31話 盗賊退治4
「安心してください。敵ではありません」
今は変装していること。盗賊を討伐にきたこと。女性たちを最後は助けたいことを伝える。
逃げない、喚かないかと尋ねると、彼女は頷いたので口元から手を離す。
「本当に、助けてもらえるのですか?」
「はい。ただ、今すぐではありません。まずは一度、元の場所に戻ってもらいます。まずは、服を着て」
こんな状況とは言え、下着姿は刺激が強すぎるんだよ。彼女が着替えている間、俺はジャックの死体をまさぐる。ポケットから鍵を発見した。
「これって、女性がいる部屋の鍵ですか?」
「そうだと思います」
なら預かっておこう。他にめぼしいのはないため、死体を異空間に収納する。
「すごい……! なにをしたのですか」
「死体を隠しました。このままだとまずいので。さ、元の場所に案内してください」
部屋を出て、彼女に部屋まで案内してもらう。意外にも二階にあった。いいや、二階の方が良いのか。
窓からも逃げづらいし、万が一部屋からでれたときも階段を下りて一階の出口に向かう必要がある。
途中で、盗賊に遭遇する確率も高いはずだ。
「何人ほど捕まっています?」
「若い女性ばかりで十人はいます」
「彼女たちにはまだなにも言わないでください。また、他の盗賊にさっきの男のことを聞かれたら、行為が済んだ後は、この部屋に戻されたと答えてください」
「わかりました」
この子はまだ若いけどしっかりしている印象だ。妙な行為に走ることはないと判断していいかな。
俺は部屋の中に彼女を入れる。そして鍵を閉めて、カイを探しにいく。
奥のドアノブに手をかけると、勝手に回って焦る。ちょうど彼が出てきたところだ。
「ビビった、ユウトかッ。そっちにいたか?」
「ええ、上手くいきました」
俺は流れをかいつまんで説明した。
「さすがだな! 実はこっちも収穫があった。入ってくれ」
収穫ってなんだ? 室内は結構汚い部屋だった。そこら辺に食いカスや物が置かれていて、ある意味生活感がある。少しは掃除しろよ。ま、盗賊になるやつらじゃ仕方ないか。
「この壁が怪しいと思って押してみたら、大当たりだった」
カイが隅の壁を押すと、ゆっくりと一部が回る。回転式のドアになっているのだ。
そこは小部屋となっており、装飾品やら武器やらお宝が沢山置かれてある。うおー、随分貯め込んでたんだな……!
「ちょっくら調べてみたんだけど、使い捨ての魔道具なんかもあるんだよ」
「戦闘に使えるタイプ?」
「ああ。これ奪っておけば相手の戦力ダウンに繋がるが、どう思う?」
俺とカイは収納があるから、宝も含めここの物をごっしり奪い去ることは可能だろう。
「止めましょう。魔道具も手をつけない方がいいです。万が一、ここの物が無くなってるとバレたら、敵は警戒します」
元々、奇襲を成功させるため、俺とカイはリスクを犯して侵入したわけさ。そして見事、ジャックも始末できた。ここで欲をかいて相手に侵入がバレたら、本末転倒なんだよな。
「ユウト、やっぱり冷静だな。ますますウチのパーティに欲しい。一番取り分高くするからどうよ?」
「ありがたいですけど、最近金運は良い方なんです」
「くぅ、つれねーなぁ」
基本クールなカイが本当に悔しそうにする。それはさておき、俺たちは静かに部屋から出る。あとは、バレずにこの館から脱出する。
「外は日が暮れてるだろうな」
「いけるところまでは、いきましょう」
そんな会話をして歩いていると、部屋が開く音がした。
「お前らちょっと待て!」
心拍数が上がる。俺とカイが振り返ると、禿頭の男がおもむろに歩いてくる。天上が低く思えるほどの背丈で、体格が非常にしっかりしている。目つきも、肝が据わっているやつのそれだ。
ぱっと見で強者だと判別できる。こいつ、絶対盗賊の頭だろ!
「なんでしょう?」
俺は平常心を装い、そう言った。男は鋭い目でこちらを見下ろす。ヤバい、まさかバレてるのか?
