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54話 港町到着


 俺が次に向かった場所は冒険者ギルドだ。

 中に入ると、みんながきょとんとした顔をする。

 そんな中、新人に教育していたと思われるマスターのところへ向かった。


「はああ!? おめー遠征に行ったんじゃねえのかよ!?」


「深い事情がありまして……。別室で話せませんかね」


「わ、わかった。とにかく、ついてこい」


 他の冒険者にはあまり聞かれたくないので助かる。マスターの部屋で、俺はあらましを説明した。

 そして、ファスターを捕らえておける場所はないか助けを求める。


「なくはねえが……魔石集めはどうする?」


「少し時間はかかると思いますが、俺が集めます」


「異世界人に、なぜそこまで肩入れするんだ」


「ここだけの話にしてほしいんですが……俺も異世界人だからです」


 頼み事をする以上、打ち明けるのが礼儀だろう。それに言わないと、俺の行動は意味不明になるしね。

 マスターは少し黙った後、膝をぽんと叩いた。


「ユウトから感じる変わった雰囲気は、そういうわけかい。しかし、気に入った! 同郷想いのやつに悪いやつはいねえ! さすが期待のルーキー。魔石の件も、少しだが協力してやれるかもな」


「ありがとうございます、マスター!」


 俺は随分と上司に恵まれたようだ。遠征の件も、これから後を追うと伝えたら許してくれたしね。


 ファスターはここでマスターに引き渡し、俺はスタップと一緒にジェシカ医院を目指す。


 途中何度か話しかけてみたけれど、やはり反応が薄い。廃人みたいな感じだ。体も心も変えられて、可哀想に。自分の本当の名前くらい早く思い出させてあげたいよな。


 本日も盛況のジェシカ医院。ジャシカさんに少し時間を取れないか頼む。すぐに応じてくれたので、スタップの症状を調べてもらう。


 経験豊富な彼女は頼りになる。瞳孔チェック、触診、問診を得てすぐに結論を出した。


「魔失症という状態ね。体質に合わない薬や魔法を長くかけられると副作用で、色んなものを失うのよ。感情であったり、記憶であったり」


 合わない付与魔法を連続でかけ続けた際にも起きることがあるらしい。俺もギンローやソフィアにかけるときは気をつけよう。


 付与は特性を活かすのが重要。そんな豆知識をジェシカさんから仕入れる。


「それで、治せますか?」


「私は無理ね。でも同業者に、得意な人がいるわ」


「ぜひお願いします」


「ええ、任せて。彼はここで預かるわ、忙しいんでしょう?」


「助かりますっ!」


 俺はジェシカさんに頭を下げて、スタップにしばしの別れを告げる。やっぱり反応は返ってこなかったけど。次に会うときは、会話できることを願っている。本当のきみと話してみたいね。


 このまま馬車の手配に行くべきなのだろうが、俺は一度由里と伊藤さんに会いにいく。


 希望が見えたことを伝えたら、二人とも破顔して喜んだ。由里なんて涙を流していた。そりゃそうだ、辛い世界を経験してきたのだから。


「ただ、一ヶ月から数ヶ月は待ってほしい。魔石ってのを集める必要があるんだ」


「待てます! この宿に来てからはすごく楽しいですから!」


「良かった。伊藤さんも心労はあるでしょうが、少し待っていてください」


「ええ、万が一会社をクビなっていたときは……バックパッカーにでもなりますよ!」


 めっちゃ前向きだなこの人っ! むしろ転移に感謝している、とか言い出したしね。普通の人は経験できないことだから価値があるんだそうで。


 これほど前向きな人なら大丈夫。


 次こそ俺は遠征のために動く。まず馬車の手配だ。乗り合い馬車ではなくて個人で雇って港町まで連れて行ってもらう。


 当然料金は何倍も高くなるが、多少の出費は仕方がない。無事雇えたので、すぐに出発してもらった。

 フィラセムを出てすぐ、俺は揺れる馬車の中で仮眠を取る。精神的に疲れました、はい。


 薄れゆく意識の中で一つ気づく。

 魔石を集めたら俺も地球に帰れる……と。それとも転生者は対象外になるのだろうか。


 仮に帰れるのならば、俺はどうしよう。

 家族、友人、日本の食べ物、文明の利器。剣や魔法はないけれど十分に魅力的な世界だ。あっちにいるときは気がつかなかったけれど。


 眠たい脳が見せたのは二つの存在。

 ギンロー、ソフィアが頭の中に浮かんできたのだ。

 こちらの世界も負けないくらい魅力的だから困る。


 三日後、ようやく港町が見えてきた。町の名前はリーバレッドという。

 御者には急いでもらったが、結局ソフィアたちに追いつくことはできなかった。


 予定通りなら半日以上前に、彼女たちは町に到着しているはずだ。港町の入り口で馬車を下りる。

 見張りの兵士などがいない。妙な雰囲気を感じつつ俺は中に入る。


 結構栄えている港町で規模は広い。

 道の途中、塔のような建物があったけど、あそこに人々は避難しているのだろうか。


「しかし魔物の死体、多いな」


 イカやタコの魔物の死体が散乱している。

 港の方に行くほど酷くなるってことは、クラーケンの仕業だろう。


 建物も結構破壊されたな……。あと黒っぽい液体が地面や壁に付着している。墨だろうか? クラーケンはイカを巨大化したような姿だと聞く。


 本体か、産んだ子が吐いたのかもしれない。

 地球のタコは煙幕代わりに墨を吐くが、イカは相手に食べさせるために使う。

 相手が食事中の間に逃げるらしい。


 じゃあこれも美味しいのかね。ないない。ドロドロで粘性が非常に高い。顔にでもかかれば、視界はしばらく塞がれる。魔物だから他にヤバイ成分が入っていてもおかしくない。


 さておき、冒険者ギルドはどこだ?

 潮風を浴びながらそれっぽいところを探す。


「もっと薬はねえのか!」


「もう切れた! 要塞に戻って取ってこないとっ」


「痙攣が始まってるぞ、誰か早く行ってくれ」


 入り口のドアが開けっぱなしになっており、その奥から逼迫した会話が届く。入り口に見張りがいない。さっきまで戦闘中だったのだろう。


 中から急いで出てきた男性が、俺を見て驚く。


「あんた誰だっ。今、この町に入ると危険だぞ!」


「冒険者です。オリーヌと同行予定だったのですが、理由があって遅れました」


「ああ、あんたがそうなのか。ついさっき、クラーケンの襲撃があって何人か負傷者がいる。毒系を治せる薬を持っていたら貸してほしい」


「アイテムはポーション系ですね。キュアは使えますが」


「キュアはすでにかけてみたが効果がない。ハイキュア以上じゃないと」


「ハイキュアも使えます。治癒院で副業をしていますので」


「マジか!?」


 彼は驚愕して、すぐに表情を明るくした。力を貸してくれと頼まれたので俺は中に入る。そのために来たんだしね。


 しかし、回復役があまり足りていないんだな。それとも奇襲の予想をしていなかったのか? 


 中は広いが、冒険者たちが何十人もいるため手狭に感じる。


「回復師が来てくれたぞ」


 みんなが一斉にこちらを見る。俺も彼らの顔を素早く確認するが、見覚えのある人はたった一人しかいない。


 オリーヌだ。


 あれ? ギンローとソフィアはどこにいった?

 そんな質問をしたくなったが、今は簡易ベッドの上で苦しむ人の元へ駆け寄った。


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