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40話 腕を組んで


 泡を吹いてひっくり返ってそのまま倒れるソフィア。その流れるような動作からとんでもなく辛かったということが伝わってくる。誰がどう見てもアウトなのだが、驚くことに彼女は気合と根性で立ち上がった。


「無理無理、もうやめときなお嬢さん」

「いいえ、チャレンジすると決めた以上、本気で取り組みます」


 この子って、貴族出身とは思えないぐらいタフだよな。ソフィアはスプーンでスープを飲んでいく。ひと口飲むたびにぶっ倒れそうになっているが、どうにか堪えている。

 スープを全て飲み干したところで俺は感動する。残すは鶏肉本体だけだ。普通に考えればスープが一番の強敵だし、もうクリアしたようなものじゃないか。


「甘いな。ここからが本番だぜ」


 店主の勝ち誇ったような笑みに俺は嫌な予感がする。ソフィアが鶏肉にかぶりつくと、それは姿を現した。


「辛い……」


 そう、肉の中に唐辛子が詰められていた。世の中にはやっていいことと悪いことがあるということが、おじさんになってもわからないのか。

 俺はやめた方が良いと思ったが、 ソフィアはチャレンジしていく。当然、ただでは済まない。白かった肌は真っ赤になり、涙が流れ出す。鼻水もダラダラだ。金髪碧眼の超美人な気品あるお嬢さんが、死にかけの表情で料理を食するのだ。

 注目をあびないわけがない。店内の客の誰もが注目していた。


「がんばれ、ソフィア」


 俺の声につられるように他の人たちもまた応援のメッセージを飛ばす。ソフィアはふらつきながらも激辛料理を攻略していき、ついには完食……という一歩手前のところで気絶した。