「お前ら……今見張りじゃなかったか?」
「えっと、実は腹が痛くなりまして……。交代してもらったんです」
「食い物に当たったんだな。まあいい、ジャックの野郎を見たか?」
「あいつ、またなにかやったんです?」
「俺様用の果物が無くなってる。そんなことするのは、あの野郎しかいねえだろうが!」
壁を殴りつけ、かなりイラついている様子だ。今のパンチで、こいつが強いのは十分わかったよ。口ぶりといい、頭で間違いないな。
ここで、俺はいい作り話を思いついた。
「そういえば、あいつ階段ですれ違った時、しばらく館を出るって言ってました」
「なんだとぉ!?」
「お頭にドヤされるって。女の部屋の鍵も持ってました」
「今すぐ追え! そして連れ戻せ! 腹痛いとか言ってる場合じゃねえぞ!」
「は、はいっ」
俺は焦ったフリをして、カイと急いで階段を下りていく。
そのまま外に出ると、交代した見張りが不思議そうな顔をする。
「お前ら腹痛は治ったのかよ?」
「それどころじゃない。お頭命令で、俺たちは逃げたジャックを追う! お前らはここで見張り頼むぞ」
「お、おう」
隠れることもなく堂々と来た道を引き返す俺たち。カイが口端を上げながら絶賛してくる。
「あの場面で、よく機転利かせたな! おかげでジャックや始末した奴らがいなくても怪しまれなくなった」
「咄嗟ですけど上手くいきました。しかしあの大男、結構厄介そうです」
「あれは絶対強ぇ……。懸賞金かかってるだけはある。オレはサシじゃ勝てねえな」
「数的優位で攻めたいですね」
そのためにも奇襲を成功させ、さっさとザコは始末していきたい。
館を出て三十分ほど歩いたところで、俺とカイは足を止める。そうするしかなかった。
「……もう真っ暗だな。残念だが野宿するしかない」
そう、日が完璧に落ちた。今夜は月も雲に隠れており、数メートル先も闇で見えない。
足場も悪いので無理に進むと危険だ。その上、この山は魔物も出る。移動中に襲われたり囲まれるのは避けたい。
「ですが、できれば今夜中にみんなと合流して、早朝にアジトを攻めたいですね」
「まあ、それが理想だわな。日が完全に上ってからだと、盗賊も起きてる奴が増えるだろうし」
うん、今夜中に戻ろう。枝を燃やして松明代わりにするかね。それも悪くないが、フリーPを使用しよう。
初歩の光魔法に、光で周囲を照らすやつがあったはずだ。今あるフリーPだと光魔法4までいける。
光魔法は基本優秀なので損はないな。
ポゥッ。
俺の指先に光球が生じて、周囲を照らし出した。
「カイ、お前って光魔法使えたっけ?」
「今、覚えました」
「……うーん、規格外……」
どこか呆れた様子で言うのはなぜでしょうね。
ともあれ光魔法のおかげで、問題なく山を下りられた。魔物に襲われなかったのは地味に嬉しいね。
みんなが野宿する林に戻る。盗賊の格好なので、当然誰もが警戒する。ギンローはすぐに気づいてくれたけどさ。
『ユウトーッ、タダイマァ!』
「はははっ、そこはオカエリだぞ!」
『オッカエリ!』
「ただいま。しかし俺だとよくわかるな?」
『ニオイデ、カンペキッ』
やっぱギンローと戯れているときが一番和むわ。このまま町に帰って休みたいぜ。
「先生、お疲れ様でしたぁ」
「ソフィア、こっちは問題なかったかい?」
「はい! 強いて言うならギンローが蛇と追いかけっこしまくって困ったくらいです」
「ギンロォ……」
『ギンロー、ワルクナイヨ?』
悪いのは地を這う蛇だとでも言わんばかりに、キョトンとした顔してやがる。余裕で許すけどな!
というか、蛇に恐れなんて抱かないのはありがたい。頭の従魔は虎と蛇が融合してるわけだし。
「お前ら仲良いな。雰囲気だけで、良いパーティかわかるんだよ。ユウトがウチに入ってくれない理由がわかった」
「影の足音だって素晴らしいパーティじゃないですか」
仲間の三人が、カイの帰りを心底喜んでいる。特に女性二人なんて、思いっきり抱きついてるしね。
モテて羨ましいよ。




