34話 帰還
館内の盗賊の処理も問題なく終わった。
館のお宝は、カイの指示で俺が一時的に収納する。反対する人は誰もいない。俺が持ち逃げすると疑う人は一人もいなかったな。まあ、実際しないけど。
館の外に出てからは負傷者を並ばせる。
「重傷者の方から優先的に治療します!」
「あんた回復も得意なのか」
「ありがてえ」
傷ついた仲間たちを俺は治療していく。治癒院で毎日バイトしていたおかげで、慣れたもんだよ。
俺の手際の良さにはカイたちも驚いていたな。
「お前、ヒーラーとしても活躍しそうだな……。ますます欲しい……」
カイと仲間は、かすり傷一つ負っていない。さすがAランクパーティだよ。
今回は奇襲が完璧に決まったこともあり、こちら側の死者が一人もいない。
胸や背中に深手を負った人は二人いたけど、俺のハイヒールで快癒した。
捕まえた盗賊によると、もう仲間もいないとのこと。安心して、全員で山を下りる。
朝日に照らされながら歩く山道は気持ち良いもんだな。
午後にはアニラスにつき、ギルドに戻る。
「その顔つき、成功したのかい?」
マスターがくわえていた葉巻を指で取る。カイが答える。
「盗賊団は壊滅させました。こちらの死者はありません」
「重傷者は?」
「もちろん怪我人は多くでましたが、こちらのユウトが全て治癒しました」
「……へえ、あんたヒーラーかい。でも魔力がよく足りるね」
「魔力増量や調整のスキルがありまして、それでやりくりしてます」
「やるじゃないのさ。てっきり戦闘特化タイプだと勘違いしてたよ」
ここでカイが訂正する。
「マスター、ユウトは回復専門ってわけじゃないですよ。オレと隠密行動を行い、敵の気配察知持ちを始末したのもユウトです」
「なんだって?」
「こいつは隠密スキルをオレ並に上げたんです。あと、敵の頭の従魔を倒したのは、ユウトの従魔と仲間です」
マスターは呆けた状態になり、葉巻が床に落ちた。ハッとしてそれを拾う。
「か、頭はどうしたのさ?」
「それもユウトが倒しました」
「単独でかい!?」
「仲間のサポートはありましたけど、ほぼ一騎打ちでした」
マスターは俺の前にやってきて、顔をジロジロと眺める。
「何者なのかねえ?」
「た、ただの冒険者です」
「隠密行動ができて、強くて、魔法が使えて、回復もできて……ただの冒険者? 他にどんなことできるのさ」
「……錬金など多少」
「万能じゃないのさ!? ウチに入っておくれ、この通りだからーっ」
急に腰を何度も折ってペコペコと頼み込んでくるマスターには困惑するぜ。おばあちゃん、腰悪くしますよ。見かねたのかカイがマスターの行動を止めてくれた。
「無駄ですよ。オレだって何度もパーティに誘って断られてるんですから」
「この子が入ってくれたら、ウチもマシになるんだがねぇ……。楽しちゃダメってことかい」
勧誘を諦めてくれたようで助かる。
今日はみんな疲労感があるため、ここで解散となった。明日、改めて報酬の分配などを行うことに。
俺は宿に戻る途中、ソフィアに話す。
「お宝は俺が持ってるけど、もし逃げたらどうするんだろうな」
「先生はそんなことしない人だって、皆さんわかってるですよ」
「でも一日、二日の短い付き合いだよ」
「そんな短期間でもわかることはあります。先生の凄さはカイさんもマスターも認めてたじゃないですか。そんな人が、せこい真似はしませんよ」
信頼を得たってことで喜んでおこう。
宿のベッドに入ると、急にまぶたが重くなる。自分でも気づかぬ内に疲労が溜まっていたんだな。
翌日の午前中、冒険者たちがギルドに集まって分け前を話し合う。今回の依頼は、一人ずつ二十万ギラの基本報酬が出る。
質素な生活なら一ヶ月は余裕だし、参加者の中にはこれで満足している人もチラホラ。
そこに、盗賊のお宝が加わる。
「じゃあ、出しますね」
「ウッヒョオオオオ!」
俺がテーブルにお宝を出すと、彼らのテンションがすぐに沸騰した。
『クエナイノニ、ナンデヨロコブ? ヘンナノ~』
そうだな。でもこれが食える物に変換されるんだぞ。
「金銭の取り分は均等に。装飾品や武器は、活躍したやつから選んでいくってのはどうだろう?」
カイの提案に反対する者はいなかった。そして、全員の視線が俺に向けられる。
「選んでくれよ、ユウト」
「俺からでいいんですか?」
「いやいやお前しかいないっつの!」
「……それじゃ、お言葉に甘えて」
武器か装飾品か宝石か。武器は質は良いが武器屋でも買えそうなので却下だ。
錬金術に使えそうなにしようかな?
