32話 盗賊退治5
「現在の状況とこれからの動きについて話させてくれ」
カイがリーダーシップを発揮してくれたおかげで、俺はかなり楽できるよ。
厄介だった二人のうち、一人は始末したと彼が伝える。俺は収納で死体を出すと場が盛り上がった。
「ほとんどユウトのおかげだ。あんたらも感謝しろよ」
「カイがそこまで褒めるなんて……あんた本当に凄いやつなのね」
「そうですね。カイは結構他人に厳しい人なんですけど」
「討伐の際は期待してるぜ、超期待のルーキーさんよ」
カイの仲間が俺に好意を向けてくる。他の冒険者たちも褒め称えてくれるので、さすがに照れそうだ。
「みなさん、少し休みましょう。早朝にアジトに到着するようにここを出発します」
朝の三時頃にここを出る感じだな。俺も休んでおこう。
『オキテー』
「……ん、もう時間なんだな」
ギンローをモフモフしつつ、俺は目を覚ます。変装の杖の効果は消え、元の姿に戻っている。
みんなで準備を整え、山に入る。
先頭は俺だ。光魔法で道を照らせるからな。ちなみに覚えた光魔法はあと二つ。閃光で目を眩ますのと、武器に光属性を一時的に宿すものだ。
「私、頑張ります。先生のお役に立ちたいので」
「気合い入ってるんだな」
「剣を作ってもらったり、指輪までいただきましたから。お返しできてないですし」
「あんまり気負わなくていいよ。俺がやりたいからやってるだけだし」
「先生は本当に優しいですね~」
ソフィアくらい性格が良くて美人なら、男は誰でも優しくなる気はするな。
四十人での移動ではあったが、特に問題なくアジト近くにたどりついた。カイが言う。
「誰かが先に行って、見張りを倒す必要がある」
「私に行かせてください!」
「ソフィアだったな。ユウトはどうする?」
「俺とギンローも行きます」
「ならこれの笛を持っていけ。万が一、見張りを倒すのに失敗したり、仲間を呼ばれたときはそれを鳴らせ。オレたちも一斉に乗り込む」
「そうならないよう、注意します」
俺たちは館が見える位置までチームで移動する。身を屈めながら、見張りの近くまではやってこれた。
「まずいな……。今回はナイフは無理かも」
一人は革製の首当てっぽいのをしており、もう一人はストールみたいな物を巻いてる。
狙いづらいし、仮に当たっても耐えてしまうかもしれない。
「でしたら先生、ここは私とギンローに任せてくださいません?」
「策があるんだな」
「待ってる間、一緒に練習などしていました」
「俺にできることはあるかな?」
「一瞬だけで良いので気を引いてもらえれば。あの二人の背後に、石などを落としてもらえたら助かるのですが」
「オーケー、やってみる」
ちょい場所が悪いので、俺は見張りの死角になる位置目指して一人で動く。その際、手頃な石をついでに一つ拾う。
幹の太い木の陰で深呼吸。ここなら投げてもバレないだろ。いけっ!
