36話 雨の日
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大門悠人という名前は日本にいる母親がつけてくれた名前だ。
そう、日本……。
あそこでサラリーマンをやっていたはずの俺は事故死して、その後神様によって異世界に転生させられた。
その際に特殊な力を授けると言われ、俺はフリースキルという能力を頂いた。
これは昔大ハマりしたゲーム『フリースキルで異世界無双しよう!』の主人公が得ていた能力だ。敵を倒してフリーPを得ると、それを消費して自由に幅広い能力を会得できる。
言ってしまえばチートだな。神様からボーナスでPも頂いた俺は、転生直後からいくつものスキルを覚えた。
中でも強力なのは『全スキル成長10』になるだろう。スキルは基本的に1~10まであり、数字が大きくなるほど習熟しているということだ。
でもいきなり数字を大きくしてスキルを得ると、必要なフリーPが大きくて困る。そこで、活躍するのが全スキル成長になる。これさえあれば常識外れの速度で他のスキルをどんどん強くしていけるってわけだ。
おかげで、俺の今のスキル構成はこのようになっている。
スキル:オゾン語8 収納2 隠密6 気配察知3 錬金術4 視力4 嗅覚2 聴力2 身体能力5 体力3 怪力2 敏捷2 投擲4 拳術2 剣術6 剣術指導6 槍術1 斧術1 鎚術1 弓術3 盾術1 火魔法4 水魔法2 風魔法2 土魔法3 雷魔法2 光魔法4 回復魔法5 付与魔法2 物理耐性3 魔法耐性2 全状態異常耐性3 魔力調整4 魔力増量4 従魔6 全スキル成長10
手前味噌だがかなり優秀だとは思う。日本にいた時じゃ考えられないけど、今じゃ魔物も余裕で倒せたりする。よってフリーPも入るから、スキルもどんどん強化していける。
こう考えると万能感に支配されそうになるが、一点注意だ。
ゲームの世界にはなかったスキルが異世界には存在している。俺はゲームにあったスキルなら把握してるが、敵がそこから外れた能力を使ってきたら気をつけなきゃいけない。
初見殺しの技とかあったら嫌だ……。あと俺自身は、ゲームになかったスキルはいくらフリーPを集めても覚えられないっぽい。
よって、記憶力を頼りに能力を会得したり強化したりしていく。
さて、能力の話はこの辺にして今の状況を整理しよう。
本拠地としている街、フィラセムの冒険者ギルドで、俺はとある依頼を受けた。
それは他の町で行われる盗賊討伐に参加する、というものだった。
俺は従魔のギンローと仲間のソフィアと一緒に見事盗賊たちを討ち、これからフィラセムに帰還する。
もうあと二、三時間も歩けば到着するだろう、そんなところで突然の雨に襲われた。
さっきまでの天気が嘘のように空は分厚く暗い雲に覆われ、大粒の雨が地面にダイブするように激しく降る。
『アメー、メグミノ、アメェ!』
雨が珍しいのか、ギンローは尻尾をフリフリと振りながら喜んでいる。俺も子供の頃はあんな感じだったのを思い出す。
「ふふ、楽しそうですね。ギンローは本当に可愛いです。先生もそう思いますよね?」
無論、首肯する。子を見守る母親のような微笑を称えるソフィアの横顔も、だいぶ可愛いというのは口に出さないでおこうかな。
俺は彼女に剣術をよく教えるため、先生なんて呼ばれている。くすぐったいな正直。
ともあれ、余裕はそろそろなくなってきた。ゴロゴロと急に雷鳴が始まり、雨脚がさらに強まってきたからだ。今いる場所は街道で、雨宿りできる建物などは皆無。せいぜい木陰に入ることくらいが限度か。
「弱まるまで、あそこで休もう」
『エー? ユウト、イッショニアソボ』
「ギンロー……俺はそこまで若くないんだよ~。お前だって毛が濡れちゃうしさ」
説得するとギンローは素直に従ってくれる。ちょっぴり悲しそうな顔をしていた。悪いな、あとでいっぱいゴハンあげるから許して欲しい。
大木の下に入ると、俺は服を脱いで絞る。水分がボタボタと地面の土に落ちた。たった数分で随分やられちゃったな。
そう思ってソフィアを横目で確認、ハッとした。白い肌に張り付いた服が透け、ブラが薄らと見えてしまう。毛先から伝い落ちる水滴も含めて、やけに扇情的だった。
……しまった、目があった!?
