26話 アニラス到着
午前中に、隣町のアニラスに到着した。
規模はフィラセムより小さいくらいかな。
活気があって男性も女性もシャレた服装の人が多い印象だ。
まず宿を確保しておく。御者は俺の仕事が終わるまでこちらに留まるので帰りの心配もない。
ちなみにコンテストは二日後に行われるのだとか。平民も期待しているイベントのようだ。
昼頃にご飯を食べて、まずは冒険者ギルドに顔出しをする。
中に入ったところ、みんなが俺たちに注目していた。特にギンローだな。
(シルバーウルフか?)
(ただの犬や狼ってわけじゃなさそうだ)
(ランクAの魔物を従魔にするか……)
(相当な使い手だろうな)
聴力スキルがある俺にはヒソヒソ話の内容が普通に聞こえてしまう。
従魔コンテストが開催されるだけあって、この町の人は魔物への意識が高いのかも。
受付嬢に声をかけ、フィラセムから来たことを告げる。
「要請を受けていただき、感謝いたします。二組の方がいらっしゃるとお聞きしておりますが……」
「Dランクのユウトと申します。Aランクの影の足音は後ほど来るかと思います」
「畏まりました。数日以内に、こちらから遣いの者を送り、作戦会議の日程をお知らせします」
「二日後に従魔コンテストに参加します。その後で可能でしょうか?」
「はい、こちらもコンテスト中に行うことはしません」
聞いていたとおりなので安心した。他の冒険者にも軽く会釈をして外に出る。
「次はコンテストに向けて、ギンローをかっこよくしましょうね」
ソフィアがノリノリで、俺たちを道具屋に案内してくれる。道具屋といっても従魔関連の物を主に取り扱うところだ。
狭い店内には、ブラシやら魔物のエサらしき物が大量に置かれている。
「……シルバーウルフかい?」
恰幅の良い店主が眉根を上げ、尋ねてくる。
俺が首肯すると、ギンローに近づいて拳を鼻の前に持っていく。
犬に匂い確認させるのと一緒だな。
ギンローが少し困惑し、俺を見上げる。まあ、初めてされるもんな。
「大丈夫、この店の主人だよ」
『ジャア、ナメトクカナ』
そう言って、ペロペロと拳を舐めるから俺とソフィアは吹き出しそうになる。
なんだよ、そのご機嫌取っておくか的なやつはっ。俺たちとは違って、店主は面食らっていた。
「し、喋るだって……!」
「ええと、賢くて、言語を覚えるです」
「そういう個体もいるとは聞くが……こんな話し方をするタイプは初めてだよ。生後どのくらいなんだい?」
まだ生まれて日が浅いんですとは言いにくい。ここは適当にボカしておいた。
店主は過去にシルバーウルフを目にしたことがあると話してくれた。
「かなり個体差が激しい魔物でね。能力よりも性格が複雑なんだ。こんなに穏やかで主人を見るタイプは初めてだ。超アタリの個体だよ」
「それは、とてもよく感じます」
「……実はマーナガルムなんじゃ……まさかな……」
一人で悩み出した店主に、ソフィアがブラシなどがないかと尋ねる。
そこは商売人だね。すぐに顔つきを変えていくつか持ってきてくれた。
コスパ良さそうなのを購入しておこう。
「もしかして、コンテストに出るのかい?」
「はい、考えています」
「そうした方がいい! あんたの従魔ならいいところまでいく。さすがに優勝は……難しいかもしれないが」
詳しく訊くと、優勝候補がいるようで。
なんと五年連続で優勝してるというから凄い。参加者たちは、彼に勝つことが目的になっているのだとか。
「ヨルハという貴族の方だよ。ハンサムで女性のファンも多い」
「従魔はなにですか?」
「ユニコーンだ」
一角獣と呼ばれる馬の魔物だな。
店主が言うには、美しくて強い上、非常に賢いんだってさ。ギンローより頭の良い魔物がいるとは考えにくいけれど。
ちなみに優勝賞金は一千万ギラと風神の指輪。後者は指に嵌めれば風を操る力を得る。
「今回は当たりだと思うね。準優勝でも三百万ギラは出るようだし、頑張ってくれよ」
やるからには優勝したいけどね。
宿に戻ってからギンローをブラッシングしてあげた。普段から毛並みは綺麗だったが、それに拍車がかかった。
「いいな。お前は強いし、頭もいい。まだ子供だけど、見た目だってかっこいい。俺はいけると思うよ」
『スピー、ズピィ……』
寝てるじゃねーか!
