4話 お金稼ぎしたいよね
翌朝、目を覚ました俺は叫んだ。
「またデカくなってるーっ」
十五から二十センチくらいは伸び、横にも少し大きくなっている。無論、ギンローのことだ。
『……クェ?』
ようやく起きたギンローが、挨拶で俺の頬をペロペロと舐めてくる。
犬っぽいなぁ。可愛いからいいけど。
一階に下りると、アリナさんも驚く。
「おはようござい……あれ、ギンロー大きくなってません?」
『オハヨー、アリナ。ゴハン、マダーッ?』
「頭も、良くなってません?」
「成長が早いみたいです」
絶対、肉体成長スキルとか付いてると思う。
朝ご飯をいただいた後、俺は今後について少し考える。
一週間はタダで泊まれるとはいえ、収入源は絶対に欲しい。アリナさんに相談してみた。
「腕に覚えのある人は、みんな冒険者になります。でもユウトさんなら、回復師が良いと思います。ちょうど募集しているところがありますよ」
ギンローの育成を考えると高収入がいい。冒険者やりつつ、治癒院でバイトって感じも悪くないな。
「面接に行ってみます」
さっそく俺は治癒院に向かう。従魔は禁止のところが多いらしいので、ギンローは宿で待っててもらう。
宿から近いジェシカ治癒院というところに移動する。それほど大きくないが、行列ができていた。
相当、治療が上手い人なのだろう。
中に入って、受付の人に雇って欲しいと伝えると奥に通された。
黒髪ロングのセクシーな女性がいて、一瞬焦る。豊かな胸元が開いた服とミニスカートという格好で、場違い感があったのだ。
「ジェシカ先生、うちで働きたいみたいです」
「今、患者さんみてるから少し待って~」
背中にまだ新しい斬り傷を追った男性が苦痛に喘いでいる。
ジェシカさんが傷口をなぞるように手を動かすと、それが治癒していくから驚く。患者は笑顔になって出て行った。
「すごい……今のヒールですか」
「いいえ、ハイヒールよ」
完治にかかった時間も短い。まだ二十代っぽいのに卓越した技術があるのだろう。
「で、うちで働きたいの?」
「はい」
「最低ヒール、キュアが使えること。一日に三十人以上、患者を診れること。これが条件だけど、問題ないかしら?」
ギリギリだが、何とかクリアしている。回復魔法を多く使える機会があるのもスキル成長には美味しい。
「できます」
「じゃあ、証拠みせなさい」
ポイッ、とナイフが投げられたのでキャッチする。
「自分で腕を斬って、治す。やってみて」
あおぅ……この人綺麗な顔して、結構キツい性格してるみたいだな。でも躊躇わず、俺は実行してみせた。
「……思ったより、使えそうね。今日から働ける?」
「できます。ただ一つ、時間的拘束ではなくて、三十人治したら帰るという働き方も可能ですか?」
「可能よ。うちは時間給は出さない。治した患者の分だけお金を払うわ」
無能は一ギラも稼げないってことね。厳しいが兼業したい俺とは相性が良いぞ。
「俺はユウト・ダイモンです。よろしくお願いします」
「ジェシカよ。よろしくねユウト。早速、患者を回すわ」
浅い傷の患者をみることになった。今の俺では、深い傷はまだ治せないからだ。
午前中いっぱい働いて、三十人をどうにかクリアする。少し疲れた。けれど、回復魔法が早くも3に上がったので良し。
覚えた魔法はないが、ヒールとキュアの効果が底上げされる。
「お疲れ様、今日の分よ」
「こんなに!?」
「うちは治療費高いから。金持ちっぽい客多かったでしょう?」
「あぁ、言われてみれば……」
俺の日給は二万ギラだった。院長はセクシー、給料は高い、スキルの練習には持ってこい。良い職場じゃないか。
仕事を終えて宿に戻ると、ギンローと昼食をとる。
午後から、冒険者ギルドに足を向けた。
中に入るなり、怒鳴り声が聞こえてビビったな。体格のいい二人が言い争いをしている。