「これ、なんです?」
巾着袋みたいなやつの中に、黒い丸薬が詰まっている。薬局で見るセイ○ガンっぽい。臭いがきついのまで一緒というね。
「なんだろな……マスター、知りませんか」
「どれどれ」
年の功を活かしてマスターが教えてくれる。
「こいつは快速丸薬さ。食べると数分から十分くらい足が速くなる」
「面白いですね。従魔にも効果あるんでしょうか?」
「獣系なら問題ないじゃないかねえ」
「それじゃこれにします」
錬金術で素早さ系の物を作る時に役立つだろうし、普通に飲んでも良い。
他の人たちも各々欲しい物を選んでいく。
最後は、金銭の分け前だ。あいつらかなり貯め込んでて、四十人で分けても一人あたり約八十万にもなった。
基本報酬と合わせて百万だもんな。そりゃみんな小躍りして喜ぶよ。
「ユウトとカイたちには、ウチから追加で三十万ずつ出すよ。帰ったらあんたらのギルドから特別報酬もでるはずさ」
「感謝します。今回参加して、良かったです」
「あんたは特にそうだろうね。そんな額が目じゃないだけ入るし」
「……俺ですか?」
「あんた、凄いやつなのにどこか抜けてるよねえ。そういうところも魅力なんだろうけど。ほら、監査官がやってきたよ」
ギルドの入り口からちょび髭を生やした小柄な男と、数人の平民っぽいのがやってくる。
「ギルドマスター、約束通りに調べにきた」
「あいよ。ユウト、頭の死体を出してやんな」
あっ、そういうことか! ギャラガーには懸賞金がかけられていたこと、すっかり忘れていたぜ。
死体を出すと、監査官が片眉を上げて少々驚いた様子だ。
「こんなに大男なのだな。筋骨隆々であるし、何人がかりなら仕留められるんだ?」
「そいつは、ユウトがほとんど一人で仕留めたのさ」
「一人で!? ……ユ、ユウトとはお前か?」
首肯すると、彼はしばらく言葉を失う。
「……こいつを倒せるほど強そうに見えないが……人は見かけによらない。特に冒険者にはよくある。ま、本物か確認する作業がまだだが」
彼と一緒に来たのは、過去にギャラガーに滅ぼされた村の生き残りだった。
監査官はギャラガーに見覚えがあるか尋ねる。
「間違いありません。こいつが盗賊を率いてました!」
全員の意見が一致して、ギャラガー本人だと認められた。監査官は俺に対して、敬礼のポーズを取る。自衛官がよくやるアレとほぼ一緒だ。
敬礼は世界をまたぐのかも。
「死体は我々が預かるが問題は?」
「ありません」
「この男には国が懸賞金をかけていた。よって、まず国王様にご報告する。認可されれば、貴方に懸賞金が入る。早ければ数日で、領主から受け取れるだろう」
「承知しました」
「冒険者ユウト。此度の件は感謝申し上げる。貴方のさらなるご活躍とご健勝をお祈りいたす!」
めっちゃハキハキ言うと、彼は自分よりずっと大きな死体を軽々と肩に担ぐ。頭もしっかりと手で握り、ギルドから出て行った。
えぇ……マジか……。確かに人は見かけによらないな。
それはともかく、懸賞金は二千万なので、しばらくは余裕のある生活ができそうだ。




