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30話 盗賊退治3

 頂上近く、崖の近くに盗賊のアジトは存在していた。

 洋館のような建物が堂々と山に鎮座している。見張りも二人いるな。

 俺はカイと灌木に隠れながら会話する。


「あんな場所に、結構立派な館ですね」

「元々は物好きな貴族が作ったんだろう。町中だと権力争いや平民の目が気になって、田舎に別荘を作る貴族は多い」


 へえ、貴族といえども楽じゃないんだ。日本でも金持ちや権力者は批判の対象になることが多い。大したことない発言で炎上、叩かれたりね。

 人の嫉妬ってのは怖いな。


「どうします?」

「二人を始末して、変装する。それがベストだが、案外油断がない」

「ですよね……」


 山の中の警備なんだから談笑くらいすりゃいいのに、見張り二人は無言で立っている。

 しかし見るからに悪人って面してるのな……。


「そういやユウト、投擲は得意なのか?」

「ええ、一応スキルもあります」

「なら、これはどうだ」


 カイはナイフの刃を毒液につける。これを投げろってことだろう。

 命中すりゃ盗賊は死ぬことになる……が、それほど躊躇いがないな。


「盗賊を殺した場合、罪になりますっけ」

「面白い冗談だな。あいつらが罪を犯しまくってるんだぞ。館にだって連れ去られた女子供がいるかもしれない」

「情けはいらない、と」

「むしろ殺す、捕まえることが正義だ。それによって未来に苦しむ善人が減る」


 まったくだ。異世界じゃ悪人に対する慈悲心なんて捨てちまおう。


「殺れそうか?」

「やりますが、外した時はどうします?」

「流れを見てオレが飛び出す。魔法で援護してくれ」

「わかりました、ではギリギリまで移動しましょう」


 なるべく距離は詰めた方がいい。匍匐前進で移動して見張りたちの斜め前方の木陰に身を隠す。

 距離は二、三十メートルくらいか。見張りは二人とも軽装なので、首元を狙った方がいいよな? 刺されば声は出せないだろうし。

 ヒュッ――と素早くナイフを投げる。


「ぐえ……!?」


 よっしゃ、成功した! 心の中だけで喜び、俺は二投目に入った。まごつく残り一人にもあっさり命中する。

 カイが念のため、見張りの胸にナイフを突き刺す。


「こいつを陰に隠すぞ」

「はい」


 一人ずつ担いで木陰に持っていく。


「さすがだなユウト、まさか二人とも一発で始末するとは」

「予想より反応が鈍くて助かりましたね」

「頭以外は、所詮三流の集まりなんだろう。さてさて、こいつを使うぞ」


 カイは変装の杖を取り出した。木製の長い杖で、一見何の変哲もない。彼は杖の先で死体に触れると、今度は自分の皮膚にその部分を当てつけた。


「変装」


 その行為と言葉が発動に必要なのだろう。

 一瞬にして、カイの姿は見張りの悪人面へと変わった。


「おおっ、凄い……。本物と見分けつきませんよ」

「成功したか。ギルドマスターに感謝だな。次はユウトだ」


 同じ要領で、今度は俺がもう一人の見張りの姿に変化する。顔は自分じゃわからないけど、目線が変わったり、手が明らかにゴツゴツしていたので成功したとわかる。

 服までは変わらないため、見張りのを剥ぎ取って着替える。元の服は収納で保存しておこう。

 怪しまれないよう館の前に戻る。


「このまま交代の時間まで待ちます?」

「いいや、何時間後になるかわからない。こっちから仕掛けていこう。二人で仮病のフリをする。オレに話を合わせてくれりゃいい」

「わかりました」


 カイが館のドアを開けて中に入る。俺もその後を追う。立派な館だけど掃除はあまりしてないんだろうな。

 中に入ると少し埃臭かった。廊下で数人の盗賊が座り込んで馬鹿笑いしている。


「あぁ? 見張りはどうした?」

「悪いんだが、ちょっと代わってくれないか。オレたち二人とも、さっき食った物が当たったみたいで……痛っ」