ソフィアに膝枕してもらってたので、気持ちよすぎたのかもしれない。
「うふふ、新しい町で疲れちゃったんでしょうか」
「そういうタイプじゃないと思うけど、決めつけは良くないか……」
元気でもまだ幼いことに変わりはない。
◇ ◆ ◇
コンテストの当日、俺たちはコンテストの会場にいた。
上空には抜けるような青い空が広がっており、最高の天気といっていいだろう。
会場は町で一番の広場で、すでに参加者と従魔が集まっている。多くの観客が少し離れた位置で見守っている形だ。
主催者である有力貴族のおじさんが、大会の意義や趣旨を説明する。
アニラスは町おこしをした人物が優秀な従魔使いだったこともあり、長らく従魔と生きてきた歴史があるらしい。
コンテストは、その歴史を忘れず、さらに従魔の素晴らしさを再認識するという意味がある。
「まあ固い話はここまでにして、本題に入ろう」
今回の参加者は七名。審査員は主催者の他、四人いて一人の持ち点は二十点。
簡易なステージがあるのでそこに従魔と上がる。まず毛並みや外見などの美を審査され、次に賢さだ。主人がなにか命令を出す。
内容はなんでも良い。
ここで五人が落選する。最後は上位二名の従魔が一騎打ちをして、優勝者が決定。
美と賢さで勝てなければ、強さは審査すらできないってわけだ。結構厳しいね。俺は六番だったのでラッキーだな。
他の人のアピールを観察できるし。
最初の人の従魔は、ウイングキャットという翼の生えた猫だ。愛くるしい姿をしており、主人が飛んで見せろと命令すると即座に従っていた。
審査員の点数は、意外にも六十五点だった。
目が肥えてるのかやはりシビアだな……。
二人目、三人目とテンポ良く進んでいく。コンテストに出るだけあって従魔は美しく賢いのだが、五人目までで最高は七十二点だ。
これを超えれば、俺は決勝に進める。
ちなみに、後ろはユニコーンを従えるヨルハさん。
四十歳くらいのダンディで気品ある人だね。
「では六番。ユウト、ギンロー」
少し緊張しながら、俺はギンローとステージに上がる。
「先生、ギンロー! ばっちり決まってますよ~」
観客の中から聞こえてくるソフィアの声に癒やされる。おかげで緊張も解けたよ。
「ギンロー、まずは正面向いたままだ。少ししたら横を向いて、遠吠えをするような動作をしてくれ」
個人的に狼の遠吠えがするフォルムってかなりかっこいいと感じている。
素直に従ってくれたおかげで、観客が盛り上がる。審査員は相変わらず厳しい目つきだけどな!
続いて、賢さアピールに入る。
俺は無理に話さず、ここはギンローに自己紹介させる。
『ボクハ、ギンローデス。ホンジツハ、オアツマリイタダキ、マコトニアリガトウゴザイマスッ』
打ち合わせ通り、上手くやってくれるね。しかもハキハキと元気も良い。
「エェー、凄くないかあの従魔!?」
「可愛い~ッ。ちゃんと挨拶する従魔なんて初めてかも!」
観客たちから感嘆の声が漏れる。審査員も身を乗り出すようにしている人がいるので、感触はだいぶ良い。
いいぞ、このまま続けてくれ。
『ボク、サイキンオモイマス。オハヨ~ハ、アサ。コンニチハ~ハ、ヒル。デモチュウトハンパ、ソンナジカンアリマスネ?』
午前中の中途半端な時間帯のことだな。
『ソウイウトキ、コウイイマス。オハニチワ~!』
「がははははっ」
「ギンローちゃん可愛いすぎるぅぅぅ」
大笑いする人、ギンローの愛らしさにやられてしまった人たちが続出だ。
アピールタイムはここで終わったけど、十分じゃないかな。
審査員たちの話し合いがまとまったようだ。主催者が代表で合計点を口にする。
「六番ギンロー、九十六点!」
よっしゃ、これで決勝進出が確定したな!




