28話 盗賊退治1
朝にギルドからの遣いがきた。ギルドに行ったら人が集まっていた。
彼らは俺を見るなり、興味深そうに眺めてくる。
「昨日の優勝者じゃねえか」
「あの従魔、凄いんだよな」
「使える従魔なのは違いない」
やはりコンテストは有名らしく、冒険者も注目していたらしい。
俺はちょい照れくさかったけど、ギンローが堂々としてるなぁ。見習おう。
さて、奥にいた三十前後の艶やかな女性に笑顔で手招きされたんだが。
「おはよう。アタシがギルドマスターだよ」
「あ……初めまして。ユウトと申します」
「意外って顔してるねえ?」
「いえ。ただ、こんなにお若くてもマスターになれるものなんですね」
正直な気持ちを告げる。なぜか場がドッと湧いた。
「いやー嬉しいねえ! 半分の歳で見られるなんてさ」
「……六十前後、なのですか?」
大人の女性に年を訊くのはどうかと思うが、今回ばかりは我慢できない。彼女はニコニコ顔で首肯した。
「言っておくけど魔道具や特殊な道具は使ってないよ。天然もんさ」
「あとで、美容法法を教えていただけませんか!?」
堪えきらないといった様子でソフィアが言うと、マスターのご機嫌がさらに良くなった。
「あんたらとはもっと話したいけど、そろそろ本題に入ろうか。フィラセムから優秀なパーティが二組も来てくれた」
マスターの視線で、影の足音がどの人たちかわかった。男女二人ずつの四人組だろう。強者の雰囲気が漂ってるな。
マスターは俺たちに敬意を払いつつ、盗賊退治の作戦会議を始める。
「奴らは三十人ほどで、ピロネ山を拠点にしている。度々村や町を襲うね。大した奴らじゃないが厄介なのが二人いる。まず一人目、気配察知スキルに長けたやつさ。こいつのせいで奇襲は全部無効になる」
俺もそのスキルはあるが、まだ2だ。そいつは相当な熟練者なんだろうな。
「そこで対抗するため、隠密スキルに長けた者を要請した。恥ずかしながらねえ」
ここで、金髪を上げた二十歳前後の男性が一歩前に出る。
「影の足音、リーダーのカイだ。オレは隠密行動……主に暗殺が得意だ。カイと呼び捨てで呼んでくれ」
クールキャラっぽく、見た目もかっこいい。能力も高そうだしモテそうだな。
仲間の二人の女性の目つきを見れば大体わかるよ。マスターが彼の肩をポンポン叩く。
「この彼に、変装の杖を貸し出す。まずは隠密で敵に接近、一人を暗殺。杖を使ってそいつの姿になりアジトに侵入して、気配察知の男を殺してもらうのさ」
なるほどね、それなら奇襲も有効となる。
「で、ヤバい奴二人目。盗賊の頭でギャラガーという。こいつは単純に強い。国から懸賞金二千万かけれているほどさ。おまけに虎と蛇が融合したような従魔がいる。ウチの冒険者が何人も殺られてる」
頭は槍を使う。その程度の情報しかないんだとか。対峙した人は殺されるってことだね。おー怖い。
「恥ずかしい話だけど、ウチはここ数年不作でねえ……。現在Aランク以上の冒険者がいないのさ。戦力に不安があるからユウトたちに来てもらった」
めちゃくちゃ期待されてるようで、プレッシャーを感じるな。期待に応えるような働きをしたいもんだ。
人数が多すぎると連携が取れないため、今回は四十人で作戦を実行する。
「ウチの冒険者たちは準備を終えてる。フィラセムの二組の準備を待って、出発さ」
「オレたちは準備完了している」
「俺も問題ありません」
カイと俺が順に答える。そこでマスターが選んだ冒険者たちと早速出発することに決まった。
◇ ◆ ◇
半日ほどでピロネ山近くまで移動する。やはり冒険者の足は速い。一般的な日本人よりはずっと速度があるな。
山に入ると気配察知される可能性があるので、一度近くの林に身を潜める。カイが、みんなに告げる。
「ここからはオレの仕事だな。なるべく早く気配察知の奴を潰してくる」
まだ日が暮れるには時間がある。山も大きくはなくアジトまではそう時間がかからないはず。
カイを見送った後、俺たちは腹ごしらえをしておく。
『トウゾク、ワルイヒト?』
「そうだよ。ギンローも頑張ろうな」
『イッパイタオス!』
「よしよし、この干し肉も食べていいぞ」
『オイシーッ』
なんでも美味しく食べる人やペットっていいよな。異性なんかでも、そういう子はデートしていて楽しい。
ソフィアも貴族の出とは思えないくらい何でも美味しく食べてくれるな。
「先生にはギンローがいますけど、あちらの頭も従魔いるんですよね」
「マスターが言ってたな。虎と蛇だっけ。あんまり想像はしたくないが」
「そうですねー。私、蛇とかあんまり好きじゃなくて」
『マカセロッ。ヘビナンテ、ヘッチャラ、ヤデ?』
「きゃ~~ありがと~~!」
ソフィアに頭をサワサワ撫でられ、ギンローは気持ちよさそうに目を細める。
ギンローもお返しとばかりに前足でソフィアを撫でる。箇所は頭じゃなくて、胸だけど!
