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29話 盗賊退治2

 隠密1があるとはいえ、今の状態で中に入るのは少しリスクがある。そこで俺は決めた。フリーPを使用して隠密を取り直すと。

 カイは隠密6だというので、俺も同じのを取り直す。

 必要Pは3000。残りPは5000以上あるので余裕だ。


「特殊な方法で、隠密6を覚えました。俺も隠密行動に参加していいでしょうか?」


 変装の杖を使えば、二人で行動しても問題ないはず。というか、協力もできるし成功しやすい。


「ど、どんな仕組みなんだ!? ……いや、ここは訊かないのがマナーか。普通なら信じないが、あんたはコンテストの優勝者だし、他にも色々聞いている。最速でランクアップしたことや、悪魔からテッドさんを救ったことだ」


 マスターが気を回して伝えてくれたんだろう。

 ただのDランクじゃ舐められるから、ありがたい。

 俺の提案は満場一致で賛成。二人で山に入ることになった。

 麓に着くと、少しドキドキする。隠密6があっても、相手の気配察知が7や8なら多分バレる。

 まあ、そこまでの奴が盗賊やってるとは思えないけどさ。


「モンキーが自然と去るのは待てないんですか?」

「奴は二、三日同じ場所に留まることがある。メシの隙をついてオレだけ通過することはできるだろう。だが」

「あぁ、そうですね」

「さすが、期待のルーキーは察しがいいな」

「いえいえ」


 簡単なことだよ。カイが暗殺に成功して戻ってきたら次はみんなでアジトに乗り込む。

 その道中でアシッドモンキーに遭遇、体力を削られる可能性が高い。


「強い酸をまき散らすから、大人数だと怪我人が続出する。それは痛手だろ? なら少人数で奇襲を仕掛けて始末した方がいい」

「俺もそう思います」 


 やっぱAランクパーティともなると、なにが一番依頼成功に繋がるか考えて行動するんだな。俺も学ぶところは沢山あるぞ。


「見ろ、あそこだ」


 山を少し登ったところに開けたところがある。草は禿げており、周りを木々に囲まれた場所だ。

 そこの中央で寝そべっている大猿の魔物。

 体格は二メートルで見た目はオラウータンそっくりだ。

 全身が茶色の毛に覆われており、口元はもっこりと膨らんでいる。


「グゴォー、グゴォー」 


 こっちまでいびきが聞こえる。油断しまくりだなおい。 

「見ての通りのんびり屋だが、頭は回るし一旦戦闘に入るとかなり強い。ユウト、油断するなよ」

「酸を吐く以外に、どんな攻撃してきます?」

「木々を上手く利用する。周囲の木々が乱立してるところに出られると厄介だぞ」

「では次に、カイの能力を話せる範囲で教えてもらえますか」

「当然の質問だよな」


 こっちは全部話している。フェアじゃない――という話じゃない。単純に知りたいんだよね。暗殺が得意な人って、通常の戦闘は少し苦手なイメージがあるから。


「オレは収納からナイフや斧を出して闘う。魔法は毒系で、水を毒液に変える。毒性は大したことないが、目などに入りゃ相当苦しむ。飲ませれば大体死ぬな」

「この状況にも良いですね」


 アシッドモンキーは大の字で熟睡中。しかも口を開けている。起こさずにあそこに毒液を入れられれば、楽に勝てそうなんだがね。


「オレがいくことに問題はない。ただし失敗した時が問題だな……」

「その時は挟み込むようにして戦闘しましょう。俺が魔法を積極的に使って注意をひきます」

「助かる」


 カイは忍び足でアシッドモンキーに近づいていく。起きる気配はまったくないな。どんだけ呑気なんだか。

 彼は顔の近くまでバレずに接近した。予め作ってあったのか瓢箪を取り出して口の中に注ぎ込――めない!