「俺も、腹が痛くて……」


 カイを見倣って俺も表情を作り、腹を押さえる。

 盗賊たちはそれを見て爆笑し出す。仲間の不調なんだから少しは心配しろっての……。

 いや、こいつらにとっちゃそういう意識もないのかもな。はぐれ者同士一時的につるんでいるって感覚なのかも。


「頼むって。今晩の飯、明日の朝食までやるからさ」

「お、マジかよ!」


 カイの誘いに乗ってきたな。金を使うのかと思ったけど、こういうやり方もあるのか。

 考えてみれば、こんな山の中じゃ大した食事は取れない。金よりご飯の方が有効なのかもしれない。

 疑われることもなく、二人とも交代してもらえそうだ。カイは思い出したように言う。


「そうだ、気配察知で調べて欲しいことがある。姿は見えないんだが、妙な気配を感じてな。獣かもしれないが一応な」

「ジャックなら二階の奥の部屋に女と入ってったぞ」

「女と?」

「村でさらったやつだよ。どうせ頭に隠れてこっそりと連れ出したんだ。何度怒鳴られても懲りねえやつだよ。スキル持ちだから頭も殺せねえのを本人もよく知ってやがる」

「わかった、じゃあオレが伝えてくる。見張り頼む」

「約束忘れんじゃねえぞ」


 上手くやり過ごした上、スキル持ちの居場所もわかった。カイはさすがに慣れているな。

 俺たちは二階に上がる。階段を上がると左右に道が伸びていた。これだと奥の部屋は二つあることになるな。

 館は二階までなので、頭の部屋もあるんだろうか。


「カイ、捕まった人々がいるみたいですね」

「だな。だが今は、後回しだ。依頼を遂行することだけ考える」

「手分けしますか?」

「ユウトなら上手くやるだろうし、そっちの方がいい。殺したら死体を収納してくれ」

「女性は?」

「元の場所に戻ってもらった方がいいな」


 俺は首肯する。ジャックが密かに連れ出したのなら、口止めして元の場所に返せば問題ない。

 カイと分かれて俺は廊下を進む。大きい館で部屋はいくつもある。中からは談笑の声がよく聞こえてくる。

 女性たちは慰み物か? それとも奴隷として売ったりするんだろうか。

 どうであれ本当にロクでもない奴らだよな。

 俺は最奥のドアに耳を当てる。中から男の声が聞こえる。


「へへ、ゆっくりだ。もったいぶるように、娼婦みたいに脱いでいけ」


 村の娘に、自分で衣類を脱がせているのかね。会話だけでも大体中が想像できる。

 俺は一応、ノックをしておく。


「ちっ、誰だ?」

「俺だ、すぐ済むから開けるぞ」


 断ってから俺は中に入り、ドアを閉める。

 中には椅子に座った小男がいて、ベッドの前に下着姿の少女がいる。多分、まだ十代だな。


「デイブスかよ。なんの用だ? 見ての通りおれは今、お楽しみ中だ」

「頭に隠れてか?」

「う……言ったのかよ?」


 まさか、と俺は顔を左右に振る。ジャックが安堵の表情を浮かべる。

 やっぱり、こっそり連れ出してたみたいだな。


「すまんが気配察知を使って欲しい。見張りをしてた際、妙な気配を感じてな」

「獣じゃねえの」

「とは思うんだが……念のためだよ。ほら、万が一人間だった場合、俺もお前もドヤされるかもしれない」


 頭の人物像は知らないが、ジャックはしょっちゅう怒られてるようだしな。

 案の定、渋い顔をして了承した。


「しゃあねえ。館の近くに、妙な奴がいないか調べてやんよ」

「悪いな」


 ジャックは目を閉じて意識を集中させた。ので、俺は背後に回ってナイフを首元に当てる。


「見張り以外に怪しい奴はいなう゛ぇ――!?」


 首元をかっ裂かれたジャックが床に倒れる。

「怪しい奴ならいるよ、ここにな」


 目を丸くして、今にも叫び出しそうな少女の元に俺は走り、口元を手で押さえた。

 大声出されちゃまずいんだよね。


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