5話 冒険者として活動するよ
ビッグモンキー戦は、だいぶ慣れている。
難なく倒していく。
死体は手首だけ切り取り、残りはギンローにあげる。
『ウマヤー! ウマカー! ウメーデスー!』
食事量が日に日に増えているのは、急成長をするためなのか?
俺は俺で自分を強化する。
フリーPが900以上あるので、隠密1、気配察知1、錬金術3を会得した。隠密は自身の気配を察知されにくくし、気配察知は他者の気配に鋭くなる。
錬金術は、複数の素材を別の物に変成させる。
これだけ3にしたのは、ゲームでは3からポーションの作成が可能だったからだ。
ポーションは水+体力増強効果または疲労回復効果のある素材を混ぜると出来上がる。
ユアナ草がまさにそれなので実験する。
「ギンロー、水飲み場にいこう」
『ウイー』
森の中にある川に移動する。
水筒に水と草を入れ、錬金術を発動。瞬時に草が消え、水の色も水色に変化した。
錬金術は必ず成功するわけじゃない。素材の状態などにより失敗することもあるし、出来上がりの質に影響もする。
「試してみるかね」
剣で腕を少し斬って、血が流れた部分にポーションをかける。ちゃんと傷が快癒した。
俺のヒールと同じくらいの効果はあるみたいだ。
納品分の草だけ残して、ポーションをできるだけ生産する。
「よし、一度町に帰ろう」
フィラセムに戻ると、早速ポーションを売りに行く。道具屋の主人に効果を確認してもらって査定してもらう。
「デキはいいね。こいつはどこで?」
「俺が錬金しました」
「錬金術師なのかい!? てっきり従魔師かと……」
錬金術師は珍しいようで派手に驚愕された。俺と深い関係を持ちたがるところをみるに高評価な職業なのだろう。
ポーションを瓶に小分けにして、一本三万ギラで買い取ってもらう。
十本あったので、三十万にもなった。
「割のいい儲け話があったもんだ~」
帰り道、俺はホクホク気分になる。
『ユウト、ウレシイ?』
「すっごい嬉しいよ。これで武器を買いにいこう」
そう、残る依頼のホロール鳥のため、弓矢が欲しい。
武器屋で、十万ギラほどの木の弓と矢を購入した。
矢筈は使わずスキルに収納して、使うときに矢を手元に出して射る予定だ。
また町を出て、鳥が出現する平野に移動する。見当たらないので、弓の練習をする。
「よっ、ほっ。なかなか難しいな」
弓術1があるとはいえ、大きめの石に当てるのにも難儀する。ただ、練習しているとコツが掴めてきた。
三時間の練習で弓術2に成長。
あとは鳥が上空を横切るのを待つ。
『トリ、キタヨー?』
「おっ、本当だ」
鷲に似ているという、リンリンさんから聞いた特徴とも一致する。
俺は矢を番え、狙いを定める。
ビュッッ、と風を切って矢がホロール鳥に命中――はしない。外れた。残念ながら。
次の矢を収納から出し、再び同じように構えようとして……ギンローが叫ぶ。
『コッチ、クル!』
「へ?」
逃げるどころか、滑空して攻めてくるじゃないか。足の爪で、こちらを攻撃するつもりらしい。
俺は慣れない弓を捨てて剣に持ち変える。
カウンターで剣で斬る。
ホロール鳥は落下して、ズサーッと地面を擦るように転がった。
「浅かったか」
すぐに起き上がって飛び去ろうとするのだ。
『トッタ!』
しかし、ギンローが捕らえた。牙がホロール鳥の肉に食い込むと、わずか数秒で動かなくなった。ナイスだ。
『タベテ、イイノ?』
「それはダメ。納品しなきゃなんだ」
『ヘイ』
ラーメン屋の親父か~!
