22話 英雄への道
目玉の悪魔の声は、やたら甲高くてとても脅しに使えるようなものじゃない。
実際、驚くほど迫力がなかった。
「お前が悪魔の正体か。拍子抜けだな」
「なんだと……人間、こうなったことを絶対後悔することになるぞ。ベルゼガス様の恐ろしさを、思い知ることになる」
人間の中に隠れ、コソコソ活動していたこの悪魔。戦闘に自信はないのか、偉そうなことを言いつつ俺からどんどん離れようとする。
「逃がすかっての」
俺はナイフを収納スキルで手に出すと、投擲する。
「グエッ」
目玉の裏側にあっけなく刺さると、悪魔は墜落する。
地面でバタバタと見苦しく動き回るので、俺は足で踏みつける。
「いだい、いだい、だずけて」
「いやいや、さっきまでの威勢はどうしたんだよ。ベルゼガスがどうたら言ってたじゃないか」
「ずみまぜんゆるしてたすけて」
態度の変化が激しすぎだろ。でも悪いことばかりじゃない。
どうせなら、こいつのボスについて得ておいた方がいい。
「剣をその目玉に刺されたくないよな? だったらベルゼガスについて詳しく教えた方がいいぞ」
「…………」
「それが答えだな」
「まっで! はなずー、全部はなずから」
変わり身、というより裏切りが早すぎる。さすが悪魔、死んでも仲良くなりたくないね。その辺の魔物よりずっとタチが悪い。
目玉悪魔は、生きたい一心でペラペラと喋り出す。
「ベルゼガス様、いま、トラジストの町いる」
「なんのためだ?」
「人に取り憑くため……」
「取り憑く理由を教えろ。ベルゼガスも結局、単独では戦えないからそうするのか?」
悪魔八獄なんて大層な呼ばれ方をしているのに、それが不思議だったのだ。
「ちがう。おれはそうだが、ベルゼガス様は強いやつに、取り憑いて悪さ働く。そんで、取り憑いた相手の力を吸い取る」
つまり本体も強いけれど、より強くなるために人間に取り憑くのか。それを繰り返して、トップクラスの悪魔になったのかもな。
結構厄介そうな相手だ。
「知ってること、全部話した。離して」
「ん、そうだな」
俺は踏んづけていた足を上げる。
解放された目玉はフラフラしながらも飛び上がる。
目線くらいの高さまで上がったところで、俺は火矢を撃つ。
「あづづづづうううううう!?」
燃えて、再び地面に落ちる。
炎に包まれながら、怨念たっぷりの目で睨んでくる。
「うぞづぎっ。うぞづぎ……」
「嘘はついてないぞ。俺は剣で刺さないっていっただけだ」
「ひぎょぅ……ずるい……」
「お前がそれを言うのかよ。悪魔相手に卑怯もクソもないんだよ」
少なくとも、こいつのせいでテッドの人生は狂わされた。殺人事件に巻き込まれた人々もだ。
俺は焦げた悪魔を踏み、死んだことを確認する。
ソフィアや冒険者たちがこちらにやってくる。
「お見事でした! 向かうところ敵なしとは先生のことですね!」
「言い過ぎだよ。こいつが弱かっただけさ」
「ご謙遜を。先生はやっぱり、常人とは違うなにかがあると思います」
「オレらもそう思うぜ。あんたは回復魔法も凄いし。才能の塊だ」
「もう、動いて大丈夫なんですか?」
冒険者たちは皮膚を見せ、傷はすっかり癒えたと笑顔を作る。
治癒院に来る人たちより、回復力が高いな。
やはり普段から鍛えている人々は体が丈夫なんだろう。
ここで、ゾロゾロと壁のない室内に入ってきた人々がいる。
ギルドメンバー、そしてマスターもいる。
「こいつは……テッド? おい大丈夫か」
マスターは倒れているテッドに声をかけ、目を覚まさせる。
「おれは、一体」
「お前な……お前は、悪魔に取り憑かれちまってたんだよ」
「……え?」
テッドは顔面蒼白になる。記憶がないんだろうな。
マスターが事情を説明すると、全身を震え出させた。
正直、気の毒でしょうがない。
すっかり落ち込んだ彼だが、俺の元まで気力を振り絞って近づいてくる。
「あんたが、助けてくれたんだな。本当に、本当に感謝するよ」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「当然のこと、か。あんたと一緒のギルドに所属できて、本当に良かったよ」
彼は、俺の手を握って最後にもう一度礼を言うと、マスターに連れられて廃屋を出て行った。
ソフィアが悲しそうに話す。
「これから裁判にかけられるんです。悪魔憑きの場合、とても判定が難しいのですけど、有罪になることもあります」
そうしないと、被害者の家族などの心に折り合いがつかないこともあると。
今回のケースはどうなるのだろう。
個人的には、彼には冒険者として活躍して欲しいな。
「悪いのはテッドじゃない。悪魔だな」
「仰るとおりです。私も、先生のように強くなりたいです。いえ、なります」
「一緒に頑張ろう」
「はいっ」
しかし、ベルゼガスか。悪魔は魔物より厄介そうで困るな。
……おっと、ここで俺はふと思う。
悪魔はどの程度フリーPが入るのだろう――1200Pだと!?
今までで一番のポイントに少々驚く。
目玉悪魔自体は、あんなに雑魚だったのに。
ってことは、もっと強い悪魔……それこそベルゼガスなんて倒したら大量のPが入るのかもしれないな。
今すぐ倒しに行く気はないけど、悪魔は積極的に狩るのもありだろう。
今日は解散ということで、俺は宿に戻った。
出迎えてくれたのは、ギンローだった。
「おお、戻ってきてたんだな」
『ユウトー、ミテミテー』
「えええええっ!?」
よく見たら、一階の食事場所に猪の魔物が五体ほどいるじゃないか。
普通の猪よりずっとデカく、凶暴なのに……。
自分の食料は、自分で狩りたかったのかな。
「この数、どうやって運んだ?」
『チマチマ、イッタイズツ、ハコンダ~』
「そりゃ大変だったなぁ。その場で食べても良かったんじゃないか」
『リョウリシテ、モライタカッタ。アト、ユウトー、タベロー?』
「あはは、俺にもおごってくれるのかよ。嬉しいな」
「ユウトさん、ギンロー、お料理は任せてくださいね」
アリナさんが、お父さんと協力して美味しい料理を作ってくれるようだ。
ただ、数が多い。
「良かったら、俺も手伝いますよ。それにこの数です、夕食のメニューにして、他のお客さんにも振る舞ってはどうです?」
「いいんですか?」
ギンローを確認すると、首をブンブンと縦に振る。仕草が愛らしいので頭を撫でる。
「ええ、ぜひ使ってください」
「だからユウトさん、大好きです!」
『ギンローモ! ユウトスキッ』
おっと、ダブルで好意を伝えられた。
俺は頭をかいて、照れているのを隠す。
他の手が空いている客も手伝ってくれたので、夕食までにちゃんと猪の料理が出来上がった。
普通の猪肉よりずっと美味しく、他の客も大いに喜んでくれた。
『スピー、スピピー……』
誰よりも肉を食べたギンローは、気分良さそうに眠りに落ちている。
「お疲れさん。明日は一緒に行動しような」
俺はギンローを抱っこして、部屋まで戻るのだった。