俺は石を山なりに投げた。
――ボトッ。
上手い具合に、見張りの背後に石が落ちた。
「音がしたな?」
二人が同時に背後を確認する。その瞬間、ギンローとソフィアが隠れていた場所から飛び出す。
みるみると距離を詰める。さすがに見張り二人も存在に気づいた。
「てめえら――」
見張りが声を出すのとほぼ同時に、ギンローが頸動脈に噛みつく。
ソフィアの剣が、強烈な突きで見張りの心臓を貫く。バタバタッと見張り二人が地面に沈んだ。
えーすげー……。
まさに疾風迅雷の攻めで、一気に勝負を決めた形じゃないか。俺はすぐに見張りの息の根が止まってるか確認する。
両者とも即死だった。
……ギンローはともかく、ソフィアが躊躇なく敵を倒したのは意外だ。
「やるか、やられるかですから。私も冒険者になりましたし、覚悟は決めました」
「そっか。ナイスだ」
身体能力だけじゃなく、精神も成長しているってことだな。
『ギンローハ?』
「ギンローはいつもナイスだよ」
『ウェーィ!』
「その喜びかたどこで覚えたの? っていうか、静かにな」
せっかく敵を瞬殺したのに、外で騒いで見つかったら目も当てられない。
俺は死体を収納すると、すぐにカイたちの元へ戻る。
「作戦は成功しました。ソフィアとギンローが上手くやってくれまして」
「さすが、ユウトのパーティだな! これで最高の形で奇襲ができる。全員、前に進め」
冒険者たちが夜明けに進行する。
館の前で、カイが早口で俺に告げる。
「さっき一階、二階を攻めるやつを決めておいた。影の足音は外で待ち、逃げてきた賊を全て潰す。ユウトはどうする?」
迷うな。俺たちも外で待つべきか。でも頭と従魔が気になる。寝てるなら暗殺で終わらせられりゃ最高なんだがね。
「部屋の位置も知ってますし、俺は頭を攻めてみます。もし無理そうなら、外に逃げてきます」
「ユウトで無理なら、包囲して倒すしかないだろうな。その時は任せてくれ、連携には自信がある」
方向性が決まり、俺たちは館に侵入する。
廊下は静かだ。朝まで飲んでるやつはいないっぽいな。
俺は二階に行き、頭が出てきた部屋の前にいく。ギンローもソフィアも準備できているので、静かにドアを開ける。
広い部屋だな。奥に窓があり、光が差し込んでいる。物はあまりなくソファーと棚があるくらい。頭はそのソファーで横になっている――が、目は完全に開いてるんだが!?
「俺様の館に侵入する度胸だけは認めてやらぁ」
「……ギャラガーだな。お前を倒しに来た」
「だろうよ」
ギャラガーは緊急時とは思えぬほど自然体に起き上がり、テーブルの上にある剣を手にする。
湾曲しており、曲刀タイプのものだ。
「む」
俺はギャラガーではない別の存在の気配を感じ取る。
「ソファーの後ろになにかいるぞ」
「ガァアアア!」
ソファーを軽々と飛び越えて、虎が俺に攻めかかってきた。従魔に違いない。尻尾が大蛇で、虎頭だけじゃなく蛇まで俺に噛みつく気マンマンだ。
『トリャ!』
俺を守ろうとしてギンローがさらに虎の横から飛びかかる。
もつれるようにして転がり、従魔たちが争う。
体格では完全にギンローが不利だ。しかもあっちは蛇もいて独立した動きをする。
「私に任せてくださいっ」
「そっちは頼んだ」
ここはソフィアの力を借り、俺はギャラガーに集中する。武器は使い慣れている剣でいく。
「ほう、強いな。俺様くらいになれば、構えを見た瞬間に相手の実力がわかる。あとは目で胆力があるかどうかもな」
「そりゃどうも。腐りきった悪党に褒められてもあまり嬉しくないけどな」
「それよそれ。俺様を退治しにくる奴らは、最初はみんな粋がってる。でもよ、最後は例外なく命乞いしてくる。それを踏み潰すのが楽しくてしょうがねえ。懸賞金かけてくれた奴に感謝したいくらいだね」
なにをペラペラと悪事自慢しているのだか。こっちばかり不快になるのはフェアじゃないので、挑発しよう。
「マヌケな頭を持ってジャックは可哀想だ」
「……ジャックがなんだって?」
「あいつや見張りは俺が始末した。逃げたわけじゃないんだよ。あれは俺の作り話だ」
「お、お前の、作り話……?」
「昨日、廊下で二人組に声をかけただろ? あれはな、俺と仲間だったんだよ。気づかなかったか? そんなマヌケが頭を務める盗賊団ねえ。あっという間に壊滅させられそうだ。ははははは!」
「でんめえええええええええ――!」
ぷっつん。ギャラガーは目を血走らせて、俺に猪突猛進してきた。
挑発勝負は、ひとまず俺の勝ちってことでいいよな?




