表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/70

23話 ギンロー、火を吹く

 昨日は無事悪魔も倒したことだし、今日はギンローと一緒に行動することにした。

 ただ、一応ギルドに顔を出さなきゃいけないので、朝食後に向かう。


『ユウトー、キノウ、ナニヤッテタ?』

「ソフィアと一緒に悪魔倒してたんだよ」

『アクマ?』

「すごく悪い奴らさ。今後、戦うこともあるかもしれない。そのときは頑張ろうな」

『オー!』

「わっ、馬鹿! 町中じゃダメだぞ!」


 興奮したギンローがフリーズブレスを吐いたのだ。人通りが少なかったので特に問題はなかったけど、ヒヤヒヤさせられる。氷属性だけに……。


 しかし、ギンローは氷属性以外にも適性があるんだろうか? 伝説級の魔物のようだし、俺がちゃんと育成してやりたいもんだ。

 ギルドに到着、中に入るなり、俺に賞賛の声が四方八方からかかる。


「先生、おはようございます。昨日はすごかったですね!」

「アニキー、大活躍だったみたいですね!」

「あんたがテッドを正気に戻してくれたんだな。ありがとよ」


 いえいえ大したことしていませんよ。そう告げると、みんなが「それはない!」とツッコんだ。

 日本人的謙遜なんだけど、こっちではあんまりやる人いないからな。

 奥にいるギルドマスターと話すと、まず相当な額の報奨金をいただく。日本での感覚なら五百万円相当になるだろう。


「領主様からだ」

「こんなにいただけるんですね」

「安いくらいだ。お前は悪魔に取り憑かれたテッドを助けたんだからな」

「……テッドさんは、どうなりそうですか?」


 マスターは腕を組み、少しの間黙った。

 状況は悪いのかな……と俺は残念に思ったが、その瞬間に彼は口元を緩ませた。

「ああ悪い、勘違いさせたな。そう悪くない結果になりそうだ。ただ本人が罪悪感に苦しんでいてな。そこが可哀想で。――それはそうと、そっちの従魔だが」


『ナンダー? ギンローニ、ヨウアル?』


 首をかしげるギンローを見て、マスターが目を眇める。


「まさかとは思うが、マーナガルムか?」


 ギグリ、と俺は効果音が出そうなほど焦る。それを目にしたマスターは手を伸ばして笑う。


「いやいいんだ。言いたくないならな。だが、仮にそうなら凄いことだ。マーナガルムはその辺の狼とは違う。昔、知り合いの従魔に聞いた話だと、体が熱くなるもん食べると炎を吐けるらしい」

