず見張りの兵士による検問がある。オリーヌが身分証を出して、怪しい者じゃないと証明する。


 Aランクと知らされた兵士の態度は、非常に丁寧なものになった。ギルドまで案内される途中、ソフィアは首を傾げる。思ったより町の損傷が少なく、景観も崩れてはいない。


 大々的に救助を要請する被害には思えない。その疑問を案内の兵士に教えてもらう。


「クラーケンが最初に襲撃してきたのは約十日前です。そのときは、大して暴れずにさっさと引いたのです。二回目の襲撃はまだです」


 二回目の襲撃はあるのだろうか? そんな風にソフィアは疑問を抱いた。過去に一度クラーケン討伐に参加したこともあるオリーヌが、それを読み取ったかのように話す。


「クラーケンは賢いのよ。まず町の規模や戦力を測るの。そして潰せそうなら、力を蓄えて何度か攻め込むのよ」


 クラーケンの一番の目的は大量繁殖。それも強い子を産むことだ。あらゆる生物が子を産む補助になるが、人間を吸収してできる子は特に強い。


 だからこそ、ここの領主は早めに住民を全避難させたのである。


『オソワナイコトモ、アルン?』


「あるわ。最初の戦力調査の段階で強い冒険者や兵士が多くいる場合、クラーケンは違う場所に逃げるのよ」


『コノマチ、ドウダッタ~?』


 ギンローに訊かれた兵士は唖然としていた。まさか話すとは想像していなかったのだろう。ようやく我を取り戻し、質問に答える。


 襲われた当初、港町に一流の冒険者は不在だった。兵士も武器の準備が万全ではなく、追い返すのに手間取った。


 巨大な触手によって、何人かが押しつぶされて死亡した兵士もいた。最悪なことに、二人は海の中に触手で引き込まれた。食されたと考えて間違いない。


 そういった流れもあり、援助要請を各方面に出したのだ。オリーヌも確信する。


「まぁ、間違いなくまた襲ってくるでしょうね」


 領主の判断は正しいとオリーヌは確信する。ソフィアも緊張感を高めた。ギンローは普段通りである。そもそも緊張するということがほとんどない。


 三者がギルドに行くと、すでに五、六十人の人が集まっており、大がかりな会議を行っていた。


 内容はもちろんクラーケン討伐だ。兵士がオリーヌたちを紹介すると、全員がそちらに注目する。


「フィラセムからきたオリーヌよ。訳あって、一人は後から集合するわ」


「了解。僕はトランスだよ。ランクAで、今回の作戦のリーダーをしている。遠路はるばる、よく来てくれたね。心から感謝するよ」


 長髪を後ろで結った好青年が、敬意を持って三者に接する。顔が整っていることも相まって、その印象は良い。


 まだ若いのにリーダーを任されたということは判断力に優れ、本人も腕も立つのだろうと推測できる。武器は槍を扱うようだった。


「いきなりで悪いけど、ランクや経験を含めた自己紹介を頼むよ。なるべく能力も教えてもらえると作戦が立てやすいね」


 冒険者の中には、自身の能力を隠したがる者もそれなりにいる。能力がバレると不利になるスキルもあるので、トランスも強制はできない。ただでさえ、要請に応じてくれた大切な外部の冒険者なのだから。


 でもオリーヌは隠さずに伝えた。大剣をメインに戦い、念力も扱うことを。念力は相手の対象が少ないほど強力に発揮する。


 数が多いほど、力が分散する性質があるのだ。また対象が大きくなれば念力も通じにくくなる。クラーケンの本体の動きを止めるのは不可能だろうと正直に話す。


「Aランクだし、貴重な戦力になりそうだ。念力って初耳だけど披露してもらうことは可能かい」


「いいわ。誰が受ける?」


「ほーい、ぼくが受けてみたいねー」


 この場で一番体の大きい男が手を上げる。顔や腹にたっぷりと肉がついており、髪型がおかっぱなので外見のインパクトは大きい。


 対象が大きいと念力は効きにくいという話を受けて立ち上がったのだ。


「じゃあ、かけてみるね」


「うばっ……!?」


 オリーヌが左手を伸ばすと、おかっぱ男の顔つきが変わる。百キロの重りでも背負ったみたいな体勢になって動かなくなった。


「今は上から下に力をかけているわ。次は後ろから前に変える」


「ふおっと!?」


 おかっぱ男は誰かに押されたみたいに前へ出てくる。倒れないようにと足を使うので、オリーヌの前まで歩かされるハメに。最後に彼女がひとさし指を立てて、おかっぱ男の胸を軽く押す。


「この指がナイフだと想像すると、結構怖いでしょ?」


「……マジで、動けんかった」


 おかっぱ男の様子にギルド内がザワつく。トランスが嬉しそうに拍手する。


「凄い人がきたもんだ! これは助かるね」


「ありがとう。でもあたしの念力が、触手に通じるかは未知数よ。期待しすぎないでね」


「でも大剣もかなりの腕だろうし、どうしても期待してしまう。次は、そっちの君もいいかな」


 ソフィアが緊張しながら自己紹介をする。風魔法を使う剣士であることを伝える。


 剣や靴が魔道具で、普通とは少し異なった動きができることも。最後にDランクだと伝えると、みんなが目を丸くする。


 ここにいるのは、Bランク以上の者がほとんど。また冒険者登録してから日が浅いこともあって、誰もがなぜソフィアがここにいるのかと疑問を持つ。それを読み取ったので慌てて答える。


「私は、師事している先生のサポートで参りました」


「そっちの従魔は、その人のかな?」


「そうです」


「でも君自身も戦闘は得意なのだろう? 剣でも魔法でもいい。一つ見せてもらえないかな」


「わかりました」


 ソフィアはその場で一度跳躍する。その脚力に、感心の声をあげる者は少しいたが、真骨頂はここからだ。


 さらに空中でもう一度ジャンプ。天井をタッチしてから優雅に着地した。トランスが納得した様子で話す。


「魔道具の力なのかな。でも使いこなしてる感じだね。君も凄いけど、その先生に早く会ってみたいよ」


 受け入れてもらえたことに、ソフィアは胸をなで下ろす。


 二人を交え、トランスが作戦会議を続けようとしたところで待ったをかけた者がいる。


 ギンローである。


『ギンローノコト、ムシカ~?』


 喋るのかい!? とあちこちで声があがる。ギンローは一番目立つテーブルの上にジャンプすると、冒険者たちを眺める。


 ちゃんと注目されているのを確認してから、勝手に自己紹介を始めるのだった。



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