 パチリと目を開けてしまったのだ。


「フキィイイイ!」


 甲高い声が山に響く。やべえっ、毒液は体にはかかったっぽいけど、口には入っていない。

 アシッドモンキーは大口を開け、すぐに透明の液体をカイに対して吐き出す。


「ちくしょうおお!?」


 悔しがりながらカイがダイブする。ビシャッ! 液体は地面と、カイのズボンにかかった。服は破けたが、すぐに立ち上がったので重傷ではないな。けどヤバい。

 モンキーの手がカイに伸びている。


「逃げてくださいっ」

「くっ」

「ウキィ!」


 腕を掴まれ、そのまま木々の方に投げ飛ばされた。

 もちろん、俺だって指くわえて見てたわけじゃない。すでに動き出している。

 モンキー、興奮しすぎだろ。俺なんて眼中にないとカイを追いかけていく。それを俺がさらに追う。


「がら空きだ」


 俺は火矢を撃つ。毛は長い。引火すりゃ火だるまになるだろう。

 うわ、当たらない……。気配を感じたのか、跳躍して木の枝にぶら下がりやがったぞ。


「……ウッキィ」


 鳴き声は可愛いんだけどね……。顔にしわを寄せ、俺を睨んでくる。不動明王みたいに険しくて、ぶっちゃけ俺は怖いよ。


「でも倒すしかない。いくぞ」


 自分の言葉で自分に気合いを入れ、俺は戦闘に入る。

 まず収納でナイフを出して投擲。アシッドモンキーはこれを指で挟んでキャッチした。

 大道芸人かっての。俺は負けじと火矢を撃つ。

 炎は怖いらしく、やはり受け止めない。枝から手を離して地上に降りたな。

 体勢を立て直したカイが斧を手にして、背後から攻める。狙い通り、挟み撃ちの形にはなっている。いいぞ。


「猿の分際で、人間に逆らうなよっ」

「ウキィイイッ」


 カイは片手で斧を振り上げる。アシッドモンキーは拳を振り払う。どちらが速いか!? ……待った、カイはなぜ左手に毒液入りの容器を手にしてる?


「ぐはっ」


 リーチに勝るモンキーの拳がカイの脇腹に入る。彼は吹き飛ばされながらも容器の中身を敵の顔にぶっ掛ける。

 叫び声を上げながら、片目を押さえるモンキー。

 好機でしかないな。俺は火矢を再度撃った。

 三度目の正直で、今度こそ命中する。全身が燃え上がると暴れていたが、予想以上に速く倒れて動かなくなった。

 やっぱ火が弱点だったのな。


「骨は平気ですか?」


 カイに駆け寄り、俺は声をかける。


「へっ、やってくれると信じて良かった」


 一応笑顔は浮かべるが、冷や汗が流れている。俺も治癒院で色んな患者を診てるからわかる。こりゃ相当痛いに違いない。


「最後、攻撃する気はなかったですね? 毒液をかけることに集中していたように見えました」

「賭けたのさ。戦闘始まってからのユウトの動き、冷静さはDランクのそれじゃねえ。最も勝率が高いのは、オレがモンキーに一瞬の隙を作ること。そう判断しただけさ」


 かっこいいな、この人。例え勝てるとしても、自分を犠牲にすることは普通の人はできない。俺だってそうだ。

 それを臆せず行うとは恐れ入る……。


「安心しな。骨は折れちゃいない。見かけによらず結構頑丈なタイプだ」

「でも、回復だけさせてください」


 俺はハイヒールを使う。強がりじゃなく、本当に折れてはいなそうだ。痛みは絶対あるだろうけど。

 一分も治療してあげると、カイの顔色がみるみる良くなった。


「もうすっかり正常だ。お前、本当万能なんだな。これが終わったらウチのパーティに入らないか?」

「光栄なお誘いですけど、もう仲間はいますし」

「だよなぁ。つか、従魔もコンテストで優勝するくらいだ。あんたと組んだら、相当に凄いんだろうよ」


 カイは二、三度その場でジャンプする。完全に治ったようだな。俺もモンキー倒したから600P入っている。

 すぐにアジト探しを再開する。

 騒ぎを聞きつけ、盗賊が下りてくることはない。ただし、アジト近くには絶対に見張りがいるはず。


「油断はするなよユウト。姿を見られるのは極力避ける」

「了解です」


 理想としては、見張りをバレずに倒したい。次に変装の杖でそいつらに成りすまし、アジトに侵入する。


「気配察知の使い手は、どうやって見つけます?」

「変装さえできれば、オレの話術でなんとかする」

「頼りにしてます」


 カイは慣れているだろうし、そこは任せよう。

 それにしてもドキドキしてきた……。

 万が一、偽物だとバレたらタコ殴りからの死亡もありえるし。やめよ。悪い方に考えず、ギンローみたいにポジティブシンキングでいく!


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