33話 盗賊退治6
室内に変化が起きた。まずギンローが強力な爪を虎の従魔にお見舞いした。すると蛇が怒って噛みにかかったのだが、それをソフィアが絶妙のタイミングで斬り落とした。
虎はマズいと判断してか、窓から外に逃げた。ギンローとソフィアは即座にそれを追って外に。
二階なんだけど大丈夫かな……。
人の心配をしてる場合でもない。俺には縦横無尽に動く刃が襲いかかる。
避け、受け流し、見極めることに集中する。
力も速度もある。そして自由極まりないように感じる。だが、ちと自由すぎじゃないか?
型というものがなさ過ぎて、無駄が多い。おそらく剣術スキルはないか、あっても低い。そして誰かに師事したこともなさそうだ。
恵体や元来の気性や迫力で敵を圧倒してきたと勝手に推測する。
「妙だな」
「なにが妙なんだッ、言って見やがれクソガキ!」
「ガキって……俺はアラサーなんだが」
「ごちゃごちゃうっせえ!」
縦一文字をなぞるような大ぶりの一撃を、俺はバックステップで躱す。刃が床に食い込む。
「ウッ、クソッ」
剣が挟まって抜けないのだ。剛力が仇となったな。この隙を逃したらアホだ。俺はギャラガーの左腕を切り落とす。
切断された肘から下が、勢い余って宙を舞う。
「ひぐぅあああああああああああああ」
悲鳴が室内を埋める。一気に倒すべく俺は強く踏み出そうとして、嫌な予感がした。
罠かも……。だって妙だろ。こいつ、懸賞金かけられる悪党で、今まで手練れの人たちを返り討ちにしている。
その割に、どうにも弱い。もちろんザコってわけじゃないけど、死の恐怖をまったく覚えないのだ。
「ゆるざねええええ!」
ギャラガーが怒りの咆哮をすると、バチバチと全身に電気を帯びる。やっぱ突っ込まなくて良かった。
なんて安心したのもつかの間。四方八方にそれを飛ばしてきた。
「マジか!?」
もはや奴自身が発電機。雷が複数飛んでくるような状況にはさすがに焦る。
「いつっ……」
掠っただけなのに、電撃の痛みが全身に走る。こいつ、高いレベルの雷魔法を習得してるんだろうな……。
これでみんな、返り討ちにあったのか。
「フーッ、フーッ」
興奮した様子で接近してくるギャラガー。
あいつの曲刀はまだ床に刺さったまま。どうするつもりだ?
「オラァアアアアアアアッ」
ぶん投げるらしい。俺の体が窓を通過して外に出る。ひぃっ! 野球ボールになった気分だ!
俺は空を飛びながら、ハイヒールを自身にかける。完全回復ではないけど体は動くようになった。
「ぎゃふ……!?」
着地は失敗したけどなっ。体頑丈になってるからマシだが、痛いのに変わりはない。
起き上がり、完全に体力が戻るまでハイヒールをかけ続ける。
外の様子だけど、館から出てきた盗賊が結構いるぞ。カイたちが積極的に倒している。
「終わりです!」
『トドメデス!』
おっ、あのコンビもいた! 虎の魔物の首元をギンローが食いちぎり、相手がフラついたところをソフィアの剣が斬り刻む。
あっけなく従魔倒してるじゃん。俺も負けていられない。ザッと二階からジャンプしてきたギャラガーと向き合う。
曲刀は一応持ってきたみたいだな。まともに剣戟を交わす気はなさそうだけど。
「本気を出すのは、何年ぶりだろうなぁ」
ずっと電気を纏わせてて、ウザいことこの上ない。
「最初から本気なら左腕失わなかったんじゃないか?」
「てめえだけは、絶対に殺す。誰かをここまで殺したい、なぶりたいと感じたのは初めてだ」
「なんて光栄なことだろうな」
しかし、どう闘うべきか。こっちも魔法で対抗した方がいいのかね。
帯電状態に剣で攻めると感電するしな。だが先ほど、雷を撃った後は放電していた。あの時であれば隙だらけだ。
