51話 底辺スキル習得
フリーPは4000ほどあるので底辺スキルを取ろうと思う。
俺がハマった『フリースキルで異世界無双しよう!』は、フリースキルで能力を覚えて主人公を強化していくゲームだった。
実は覚えられるスキルの中には、底辺スキルと呼ばれるものが複数あった。
そして、それを覚えてクリアした者はネットなどで馬鹿にされる傾向が……。
そう、底辺スキルは名前に反して優秀なスキルを指す。
攻略が段違いに簡単になるゆえ、取らないとクリアできない人は下手扱いされる。
俺も最初はそれらを覚えてクリアしたのは、自分だけの秘密である。
ちなみに、転生後に俺が最優先した全スキル成長スキルは、底辺スキルではない。
成長が早くなるとはいえ、多少努力が必要なこと。また単体では全く役に立たないことが理由だ。
俺は今のところ、底辺を一つも取っていない。取ったら敗者……という前世の価値観を引きづっていたんだろう。
アホかな。自分の生き死にがかかってるのにさ。
「ふー、底辺だろうと死なないことが大事だっての」
底辺スキルの中で、一番安いのはこれだ。
転移魔法1 100P
転移魔法10 3000P
1にしてはちょい高めだが、10だとそこまででもない。今回は10で取る。成長させている時間はない。
クラーケン戦でも役立たせたい。
残りは取っておこう。港町にいってから水泳系のスキルが欲しくなるかもしれないしな。
さて、転移魔法を使用してみる。ゲームでは魔力消費は少なかった。
シュン――
いや音はしなかったが、イメージ的にはそんな感じで一瞬で部屋の外に移動していた。
「すっげぇ……」
底辺スキルは異世界でも健在ってわけだ。俺はみんなにバレないよう、屋根上に転移する。
連なる屋根の上を歩いていく。建物の間は、ジャンプせずに転移で瞬間移動する。慣れるためにもね。
走りながら、体勢を崩した状態からでも転移をしてみる。成功したので次は屋根の上から下にジャンプ。その落下途中で転移して、また屋根の上に舞い戻る。舞ってはないけどね。
魔力消費は大したことない。
底辺スキルを極めた状態で取ると、優秀すぎるな……。これは相手を選ばずに活躍するぞ!
移動範囲は、最大で五十メートル先ってところか。
一見完璧に思えるが、そうじゃない。
弱点もちゃんとある。視界が一瞬にして変わると、俺の方も少し混乱する。あと、どうしても転移する前に視線を送っておく必要がある。
鋭い相手に連発するとバレるかもしれない。
「なんとか言えよカス! 謝罪と少しの謝罪料で許してやるって言ってんだ」
おおっと、随分と乱暴な会話が下から聞こえてくるね。路地裏の道で、二人組の男が一人の男性に絡んでいる。
内容からするに肩でもぶつかったんだろう。ただし、どちらもただのチンピラではなさそうだ。武器を装備している。それも三人とも質がそこそこ良さそうな物を。相手側のクールそうな男が言う。
「ぶつかってきたのは貴様らだろう。どうしても死にてぇなら、かかってこいや」
うーん、こちらもヤンキー気質っぽいね。こりゃケンカは避けられないな。
一応上から覗いていると、殴り合いを始めた。武器を使わないあたりはホッとする。
二人組も強いけど、背の高い彼はそれを凌駕する。動きが違う。顔面に拳を何発も入れられて二人組はひざをつく。
問題はここからだ。激高した二人組が剣を抜き、相手もそれに対してそうした。
こりゃ殺人事件に発展してもおかしくないので、一応仲裁に入ってみる。
「なんだ!?」
「だ、誰だ」
「肩のぶつかったどうで殺し合いはやめましょうよ」
「じゃ、邪魔すんなよ!」
一人が殴りかかってくる。斬りつけないあたり結構冷静だ。そう考えると、やり返す必要はないかもしれない。
俺は背後に転移する。俺を見失った彼がキョロキョロして、ようやくこちらを発見してくれた。未知の生物に遭遇したみたいな顔しているので、もう少しだけ驚かさせてもらう。
