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39話 日常


 ようやく冒険者ギルドまでたどり着いた。ここにたどり着くまで長かったように感じる。

 テンション高めに中に入ると、俺なんかより遥かに感情の高ぶっている受付嬢が視界に飛び込む。


「テメェらなー、まだまだランクの低い冒険者のくせに建物内に引きこもっていつまでもぐちぐちと愚痴ばっかり言ってんじゃねえよ! そんな暇あるんだったら一分一秒でもいいから修行してこいカスッ」


 堂に入った説教をするのは、受付嬢のリンリンさんだ。見た目は若くて綺麗な女性なのだけど、元冒険者ということもあってかうだつの上がらない冒険者には思うところがあるらしい。

 確か初めてこのギルドに来た時も怒鳴ってたような……。

 冒険者たちもその迫力にふるえあがって、蜘蛛の子を散らすように室内から出て行った。


「まったく、これだから低ランク冒険者は……あれ!? ユウトさんじゃないですかぁ! いつ戻っていたんですか」

「たった今、きたばかりです」


 俺も怒鳴られるんじゃないかってヒヤヒヤしながら話す。リンリンさんは鬼のような姿を見せてしまったことを後悔してか、頭を抱えてぶつぶつ言っている。

 こんなことならもう少しお淑やかな言葉遣いにしておけばよかったー、というつぶやきが聞こえてきた。俺、一応聴力スキルも持っているんだよね。

 リンリンさんは切り替えが早く、すぐに満面の笑みを浮かべると俺たちをカウンターに案内した。

 先に帰った他の冒険者たちから、山賊討伐の件は聞いていたとのこと。俺はもちろん、ソフィアの活躍も耳に入っていたようだ。


「マスターは今不在ですけど、ユウトさんが来たら伝えてくれって言われたことがあります。報酬はもちろん、ランクアップまでします! 本当におめでとうございます! なにからなにまで異例ですよー、こんな速度で駆け上がっていく人いませんから」


 俺はクールを装って礼を述べつつ拳をグッと握る。Cランクまで結構早かったな。そしてランクが上がるとやっぱり嬉しいな。

 ランクが高いってことは報酬の高い依頼を受けられる上に方々からの信頼があるってことだ。

 何か事業を行うにしても高ランク冒険者の肩書きは強いだろう。

 ちなみにソフィアもDランクになっていた。


 簡単な手続きを済ませ報酬を受け取る。

 本来の報償金だけでなくギルドマスターから特別ボーナスも出た。あちらの街でも貴族様に別にお金もらったりしたし、よっぽどあの盗賊たちに困っていたんだろう。

 俺もだいぶお金が貯まってきた。まだ一億ギラには届かないが既に数千万だ。

 錬金術などを使えばアイテムで稼ぐこともできる。いずれ治癒院などを立ててそこで稼ぐのもありかもしれない。

 フリースキルがあると職に困らなくていいね!


