35話 平穏
懸賞金をもらうまで、あと数日はアニラスに滞在する。
カイたちは、次の依頼のためにもう帰っちゃうらしい。働き者だね。お世話になったわけだし、俺は入り口まで見送る。
「あっちに戻っても仲良くしてくださいね」
「……」
「カイ? 大丈夫でしょうか」
「なあ、オレたちのパーティに入ってくれないなら――オレをそっちに入れてくれないか!?」
パンパンパンッ。
お仲間から連続でほっぺたを叩かれるカイ。
「もういい加減、諦めなさいって。カイにはあたしたちがいるでしょ」
「そうですよ。ユウトさんには可愛い仲間も従魔もいるのですから」
「諦めろカイ。ほら、別れの挨拶をしろ」
「うぅ……じゃあな、ユウト……あっち会おうぜ」
仲間に引きづられていくカイを俺は苦笑しつつ見送る。あの人、最初の印象はクールキャラだったんだけどねえ。
『マフフッ、ウハハァ、オモシロイネーッ』
ギンローもツボに入ったのか爆笑している。
彼らを見送った後は、町で思いっきり遊ぶことにした。
射的に似たゲームをやってみたり、広場でギンローと鬼ごっこをやったり、腹が減れば焼きとうもろこしを購入したり。
次の日もそのようにして過ごした。
翌々日になると、宿に領主様の遣いがきた。馬車付きで迎えにきたのは少し驚いたな。
ご立派な家の庭でソフィアとギンローには待機してもらう。俺はリビングに通された。背筋のシャンとした六十歳前後の男性がやってきて、領主だと挨拶された。
「初めまして、ユウトです。フィラセムで冒険者をやっております」
「盗賊退治にとても貢献してくれたんだってね」
「いえ、自分なんてまだまだです」
「謙遜しなくていいよ。君は大器の冒険者だと聞いている。今回も君がいたおかげで死傷者が出ずに依頼達成できた。こちらは私からのお礼と、国からの懸賞金だ」
硬貨が詰まっているであろう袋が二つある。
「片方が懸賞金の二千万。もう一つに三百万入っているよ」
「そんなに、いただけません!」
「受け取ってくれ。あけすけですまないが、領主の立場としては君のような冒険者とは縁を作っておきたいんだ。特に最近は、優秀な冒険者も生まれていない」
それは、ここのギルドマスターも嘆いていたことだ。本心だろう。
冒険者には指名依頼などもあるし、もしかすると将来また依頼をしてくるのかもな。
「……それでは、謹んでお受け取りいたします」
「そうしてくれると助かるよ!」
これで指名依頼が入ったら断れないなぁ。別に目先の欲望に負けたわけじゃないが、ここで断るのは勇気がいる。
俺も雰囲気に弱い日本人ってことだね。
美味しい紅茶とお菓子をいただき、楽しい談笑をしてから俺は領主家を後にする。
『ボクモオカシ、タベタカッタナァ……』
「なにか食べてさせてあげるよ。なにが食べたい?」
『ニグゥ!』
お菓子じゃないのかよっ。
まあ、ここ一週間で所持金増えすぎてるし、少しくらい贅沢しても問題にはならない。
「ソフィアは、なにか欲しいのある?」
「えっ、私はなにも。一緒にいられるだけでとても勉強になりますし」
「まあまあ、そう言わずに。ギャラガーだってソフィアの機転がなかったら、あんな楽にはいかなかった」
「……では、なにか服が欲しいです」
「あー、女の子だもんな」
「こちらのお店には、おしゃれなお店が多いんですよっ」
歩いている人も垢抜けた人が多いしな。早速、瀟洒な服屋に入ってみる。
――なめてたよ、俺は。ソフィアの服選びの時間をさ。
あれもこれもと試し、もはや全ての服を試着する勢いだ。試着を断る店も多いのだが、ソフィアは高貴な雰囲気を纏う。買ってくれると期待して、店員がなにも言わない。
「せんせーい、どっちが似合うと思います?」
「うーん……ソフィアから見て右」
「こういうのが好みでした?」
「うーん、好みかも」
「じゃあ、これにしてみます! これくださーいっ」
やっと決まったぁあああああ。ガッツポーズを取る俺にソフィアが一言。
「ふふ、こういう格好の女性がそんなに好きなんですね~」
全然違うけど、今はそういうことにしておいて。
店の外に出ると、ギンローが鼻提灯を作って眠っていた。
「起きろー、食べにいけるぞー」
と声をかけても熟睡している。成長期だからな。俺はお姫様抱っこして町を歩く。
「あとはフィラセムに帰るだけだな」
「仕事ではありましたけど、いい旅でしたね」
「ああ。……そうだ、あっちに戻っても、俺やギンローとまた依頼受けてくれるか?」
「もちろんです! 私の方から頭下げたいくらいなんですから」
ソフィアとは良い関係を築いていきたい。まあ俺は、いつでも一緒に行動しようとは思わない。一人でこなせるのは、一人でやって、困った時などにパーティで行動する。
そういう方向性が好きだ。ギンローはなるべく一緒じゃないと困るが。
「あ。宿にギンローのブラシ忘れてきちゃいました。取ってきますね!」
「よろしくー」
俺は道の端っこで待つことにする。
フリースキルがどんな感じに成長しているか確認しておこう。
スキル:オゾン語8 収納2 隠密6 気配察知3 錬金術4 視力4 嗅覚2 聴力2 身体能力5 体力3 怪力2 敏捷2 投擲4 拳術2 剣術6 剣術指導6 槍術1 斧術1 鎚術1 弓術3 盾術1 火魔法4 水魔法2 風魔法2 土魔法3 雷魔法2 光魔法4 回復魔法5 付与魔法2 物理耐性3 魔法耐性2 全状態異常耐性3 魔力調整4 魔力増量4 従魔6 全スキル成長10
使ってるスキルは順調に育っているな。
死にスキルになってるのも、徐々にあげていこうかね。
『フワァーア』
「起きたか。ねぼすけさんだぞ」
『……ユメ、ミタ』
「どんな夢?」
『ギンイロオオカミ、デッカイ、マモノトタタカウ。ボク、マモラレテタ』
ん? ギンローっぽい魔物がギンローを守ために、他の魔物と闘うのか。普通に考えれば、親になるんだろうけど。
「ギンローのお母さんだったりしてな」
『オカアサン……ユウト?』
「違うなー。しかも俺は男だから、どっちかと言えばお父さんだし」
『キョウカラ、オトウサン、オカアサン、ユウト、ネ?』
「一人二役かよ!」
『ガンバレッ。……ネル』
勝手に両親にして、自分は寝ちゃうのか。
……ギンローの両親って、もうこの世にいないんだろうな。血縁で言えば、ギンローは孤独の身なわけだ。
それは地球人である俺も同じことだが。
天涯孤独な者同士、仲良くやっていこう。
「ギンロー、お前は俺が最強の従魔に育ててやるからな!」
返事なのか寝言なのか、ギンローは『ファ~』と声を出した。
絶対寝言だと思う!
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