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41話 掘り出し物


「素晴らしい太刀筋です、先生!」


 ソフィアの拍手に若干照れながら、俺は剣を鞘に収める。ひと気がないとはいえ、光る剣を町中で振り回していると通報されるかもしれない。

 箱の中にはなにが入っているのかな? そう思って上蓋を開けたら、茶色い生物が飛びだしてきて俺の顔に襲いかかる。

 二、三十センチくらいでミミズっぽいが、口があって鋭い牙が生えそろっている。

 やば……さっき剣をしまったので無防備だ――


「はっ!」

「グュィ!?」


 ソフィアの剣が伸びてきて、茶色の虫をすかさず真っ二つにした。俺の顔面に触れる前なのでギリギリセーフ……。


「ミニワームですね。罠として隠してあったのでしょう」

「ソフィアは俺の命の、いや顔面の恩人だ」

「先生のかっこいい顔を傷つけさせはしませんよ」


 にっこりと笑いかけるソフィアに後光が見えて、前世は女神だったんじゃないかと感じてきた。

 しかし油断したなぁ。遠足は家に帰るまで、って言葉を思い出すよ。能力が足りていても失敗する人って、大体ツメが甘かったり、ナメプするからだ。気をつけねば。

 暗黒箱の中にもう罠はない。中に入っていたのは一足のブーツだった。

 少し高そうな皮ブーツで、羽のマークが小さく描かれている。技術は大したものだと思う。


「跳躍ブーツかもしれません。これをはくと空中でもう一度ジャンプできるんです」


 すごっ。そして物知りなソフィアにも感心する。ドーガさんはあれで蔵書家というし、幼い頃から本で知識を得てきた貴族は頼りになる。


「先生、また強くなりますね」

「いや、暗黒箱を購入したのはソフィアだろう? 俺のじゃないよ」

「わ、私がはいてもいいんですか?」

「当然。俺はただ開けるのちょっと手伝っただけだよ」 


 ブーツは女性向けっぽいデザインだし、俺には少し小さそうでもある。二段ジャンプは正直興味あるけどね。

 ソフィアはブーツをはいてサイズがぴったりなことを確認、控えめにその場で跳躍した。

 そこから、さらにもう一度虚空を強く蹴って高く舞い上がった。 かっこ良すぎ……。

「あ、やべ」

 そう、真下から見上げれば、下着が見えてしまうのである。俺はすぐに顔をそらした。今日はピンクか……。

 彼女が着地を決めると、天使の降臨ってタイトルが俺の頭に浮かんだ。

 ちなみにジャンプの興奮で、俺に下着を覗かれたことに気づいてはいないようだ。


「先生、どうしたんです? なんだか様子が……あっ!? もしかして」

「わ、悪気はなくて。次から気をつけるよ」

「いえそんな……。こちらこそ、なんだか粗末なものを見せてしまって……」

「そんなことないって! 最高だよ!」


 変態かよ。


「そ、それよりさ、跳んでみた感触はどうだった?」

「すごく良かったです! 空中に見えない地面があるみたいなんですよ」


 途中で踏まなければ、もちろんただのジャンプとして落下することもできる。戦闘の幅が広がるような装備品だな。


「激辛料理頑張ったから、神様がご褒美くれたのかもな」

「はい、先生と一緒にデートできて本当に良かったです」


 うん、デートか。やっぱりデートだったのかこれは。もうちょっと早く起きて、髪型くらい決めてこれたら良かったな。反省だ。

 俺たちはその後もマーケットを漁ってみる。トカゲの尻尾や蛇の抜け殻など、薄気味悪い物を俺は集める。

 ソフィアに、ちょっと引き気味にそういう趣味があるのかと質問されたね。


「錬金術だよ。なにか創ろうと思って」

「そうでしたか。勘違いしちゃってごめんなさい。もちろん、仮にそうであっても私の尊敬の念が変わることはないんですけれど」

「そう? 例えば、夜な夜なトカゲの尻尾なめて喜んでる男でも」

「う……それはちょっと……」


 ですよねー。まあ俺がそうなることは絶対ないから安心してほしい。

 日が落ちてくると夕食に向かったのだが、そこで匂いを追ってきたギンローと合流する。人混みの中から俺の匂いを見つけるって、マーナガルムの嗅覚は犬の何倍でしょうか。

 終始、楽しい休日を過ごすことができた。