「み、見ちゃ嫌です!」
「だよな悪いっ!」
喰い気味に俺は謝った。さっさと視線を外して顔を背けると、ソフィアは焦ったように話す。
「違うんです、嫌とかではなくて……。ただ今日は可愛くないものをつけていたので……」
変態野郎気持ち悪っ、なんて罵倒されなくて済んだのは助かる。感覚的には、上下で違う下着つけた女子がそれを見られる恥ずかしさ的なやつだろうか? 俺には全然わからない感覚だ。
『マー、ソウイウコト、アルヨネ~』
いやお前はないだろギンローッ。
『ユウトモ、ソフィアモ、フクトカヌゲバイイノニ。ジユウダヨ~』
そういうわけにはいかないんだよなー。ソフィアがやったらすれ違う男どもがエロに走ってしまうし、俺がやったらキャーキャー叫ばれて牢獄送りなんだよね。
でも俺はなんだか、そういう発想に至るギンローが羨ましい。固定概念ってのはいつも人間の視野を狭くするからな。
例えば戦闘、ゴブリンは弱い、絶対勝てるなどの思い込みが強すぎたらまずい。特異なのがいたら殺される。
人間がそうであるように魔物だって個体差はある。
『オ、マモノ。アレタベヨ~』
ギンローは成長期。魔物の死体だって美味しくいただくし、それによって成長したりもする。今回は近くに角の生えた兎を発見して食事を始める。
近くに寄ったソフィアが、胸元を手でガードしながら言う。
「この魔物は首の後ろをナイフのような物で刺されたみたいですね。でも、かなり俊敏で気配に敏感なのに……」
「投擲か、俺みたいに隠密が得意な人がやったのかな」
「先生は特別です。この辺に、そんな暗殺者みたいな人がいるとは思えません」
俺って暗殺者っぽいの? 確かに山賊討伐では暗殺もやったけども……。
俺にはわからないが、ソフィアはなにかを警戒しているようだ。対照的にギンローはなにも気にすることなく食事を楽しむ。
なにが引っかかっているのかを訊いてみた。
まず死体が新しいこと、らしい。
やったのはすぐ近くにいてもおかしくないのに、この辺りには俺たち以外に人はいないと。
「……雨女だったら、まずいかもしれません」
それは行事などに参加すると雨が降りやすい女の人……ではないんだろうな。そう、恐らくまるで違うのだろう。
「数年前から、フィラセム近郊で突然神隠しのような出来事が増えました。突然、人がいなくなるんです。老若男女関係なく、森にいった人、川辺にいった人、そしてこの街道に向かった人などがです」
それらには共通点があって、必ず雨の日にいなくなるという。そしてある日、冒険者パーティの一人が見たようだ。髪が長く、薄気味悪い女が現れ、突然仲間たちを消したところを。
それは本当に前触れもなしで、一瞬で消されたのだとか。なぜか男だけが無事だった。
恐ろしくなった男はフィラセムに一度帰って、それを他の人に伝えた。雨が止んでからみんなで探索に出たが、結局仲間が戻ることはなかったと。
怪奇話みたいだな。そして俺は背筋が寒くなる。決してビビったからじゃない。
俺たち以外の人間の気配を察知したからだ。振り返ると、何本か奥の木の陰に異様を見つけた。幹からわずかだけど長髪がはみ出ている。
「なあ、その雨女とやらは何色の髪の毛してたかわかるかな?」
「確か、黒かったらしいです」
ふむ、木陰にいる存在と同じってことだな……。
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