「へぇ」

「上手く育てろよ。あと、少し休んだらまた依頼頼むぜ」

「はい」


 俺はそう返事し、ギルドのみんなと談笑する。

 数十分も話すと、それぞれ依頼に出て行ったので俺たちもギルドを後にした。


「体が熱くなる物ね……。熱々の鍋とか?」

『カライノハ?』

「あぁ、それもあるなぁ」

『タベタイナ~、タベテ、ミタイナ~』


 朝食から大して時間も経ってないというのに、さすがギンローだよ。

 要望に応えるため、町中を見て回る。

 露店には、なかなか辛さを売りにしているお店は少ない。

 そこで町に詳しそうな中年男性に聞いてみた。


「あそこの店、激辛あるぞ。食い切れたら無料になる」

「それは嬉しいですね!」

「ただし、食い切れなかったら倍の値段払わなきゃだけどな」


 日本でも、たまにそういうお店あるよな。

 制限時間以内に大盛りを食べるやつ。

 教えてもらったお店にギンローと入る。普通の定食屋で、まだ十時ということもあって空いている。

 白髪のまじった店長さんが言う。


「いらっしゃい。なに食べる?」

「激辛料理にチャレンジしたいのですが」

「……ほう。そんな優男みたいな顔して、ウチの店とやりあうと?」

「あ、俺じゃなくてこっちの従魔なんですが」

「魔物だって、うちの辛さは耐えられねえぞ。……まあいいさ、食えなかったら料金は倍だがいいか?」


 値段を確認すると、だいぶ高い。日本の感覚で言えば、一万円くらいになるんじゃないだろうか。

 食えなかったら、それが倍になる。

 とはいえ、ギンローへの投資だと考えればなにも痛くはないさ。俺は迷いなく注文しようとして――別の客が入ってきた。


「オヤジ、いつもの激辛頼む。チャレンジじゃなく、普通に金を払う」

「おおアンタか、いつもありがとよ」


 店主と顔見知りらしい若い男が、真っ赤な毛をした狼の魔物と一緒に入ってきた。

 従魔なのだろうけど、毛が赤いのは珍しいな。彼はギンローを見るなり、俺に話しかけてくる。


「シルバーウルフか?」

「そんなところですね」

「オレの従魔もウルフ系だ。仲良くしたいところだが……」

『グゥゥ、グゥウウウ』


 レッドウルフは、ギンローをめちゃくちゃ威嚇している。魔物の中でも近い存在なはずなんだけどな。店主が思い出したように話す。


「そうそう、このお客さんの従魔が激辛にチャレンジするんだよ。あんたのレッドウルフと似てるのかもな」

『キミモ、カライノ、クウ?』


 ギンローがレッドウルフに訊くが、相手は唸るばかりだ。おそらく言語を話せないのだろう。それは男の反応からもわかる。


「は、話せるのか……。まだ小さいように思えるが」

「なかなか賢い魔物なんですよ」


 この言葉が、よろしくなかった。男の闘争心に火がついたようで、いきなり勝負を申し込んできたのだ。


「オレの魔物も辛いものが好きでな。ここのチャレンジをクリアしすぎて、今では無料じゃ食えなくなったほどさ」


 ああ、だからさっき金を払うって言ってたんだ。


「お前の従魔とオレの従魔。早食い勝負させてみないか?」

「でもギンローは、今日が初めてですし」

『ダイジョウブダヨー。ハヤク、タベル。ギンローノ、カチ。デショ?』

「従魔は勇気があるようだ。どうする主人?」


 ギンローも乗り気だし、ここは挑発に乗ってみるのも悪くないか。

 負けたからって特に罰はないみたいなので、勝負を引き受けると、主人が料理を作りに取りかかる。

 待っている間、俺は彼に従魔自慢をされる。レッドウルフは熱に強く、炎の中でも長く耐えられるのだとか。

 毛なども燃えにくい上、火を吐くことも可能だと。そこは羨ましい。


「おまたせい!」


 店主が深い器に入れて持ってきた料理は、見るだけで胃が痛くなりそうなものだった。

 スープの中に肉や野菜が多く入っているのだが、そのスープが真っ赤なのだ。

 超激辛ラーメンの麺抜きを想像してもらえばいい。ついでに唐辛子が何個も浮いてるっていうね……。

 湯気も立っており、俺なら一口で舌がやられそうだ。


「ふふ、ビビったようだな。これを早く食い切った方が勝ちだ」

「いや、さすがにこれは……」

「逃げるのか?」

『ニゲネーヨ! ギンロー、ユウトハ、イツモカツ』


 俺の代わりに啖呵切ってくれたのは嬉しいけど、本当に大丈夫だろうか。

 俺の心配をよそに、店主が合図を出してしまう。


「さあ、頑張って食ってくれ!」


 ギンローとレッドウルフが同時に器に顔を近づけ、舌を使って熱々スープを舐める。


『ヒッ!?』


 予想以上の辛さだったのか、ギンローの背中の毛が逆立つ。


「無理するなよ。ギブアップしたっていいんだからな」

『ダ、ダイジョウブ。チョット、オドロイタダケ』


 レッドウルフに負けないよう、ペロペロと頑張るギンローが心配だ。一方、あちらは慣れてるだけあってハイペース。

 ……勝負は負けかな。

 だが、ギンローの体が一番大事だ。いくら成長が早いとはいえ、まだ生まれて間もない。無理だけはさせたくない。


「ん?」「あん?」「お?」


 俺、男、店主が間の抜けた声を出すのは、ギンローのペースが徐々に上がっていくからだ。


『カライ。デモウマーイ!』


 ハイテンションで、レッドウルフを圧倒する速度を出す。しかも舐めるのはまどろっこしいとばかりにスープに鼻をツッコむ。

 ガブガブと野菜や肉を食べる。


『ウッ。ユウトォ……シニソウ』

「そりゃそうだって! 無理しなくて――」

『ナホド、ウマイデス!』


 辛いのなんてへっちゃらだい、とばかりに肉も野菜もスープも食べ尽くすギンロー。

 結局、俺の心配をよそに圧勝してしまう。


「なん、なの、お前の従魔?」

『クゥゥン……クゥン……』


 男が驚愕して、レッドウルフが子犬のように鳴く。


「ええと、これが、ギンローっていう生き物です」

『オイシカッタ!』


 ギンローの中では途中から勝負なんてどうでも良くなってたんだろうね。

 食べきったということで、料金はタダになった。

 店を出て歩いていると、ギンローの様子が変だと気づく。咳をしているんだ。

「やっぱ一気に食い過ぎたんじゃないか。ヒールかけてみようか?」


『ウゥン……ナンカ、デソウ』

「出そう?」

『フイテ、イイ?』

「あっ! やるなら上向いてなっ」


 もしや、と感じた俺は咄嗟にギンローの顔を空に向けた。

 ――ボォオオオオ!

 勢いの激しい炎がギンローの口から吐かれる。俺は肌に熱を感じながら、ギルドマスターの話は真実だったのだと思った。


『ヒ、ハケターッ』

「本当に便利な体してるな、お前は」

『マタ、アレタベタイ!』

「わかったよ、定期的に食べようか」


 次からは有料だろうけど、お腹いっぱい食べさせてあげよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