 翌日、俺はギンローと町近郊の岩場に出かけた。ここで体力、怪力、敏捷、魔法の練習を行う。

 まずは走り込みをして体力を鍛え、手頃な岩を握ったり動かしたりして筋力を使う。

 敏捷は反復横飛びなどを行う。今回は怪力が3にアップした。他二つも訓練していればそのうち上昇するだろう。

 メインは魔法だ。まず火魔法で爆炎矢や炎を噴射する。魔力は体力みたいなもので限度がある。使いすぎると気絶したり、精神にも疲労が溜まっていく。

 仮眠から起きたギンローが危険なことを口にする。


『バクエンヤ デ、ギンローネラッテ~』

「もし当たったら危険だって」

『ソノトキ、チリョウシテ~』


 まぁ、ハイヒールなども覚えているので問題はないのかな。ギンローもうずうずしてるっぽいので、矢を模した炎を放つ。これは当たると小爆発を起こす。雑魚の魔物くらいなら瞬殺できる。魔力調整すれば、そこそこ強い敵だって倒せるだろう。


『ホイー、スイー』

「速っ……」


 横一直線に走るギンローを狙うが、爆炎矢はことごとく外れる。遠くの地面に刺さって爆発を起こしていく。

 当たらなきゃ無力ってこのことか。場外ホームラン打てるバッターでも、空振りばかりじゃ怖くないもんな。

 威力よりも命中精度を上げるってことも考えていくか。

 それでも長く続けていると、火魔法が5に上がった。炎弾という火の玉を撃つことができる。複数撃つことができるが、速度は大したことがない。


「ギンロー、新技いくぞ」

 

 直線に飛ばしてみるけど、やはり俊敏なギンロー相手じゃ話にならない。複数撃っても同じだ。そこで斜め上方に向かって三、四発放ってみた。


『オ? オッ?』


 やはり、目線の高さで飛ばされるよりは混乱するみたいだ。ギンローが落下地点を確かめるために足が止まる。

 俺は死角になる位置から動き出す。炎弾はすべて、ギンローを捉えることはできない。

 でも気を取られて、俺は案外楽に接近できた。


「はいタッチ」

『ワッ、ジュルイ!』

「わははー、じゅるくないぞ。真剣勝負ではなんでもあり。心に刻んでおかないと敵にやられちゃうぞ」

『ムゥ、ヤルキ、ナクシタホイ……』


 バタッと横に倒れ、うつろな目で空を見つめるギンロー。拗ねちゃったのかな。

 俺が慰めてあげようと頭を撫でようとすると、突然起き上がって手をカプッとやられた。

『ギンロー、カチダヨ! ナンデモアリ~』

「げ……」


 ずる賢いんですけど、この従魔さん。

 ギンローは遊びに飽きたのか、蝶々と戯れることにしたみたいだ。俺はまたずっと魔法の練習を行う。

 日が落ちる少し前で、土魔法を3から4に成長させることに成功した。地面の質にもよるが、これで落とし穴を魔法で作れる。

 土はある程度軟らかいところ、範囲は俺から数メートル以内など制約はある。でもランクを上げていけば徐々に範囲などは広がるはずだ。

 古典的だけど、結構落とし穴って強いんだよな。


『ゴブリン、アルイテルヨ?』

「ちょうどいい」


 少し離れた位置に、兎を追いかけている単体のゴブリンを発見したので接近する。

 俺たちを発見すると、あちらは問答無用で襲いかかってくる。まず相手の実力探るみたいなことはしないのかね、こいつらは。

 でも練習台なので、俺は引きつけて落とし穴を狙う。集中力が結構必要だな。剣戟の途中に咄嗟に作るとかは今のところ難しそうだ。……よし、成功した。


「ヒギァ」


 深さは五十センチといったところで、まずまずの出来だ。足を穴の中に突っ込んだゴブリンは酷く焦っている。

 走るのに夢中で、なにをされたかわからないんだろう。ギンローが側頭部に噛みつき、サクッと始末してくれた。

 ナイスコンビネーションを発揮したことだし、本日は帰路に就くとしよう。


「帰ったらなに食いたい?」

『ニククク!』

「毎日食ってるだろ。たまには野菜も……って必要ないのかなぁ」


 人間の感覚だと食事はバランス良くだけど、ギンローみたいな規格外には通じない気もしてきた。魔物だって普通にモグモグするし。

 とりあえず、食いたい物たらふく与えておけば間違いないかな。


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