「やだもう~。女の人のそこは触っちゃダメなんですよ」
『ナンデ?』
「なんでって……。とにかく、そこで遊んじゃダメなんです」
『ソフィア、ダイジナノ、カクシテル? ホカノヒトヨリ、デカイネ? オカネイッパイ?』
「……お金は入ってません」
俺は笑いを堪え、なにも聞いてないフリをする。ギンローのバカ、俺を笑わせないでくれよ。
ソフィアとのジャレ合い眺め和んでいると、イレギュラーな事態が……。まだ出発して一時間ほどなのにカイが戻ってきたのだ。
「カイさん、なにか問題ですか?」
「……ユウトだったな。お前、腕は立つのか?」
突然なんなんだ? 気にはなるけど、それなりの自信があると伝える。日本なら謙虚な姿勢を貫くかもしれないが、こっちだとただの自信のない雑魚と扱われることも多いしさ。さすがにそれはイラッとくるのよ。
「口頭でいい。どんなスキルがあるか言ってみてくれ」
「色々ありますが……」
今は仲間ということもあり、俺は順にスキルを伝えていく。十個目あたりで周りがザワつき出す。
最後まで言い切ると、驚愕の視線が四方八方から注がれてしまったな。
「お、お前、それマジなのか?」
「俺はスキルを覚えやすい体質みたいで」
「そんな奴初めて見たんだが……。今のが本当なら戦力としては十分だ、ついてきてくれ。厄介な魔物がいて、道がどうしても通れない」
「俺一人だけ、ですか?」
「大人数だと、気配を悟られたらまずい。一人なら悟られても道に迷い込んだ冒険者と解釈してくれるかもしれない」
つまり俺の役目は魔物を倒して早々にここに戻る、と。
「それに隠密1があるんだろ? アンタが適任だ」
「そうですね」
「チョット待ってよカイ!」
まとまりかけた話に割り込んできたのは、影の足音の他のメンバーだ。
「なんで彼なの? あたしたちの誰かじゃいけないの?」
もっともな疑問だろう。彼女たちからすれば、ポッと出の俺を選ばれたら立つ瀬がない。
だがカイはブレずに言い切る。
「お前たちではダメだ。居座ってる魔物は、アシッドモンキーだからな」
「ゲ……」
三人の顔が青ざめる。その理由は、カイが説明してくれた。
「酸を吐く大猿なんだが、オレたちは過去に強個体に遭遇して逃走している。死にかけて以来、苦手意識があってな」
相性が悪い相手ってことか。メンバーが大人しくなったし、相当苦手っぽいね。
カイは、他の冒険者たちに許可を取り、改めて俺を誘ってきた。
「……一つ、教えてください。例えばですが、変装の杖を俺にもかけることは可能ですか?」
「変装は一回六時間で、あと三回は使えるとマスターは言っていたぞ」
なぜそんなことを訊く? そんな空気が流れる中、俺はあることを決断した。