さ、少し待つと別なホロール鳥がやってきた。また矢を射る。今度は上手く直撃した。
地上でバサバサ暴れるところをギンローが仕留めて目的達成だ。
ギルドに戻り、依頼を提出するとかなり驚かれた。
「たった一日で三つともこなすなんて……ユウトさんに惚れちゃっていいですか?」
「ダメです。お婿さんになる予定はないので」
「彼氏は?」
「それもちょっと。出会ったばかりでそういう関係は」
「じゃあ彼女候補に入れといてくださいっ」
この人、グイグイくるねー。
依頼は達成したため、Eランクに昇格して冒険者カードも発行して貰えた。小型の厚紙にギルドの紋章やランクが記載されている。
「ランクが上がるごとに、新しいのを発行しますので頑張ってくださいね」
「また来ます」
そう告げて、俺はギルドを出る。
宿に向かう途中、ギンローがアリナさんを見つけてハシャぐ。
『アリナー、アリナダヨーン』
「本当だ。買い出しの帰りかな……ん? 様子がおかしいな」
ずっと背後を気にしていて、足取りも明らかに忙しい。誰かから逃げている?
帰宅の時間帯で人が雑多なので、追っ手はよくわからない。
俺は走って追いつき、アリナさんに声をかける。
「平気ですか」
「あっ、ユウトさん……!」
「誰かに追われてます?」
「あの、その……」
「俺の勘違いだったらいいのですが」
「ごめんなさい、ご迷惑をかけて。もう宿ですし、大丈夫です。一緒に行きましょう」
「……はい」
何かを隠している。
だが、話したくないのならば俺が無理に首を突っ込む必要はないだろう。
宿に帰ると、昨日も泊まっていた冒険者らしき人に声をかけられる。
「やあ、昨日の英雄さん。あんた、剣差してるけど回復師ってわけじゃないのかい?」
「今日、冒険者登録をしてきました。素人に毛が生えた程度ですが、魔法と剣も使えます」
「やっぱりか! 良かったら晩飯まで付き合ってくれねえか。連れが風邪ひいちまって」
練習相手に欠いている、とのこと。
宿の裏庭には多少スペースがあるので、応じる。俺の練習にもなるしな。
「練習、少し見学してもいいですか?」
「俺は構いませんよ」
「ありがとうございます」
アリナさん、剣術に興味あるんだろうか。
裏庭に行き、俺は剣を抜いた。相手は小柄だが腕は立ちそうだ。
キンッ、キンッ、と剣を何度か交わす。体の割に、中々重いな。実力は俺と同じか、少し上くらいか。
三十分ほど、いい汗を流させてもらった。
「ウッハァ、疲れたぜ。ユウト、あんた中々鋭い振りだな」
「いえ、あなたこそ」
「魔法も使えるんだろ? 何か見せてくれよ」
「じゃあ、火魔法でも」
ゴォォォオオと空に向かって火炎を噴射すると、彼とアリナさんがすごく盛り上がってくれた。
『アォン! アォォォオ!』
一番テンション高くなったのはギンローだけどね。
その後、食事を済ませて、部屋でギンローとくつろぐ。明日も頑張る予定なので、早めに就寝した。
コン、コンコン。
……今、何時だ?
真っ暗な中、俺はドアの向こうの人に声をかける。
「どなたでしょう?」
「ア、アリナです。お話があって」
こんな夜中に? 俺は一応警戒しつつ、ドアを開ける。アリナさん一人だけだ。
「夜中にすみません。下で、お話できませんか?」
頷いて俺は一階に下りる。夜中なのでテーブル席には誰もいない。彼女と向かい合って座る。
「ユウトさんって、かなりお強いんですよね?」
「どうでしょう。一流冒険者とかには全然叶わないと思いますが」
「でも今日の稽古みたら、すごく強そうでした」
褒められるのは嬉しい。
しかし、この話の流れだと、俺に体力系の依頼があるな。
その辺は察したので、こちらから話を振る。
「もしかして、話って今日追われていたことに関係します?」
首肯するアリナさん。
「何ヶ月か前から、ずっと嫌がらせされていたのですけど……最近それが酷くて」
犯人は男のストーカーだそうで。親に迷惑はかけたくないし、相談できる人がいなくて困っていたと彼女は話す。
「冒険者に依頼を出そうとしたんですが、どんな人がくるかわからなかったので……」
そこで、多少の実力はあると判明した俺に依頼してきたという流れらしい。
「もちろん報酬は出します! 貯金は二十五万ギラならあります」
正直、相手にもよる。あまりにも凶悪な奴なら断っていたかもしれない。
だが、十七歳の少女に涙目で訴えられては……ね。
「わかりました。やるだけやってみます」
そう伝えるとえらく感謝されたな。余程困っていたんだ。
まあ、卑怯なストーカーする野郎に大悪党はいないだろうと楽観的に構えることにした。