屋根の上に再び上がって、そこから声をかける。
「剣を収めてもらえますか? これ以上やるなら衛兵呼んできますよ」
「何者なんだ、あいつ……」
三人とも戦意はなくなったようだな、よしよし。
剣をしまってくれたので俺はまた夜の散歩に興じることにする。
しばらく転移の練習をしてから自室に帰った。
◇ ◆ ◇
一日休暇を挟み、出発の日がやってきた。
馬車はギルドが用意してくれる。九時頃に出る予定だ。朝にソフィアがやってきて、オリーヌに自己紹介を済ます。
由里はここに残していくので、アリナによろしく頼んでおいた。少し不安そうだったのが気がかりではあるが、まあ大丈夫だろう。
「ギンロー、トイレいっておけよ」
『ウンコ、デルカナァ』
「大きい方じゃなくてもいいんだぞ」
『ホーイ』
ギンローのトイレが終わってから俺たちは全員で入り口の門に向かう。
御者に挨拶して馬車に乗り込む。そしてゆっくりと走り出して――
「待ってくれっ、待ってくれよー!」
外から声が聞こえてくる。今回は俺たちだけのはずだけど、他に追加で来たんだろうか? オリーヌに確認してみるが、そんな話は聞いていないという。
御者が止めてくれたので、下りてみる。追いかけてきたのは予想もしていない人物だった。
「ハッ、ハッ、どうにか間に合った」
「お前、どうしてここに?」
今俺の目の前にいるのは、例の予知夢の男だ。
「あんたが言ったんじゃないかっ。次に夢を見たら教えてくれって! だから朝一で宿を訪ねたら、門の方に行ったっていうから追いかけてきたんだよ」
「ってことはまさか」
「そうさ、また異世界人の夢を見たんだ!」
マジかよ……。このタイミングできたことに戸惑いを隠せない。どうするべきか。依頼は当然重要だけど、異世界人召喚も逃すわけにはいかない。
予知夢の男に詳しく話を聞く。場所はやはりフィラセムの近くで川沿いに転移してくる、と。
「異世界人ってどういうこと?」
オリーヌの疑問はもっともだ。彼女は信頼できるので俺は異世界人であることを明かす。また宿の由里のことも説明する。
その上で、後から追うので先に行っててもらえないかと頼む。
「あっちには書状を送っていて、人数も伝えているはず。到着したときにあたし一人だけだと、戦力を出し惜しんだと心象が悪くなるかも」
一人抜けるくらいなら後から合流するとかで誤魔化せるとオリーヌは付け加えた。そこで、ソフィアとギンローは予定通り馬車で港町に行ってもらう。
俺だけが残り、地球人に会いにいくことに決まった。
「先生、お気を付けてください」
『マッテルカラ、ハヤクキテネ』
俺はみんなを見送ってから、予知夢の男を連れて目的地へ足を向ける。
場所は小川で見通しは良かった。本当にここに現れるんだろうか、という疑いを持ちつつ待機する。
「心配するなって。間違いなくやってくる」
「言っておくけど、その人には俺が話しかける。間違っても売ったりはさせないぞ」
「わかってるって。やるつもりなら報告しない。その代わり、少しばかり報酬をもらえたら言うことなしだ」
俺は黙って頷く。恐怖心もあるだろうが、正直に伝えに来てくれたことは感謝している。仕事だって午前中は休んできたみたいだし。
――来たかっ。
急に突風が吹き、バチバチという音が鳴る。異常現象はそのすぐ後に起きた。
なにもなかった空中にヒビが入ったのだ。その前には輝く魔法陣が一つ展開されている。
由里も、足元に魔法陣が出たと話していたな。
いよいよそのときは来た。
魔法陣から一人の人間が飛び出してきたのである。
それは男性だった。俺とそう変わらなそうだ。二十代後半といったところで、スーツを着ている。
「こ、ここは? なにが起きたんだ」
彼は周囲を見渡して、そう呟いた。