「そろそろ、さっきのを撃ってきてくれよ」
「避けられると思ってるのがムカつくんだよ、ぬぉおおおお!」
体に電気を蓄えていくギャラガー。雷耐性もあるよな絶対。なきゃ、あんな芸当できないと思うんだが。雷魔法は雷耐性とセットじゃないと本領発揮できないのかも。
さて、そろそろ来るぞ……。
ギャラガーが目をクワッと見開く。俺の頬を風が撫でる。突然巻き上がった風が地面の石を浮き上がらる。
「ぬぐっ……!」
石がギャラガーの顔面にぶつかった。魔法発動のタイミングだったため、完全に狙いがそれて俺には雷魔法が一つも当たらない。
「ソフィアかっ」
「いってください、先生!」
風神の指輪を巧みに活用してくれたのだ。
感謝しかないね。俺はギャラガーまでの最短距離を走り抜け、勢いを活かして剣を振り切る。
――ギャラガーの首が跳ね飛ぶ。
しばらく静寂が辺りを包む。争っていた者たちも手を止め、俺たちの闘いに注目していたのだ。
「おかしらが、負けた?」
「嘘だ、あの人は……高ランク冒険者だって返り討ちにしたことあるんだぞ……」
「あいつ、何者なんだ……」
盗賊たちの戦意が消失している。武器を落として降伏する者が出てきた。
カイがそいつらを縄で縛りながら言う。
「あいつはユウトだ。将来、Sランク冒険者になる男だ。お前らが闘ってきた奴らとは格が違うんだよ。覚えておけカスども」
Sランクかぁ。まだ遠いけど、将来はそこにたどり着きたいもんだ。そして俺の評価がやたら高いな。
今のだって、ソフィアのサポートあってこそなんだけどさ。
「完璧な太刀筋でしたね」
「ソフィアが風を操ってくれたおかげだよ。上手く使いこなしているな」
「相性が良いみたいです。ようやく先生のお役に立てて嬉しいです!」
『ボクチャンモ、ガンバッタケドナァ……』
ソフィアばかり褒めたから拗ねちゃったかな。俺は背中の毛を撫で、ギンローも褒める。
「うん、ぼくちゃんも頑張ったな。虎の魔物への一撃は見事だったぞ」
『デショ!』
「つーか、動きがどんどん俊敏になっていくよな」
あっちの従魔もギンローの動きにはついていけない感じだった。俺たち人間では届かない反応速度や身体能力があるよなー。
「ユウトー、女性解放とお宝回収に出ようぜ」
「はい、彼女たちも待っているでしょうし」
俺はギャラガーの死体を保存する。
館の中の残党狩りをして、彼女たちの元へ急ぐ。鍵を使って部屋を開ける。中にいる女性たちに声をかける。
「俺たちは冒険者です。貴方たちを助けにきました」
ん? あんまり反応がないな。みんな戸惑っている様子だ。
「大丈夫ですよ。これからは自分の村や町に帰れます」
優しい声音を意識して伝えると、彼女たちは感情の堰を切る。泣いて喜ぶ人がほとんどだ。服装こそまともだけど、みんな体格は痩せている。
ジャックみたいなクズも多いだろうし、ここの生活は苦痛以外の何者でもなかっただろう。
「ありがとうございます、本当に嬉しいです」
俺の手を握ってきたのは、昨日ジャックの部屋にいた女性だ。
「よく耐えましたね。約束を守って、俺たちのことも言わなかったんですよね?」
「……昨日の盗賊、貴方だったんですか」
「そうです。変装をしていまして」
そう言うと、女性は俺に抱きつき、興奮して言葉を紡ぐ。
「貴方には二度も助けていただきました。昨日は操を、今日は人生を救っていただきました。なんとお礼を言ったらいいのか……」
「礼なんていりませんよ。俺は自分の仕事をこなしたまでです」
自分の仕事に責任感を持つ。そんな当然のことをしたまでだ。
ま、かっこつけた感は否めないけどさ。