「これからもよろしくお願いしますね。明日もまた来ます」

「えと、明日はお休みなんですよ。お祭りがあるんです」

「なんのお祭りですか?」

「いつも陽光を届けてくれる太陽に感謝するというお祭りなんです」


 これはまた斬新な祭りだよ。もう理由とかどうでもよくて騒ぎたいだけだったりして。

 ワールドカップになるとよく渋谷前で騒ぐ人たち懐かしいな。あいつら大してサッカーは好きじゃないだろう。

 ギルドを出てからソフィアを自宅まで送る。彼女は父親のドーガさんと今は別居して一人暮らし中だ。

 彼女は強いので、女性の一人暮しなどわけない。


「先生、もしよかったら明日一緒にお祭りに参加しませんか?」

「喜んで」

「やった」


 美人は嬉々としても美人だ。綺麗な顔立ちだよなと唐突に感心してしまう。明日の午前に待ち合わせの約束をして、ギンローと宿へ帰った。

 ずっとお世話になっている青鳥亭は非常に住み心地が良い。

 看板娘のアリナは優しくていつも俺たちに良くしてくれる 。


「ユウトさん! 帰ってきたんですね!」


 少し腹が減ってることを伝えると、至れり尽くせりでいろんな料理を作って持ってきてくれた。ギンローもだいぶお腹が膨れたようだ。

 遠征中だとあまり美味しいもの食べさせてあげられなくて心苦しいんだよ。

 部屋に戻るなり、俺は収納で物の出し入れを行った。これを続けることでしまえる物のサイズが上がっていく。収納3にアップしたので今日のところは休むことにしよう。


 知らず知らず疲れていたのだろう。

 翌日、俺は大寝坊をした。ギンローと一緒に昼までグースカと眠っていたのだ。

 お祭りは朝からやっている。建物の外から声が聞こえてはいたけど眠気のせいで起きられなかった。


「ギンロー、ソフィアを何時間も待たせてる。いくぞ」

『グゥ、グォウ、クゥクゥ……』


 色んな種類のいびきをかき分けながら休むギンロー。その姿を見ると、無理に起こそうとは思わなくなった。

 まだ生後数ヶ月なんだ。強いし成長著しいから勘違いしがちだけど。遠征で疲れていたこともあるし、休ませてあげよう。

 アリナに頼み、俺は急いで宿を飛び出す。

 待ち合わせ場所の公園、石像の前についた。


「……いない。さすがに怒っちゃったか」


 女性を何時間も待たせたら、そりゃこうもなる。怒る程度ならまだしも呆れられていたらキツい。先生としての威厳とかなにもなくなる。いや、元々俺にはそんな高尚なものないか。


「ご、ごめんなさーーい!」


 と、ここで意外なことか起きた。ソフィアが顔を真っ赤にしながら焦った様子でやってきたのだ。

 息は切れ、髪には寝癖がついており、服のボタンも掛け違えている。

 これはまさに寝坊して大急ぎで家を出てきた人の特徴だろう。


「私ったら自分から誘ったというのに、何時間も先生を待たせてしまって、なんて謝罪したらいいのか……」

「全然大丈夫。俺も同じなんだ。今、ここについたばかりで」

「そうだったんですか? よかったですぅー」


 お互い気が抜け、笑みが零れる。あはははと笑い合う。ああマジで助かった。

 ソフィアも昼食という名の朝食がまだらしいので二人でお店を探す。

 行ってみたい店があるというので迷わずそこへ向かった。

 公園近くにある飲食店は鶏肉定食が有名だが、一つ面白い取り組みをやっていた。


「激辛鶏肉料理があって、それを完食できたら無料なんです。しかも四回分の食事券がもらえるみたいで」

「チャレンジ系かー。でも失敗だと倍の値段とかだろう?」

「いえ、失敗しても料金は高くなりません。でも一つ、店主の命令を聞かなきゃみたいです」


 そりゃまた店側に有利な……。さすがに金をよこせとか、うちで無料で百時間働けみたいな理不尽は言わないらしいが、結構恥ずかしいことをさせられるとのこと。

 店主は、人が恥ずかしがっているところを見るのが趣味と。

 大丈夫ですかー、この店はー? 俺はそんな得体の知れない罠には引っかからないよ。普通に鶏肉定食を頼んだ。


「……私、激辛鶏肉で」

「ソフィア? 正気なの?」

「せっかくのお祭りですし!」


 今日はアグレッシブにいくんだな。ごめん、俺はいかない、保守派です。

 六十前後の店主の目つきが厳しい。蛇が獲物を前にしたときのやつに酷似している。


「お嬢ちゃん、ルールはすべて知っているんだな?」

「はい、覚悟はできています」


 凜とした表情を前にすると店主はそれ以上なにも問わなかった。戦士と認めたってことだろう。

 俺が一番そわそわしながら料理を待つ。二十分ほどで俺たちの料理が同時にきた。無論、注目すべきはソフィアのものだ。

 赤いスープに浸された鳥の脚だ。唐辛子漬けにしたのかってくらい、肉の方も赤い。こんがり茶色はどこいった。

 これどう見てもダメなやつだ。


「完食できたらあんたの勝ちだ。時間はいくらかけてもいい」

「……いきます」


 店主を一瞥して、ソフィアは料理に口をつける。

 まずはスプーンでスープを一飲みして――

 白目を剥いた。

 もうダメなのかよぉおおおおおおお!


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