 ゲームオーバーかぁ。

 俺は回復魔法をかけて彼女を介抱する。水を飲ませたり扇いだりしていると体調が戻ってきたようで安心する。


「あと少しでしたのに……」

「よくやったよ、俺たちは勇気をもらった。試合に負けて勝負に勝った、そんな感じだよ。みんな大きな勇気をもらった」


 特になにもしていない俺がそう言うと、同じくなにもチャレンジしてないお客さんたちが大いに賛同してくれた。

 鳴り止まない拍手。ウィニングロードを歩きたかった俺たちだが、店主がそうはさせない。


「負けは負けだ。言うこと聞いてもらうぜ」


 この男やはり悪魔か。店主はしばらく考えてから、とんでもないことを要求してきた。

 両腕を使って自分の胸元を押し上げ「今晩、いっぱい可愛がってくださいね」と上目遣いでツレの俺に頼め、と口走ったのだ。

 これには俺を含めた客たちが黙ってはいない。激しく抗議したんだけど、意外なことにこれを制止させたのはソフィアだった。


「約束は約束ですから。やります、もちろんユウトさんさえ嫌じゃないのでしたら」

「俺は嫌なことはない、でもさ……」

「では行いますね」


 ソフィアは少しかがみ、豊かな自分の豊胸を二の腕で挟み持ち上げると、うっかりすれば惚れそうなほどの上目遣いをする。


「今晩、いっぱい、可愛がってください、ね」


 顔は今日一番ってくらい赤い。肉体は回復しているから、辛さが後を引いているわけでないだろう。

 恥じらい、それでも頑張る姿に、不本意ながら興奮してしまう俺を発見した。他の客だってそのようだったし、人の恥ずかしい姿を見たい店主もニヤニヤしている。

 罰ゲームが終了するとソフィアは顔を手で隠してうつむく。

 俺がエスコートして店内を後にした。


「人生で今日が一番、勇気を出したかもしれません」

「……不謹慎かもしれないけど、可愛かったよ。それに食事だってすごかった。俺もなにかしてあげたくなったほどだし」

「でしたら、アレをしてみたいのですが」


 祭りということもあり、周囲には色々な人が歩いている。中でもソフィアが注目したのは腕を組んで歩く男女だ。アレとはもちろんその行為のことを指す。

 ドキっとしたけれど、ここでどぎまぎするのは年上として格好悪いしなにより意識しすぎって伝えることになる。


「そんなことか、全然構わないよ。フィラセムでは友達同時でも腕を組んだりするんだよな」

「ありがとうございます!」


 控えめな感じにくるかと予想していたら、意外にも大胆に腕を組まれた。柔らかい腕や胸の感触が心地良い。

 友達同士で腕組みはともかく、先生と生徒の関係ではあまりないだろうな……。まぁ嬉しそうだし俺も楽しいのでなんでもいいか。

 二人で街中を歩き回る。神輿はないものの、巨大な剣を血気盛んな男たちが担ぎ上げて移動している。おぉ、あれは迫力あるな~。


「巨人の剣と言われていて、フィラセムの名物なんですよ。お祭りだとしょっちゅう出てきます」

「へぇ、作るのも大変だったろうな。見てるだけでも楽しいよ」

「巨人といえば最近……いえ、なんでもありません」


 多分、気分がいくらか暗くなるような話題だったのだろう。俺もあえて追求するつもりはない。ちなみにこの世界、巨人族が普通にいると聞いた。この国にはいないようだが、遠くの国では巨人の国があるのだとか。

 いつかお邪魔してみたいものだ。

 俺たちは、冒険者フリーマーケットが開かれているという広場に足を運ぶ。冒険のときに手に入れたよくわからんアイテムや石、または中古の武器などを売っている人が多くいる。

 武器などは買い叩かれることがあるから、少しでも高く販売したいんだな。


「掘り出し物を探してみましょう」

「ああ、頑張ろう」


 二人であちこち見て回り、持ち主にいくつか質問したりもする。その辺の石を魔石だと言う人なんかもいて、これは品物と同時に人柄にも注目しないといけないとわかる。

 気になったのは時の矢とやらを売っている人だ。射た相手の時間を数秒間止めるというレア品。一本しかないが八十万ギラになる。

 鏃が銅色なのが特徴だ。


「本で存在すると読んだことはあります。でも八十万は安すぎます」


 ソフィアの耳打ちで俺は購入をストップする。売り手が全然賢そうでも強そうでもなかったからだ。ニコニコと愛想は良い。でもそれだけっぽい。


「よろしいのですか。こちらはかなりの逸品ですよ」

「失礼ですけど、これはどこで手に入れました?」

「友人の遺品なのです」


 友人の遺品を売る人間が個人的に無理だ。

 仮にお金に困り、家族を養うためだとしても雰囲気が明るすぎる。さっさと次のところに行く。

 ここはガラクタばかりだな。古びた木箱や彫り物など俺には価値を見いだせない。でもソフィアはそうじゃなかった。興奮した様子で、でも小声で訊いてくる。


「先生は光魔法使えましたよね? どこまで覚えていますか」

「光で照らしたり、閃光、あとは武器に光属性を一時的に付けるものかな」

「でしたら、あれが役立つかもしれません! 私買ってみますね」


 漆塗りされたような長方形の箱を購入するようだ。店主には絶対に開かない箱だと説明されていたけど、彼女はお構いなしで五千ギラ支払う。

 一度目立たない場所に移動すると、ソフィアは理由を説明してくれる。


「本で読んだことあります。これ多分、暗黒箱と言って光魔法を使わないと開かないんです。試してみますね」


 ソフィアは剣を抜き、箱を何度か斬りつけるが小さな傷すらつかない。確かにただの箱にしては頑丈すぎる。


「オーケー、俺の出番ってわけだな」


 やる前に箱をまず確認する。錠があるわけでもないのに、確かに開く気配がない。別に接着剤でくっついているわけでもなさそうだ。

 魔法で剣に光を宿す。剣身が光り出して厨二心を刺激するね。

 箱の接着面に対して水平に刃を走らせた。

 すると、あまりにもあっさりと暗黒箱の口を開かせた。


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