「人の女に手を出しやがってぶっ殺すぞ!」
「うるせえ、やれるもんならやってみろ!」
こういうの、異世界でもあるらしいね。
俺はあまり関わらないよう、入り口でギンローと事態が収まるのを待つ。
が、お互い武器を抜いて、ヤバめな雰囲気だ。目に殺気を走らせたところで、片方が新たな闖入者に殴られて吹っ飛ぶ。
「うう゛ぁ!?」
もう一人も殴られ、同じようになる。
「てめえら! Eランクの分際で、女の取り合いなんざしてんじゃねえ! せめてCランクに上がってからやれカスども」
口調は男そのものだが、間違いなく女性だ。というか、受付に座ってた人なんだが……。
冒険者より全然強い受付嬢と目が合い、咄嗟に俺は顔を逸らしてしまう。
「あ。もしかして新規登録者の方です? 冒険者ギルドに、ようこそ!」
このギャップが怖い。俺は苦笑を浮かべつつ、登録をする。
「初めまして、受付嬢のリンリンでーす」
「物凄く、お強いんですね」
「さっきのはその……冒険者時代の癖で~」
話を聞いてみると、彼女はダンジョン攻略を中心に活動していた元冒険者らしい。
登録は思ったより簡単で、こちらの情報を伝えるだけで完了した。テストなどもない。
ランクはF~Sで、基本依頼を成功させ続けるとランクが上がる。身分証にもなるカードは、Eランクに上がったら発行してもらえる。
「あたし、結構見る目あるんです。登録だけしてこないアホとか、クソ弱いのに依頼受けて失敗しまくる野郎には斡旋しませんけどね」
「Eランクに上がるには、どんな依頼をこなせばいいですか」
「この三つ成功させれば、確実に上がりますよ~」
・ビッグモンキーの手×3
・ユアラ草×10
・ホロール鳥×2
どれも需要があるもので、依頼が絶えないとのこと。
モンキーと草は、俺がいた森に存在するらしい。
「あの猿の手は売れたのか……。一昨日、二十以上倒したのに勿体なかったな」
『オイシカッタ~』
「に……二十体? それが本当なら、大物新人かも。そっちの従魔はシルバーウルフですよね?」
「えーと、まあ」
濁しておく。マーナガルムって相当レアらしいし、ちょっとした騒ぎになっても嫌だ。
でもシルバーウルフでも相当らしく、リンリンさんの俺を見る目が明らかに変わった。
「あたし今、お婿さん募集中なんですーッ」
「頑張ってください」
「二十四歳はおばさんですか!?」
「一言も言ってませんけど!」
「ですよねー。むしろ女として一番輝く時ですよッ。あ、彼氏もいませんので」
この人、俺がそこそこ使えそうだと思って、ツバつけにきたな。いつの時代も女性はしたたかなのかもしれない。
依頼を受けた俺は、ギンローと森に向かう。
『マタ、アノサル、タベテイイ?』
「いいけど、手は何個か残してくれよ」
『リョーカイ』
ギンローは語彙も豊富になってきた。でもそれゆえに、口調が定まらないこともある。
『オレニ、カテルト、オモーナヨー!』
ほらね。ま、賢いことは良いことだけど。
森の中に入ると、教えてもらった特徴を元にユアラ草を探す。
少し黄みがかったもので、簡単に見つかった。
「収納、取っておくか」
40P消費して、収納1を会得する。一瞬で、異空間に出し入れできる。強化していくと、巨大な物でも収納可能に。
『フリー無双』では重さ制限が厳しく、大量に物を持ち運ぶわけにはいかなかった。そこで、収納スキルで補助していた。
ちなみに収納は、とても楽に成長可能だ。
まず草を別空間に入れる。パッと消えた。次は出す。パッと手に出てくる。
入れる。出す。入れる。出す。入れる。出す。入れる。
『ナニヤッテルー?』
「訓練かな」
まあ保存しておくだけでも成長補正は受けるが、こうするとより早くレベルが上がる。
ほら、収納1が2にアップした。
これでより大きな物も保管できるだろう。




