2話 フリーPを稼ごう
フリー無双の主人公と同じ能力を使えるのはいいが、こちらの世界観は?
さすがに、ゲームそのままではないはず。
こんな森、俺は知らないしな。
異世界人を追い返した後、俺は森の中を慎重に歩いていた。
もし魔物がいるとして……強すぎないことを祈る。
あと、いきなり複数相手は絶対に避けたい。
木陰から木陰に移動していると、発見。
うわ……あれ魔物だよな?
不定形の泥水スライムっぽいのが、土の上を移動している。
でも弱そうだし、一度戦ってみようか。危なければ逃げりゃいいしな。
そっと近づき、背後?から炎を噴射する。
数秒で蒸発して、死亡した。
フリーP 5
こんなもんかー。ゲームでは最初の敵でも、もうちょっと貰えたものだが。
「現実は甘くないってことかな」
まだ日は持ちそうなので他にも探す。
同じ戦法で三体始末した。
魔法が強いので、案外安全だったりする。
そろそろ森を出るかって時に、遠くで短い悲鳴が聞こえる。
『キュウン……!』
犬?
俺は好奇心に勝てず、そちらに移動する。
二足歩行の猿人間っぽいのが、銀色の毛をした子犬? を仕留めようとしている。
魔物であろう猿は、鋭利な爪こそ発達しているが、身長は百五十センチもない。
子犬の方は出血してて、動けないようだ。
普通なら見過ごす。だが俺の手が震える。
「あの子……ムサシの子犬時代に似てるな……」
実家で飼っている犬だ。
毛の色と体格こそ違うが、目元なんかそっくり。
助けようか? 猿の魔物が強くなさそうだったので、俺は思いきって攻める。
まず火魔法を使った。
猿の毛に燃え移って、暴れ出す。地面に転がり火を消す知恵はあるらしい。
でも、俺の勝ちだ。動きが止まったところで、顔面に剣をぶっ刺して始末する。
「仲間は、いないな。……おっ、結構入るな!」
こいつ一体で、フリーPが30も入ったのだ。
起き上がろうとしては倒れている銀の毛並みの子犬に、俺は近寄る。
「もしかして、お前も魔物なのか?」
体長三十センチもない子犬は、俺の手をペロペロと舐めてくる。普通に可愛い。もう、魔物でも何でもいい……!
こちらも触れたところ、ビクッと過剰に反応した。
「そっか、痛いんだな」
俺がさっき覚えた回復魔法1では、ヒールという魔法を使える。
これは患部に手を当てると軽い傷や腫れなどを癒やすことができる。ゲームでも多様される魔法だ。
一分ほど回復すると、子犬の傷が治った。
浅かったのが幸いしたな。
『クゥー! クゥー!』
嬉しそうに走り回る姿が可愛すぎる。親はいないのかね。
子犬は元気になるなり、猿の死体を食べ始まった。犬ってより、狼系の魔物かもな。
「じゃあ、頑張って生きろよ」
手を振って別れる。
いつか、また生きて再会できることを祈るよ。
――テクテクテク!
あれ、元気に後ろ着いてくるんですけど……。
『イキ、ロヨ?』
「えっ。喋れるの!?」
『エ、シャベ?』
ああ、俺の物真似しているだけかい。でもこいつ、相当知能が高そうな雰囲気があるぞ。
「俺と来たいのか? 伝わる?」
ブンブンと大げさに首を縦に振る。
従魔5の力なのか、完全に懐かれてしまったようだね。
「……しょうがない」
雰囲気が子犬の頃のムサシに似てるのは卑怯だ。
こっちもオスだし。
さて、従魔にするなら名前が必要だ。
「銀犬でギンケーン、銀狼でギンロー。どっちがいい?」
『ギン……ギンギンッ!』
「それは大人の事情的にダメ!」
『……ギン……ロゥ?』
「オッケー、よろしくなギンロー」
『オオーン!』
普通に気に入ったみたいなので、これでいこう。
ギンローはすぐに食事に戻り、五分もしない内に猿の魔物を食い尽くした。
「お前、小さいのにめっちゃ食うな!」
『クォオー、クォー!』
「何だ?」
ギンローがついてこいと言いたげに小走りする。後を追う。百メートルも走ると、また猿の魔物がいた。
「お前まさか……食い足りないんか?」
そうなんです! とばかりに俺の足に頬擦りしてくるギンロー。将来は大食チャンピオンになるつもりかな?
ま、いいチャンスではある。実はさっきの戦闘で火魔法1が2に成長しているからだ。
「早い、早すぎる。さすがチートスキルと評判だった能力」
全スキル成長の効果だ。
ポイントの多くをつぎ込んだ甲斐があったよ。
スキルがレベルアップすると、魔法を一つまたは複数覚えることがある。覚えない時でも既存魔法の威力がアップする。
火魔法2では、爆炎矢だったな。
火の矢をイメージすると、ちゃんと顕現した。指を振って飛ばす。
猿の魔物が異変に気づいて振り向き――ドゴォォオォオォオォオォオ――触れた瞬間、頭が爆発した。
『オァアーッ!』
天国行きとなった魔物に、ギンローが我先にと駆け寄って食事を始める。
「どうだい、さすがに満足したろう?」
『……』
ギンローは鼻をクンクンして、また走り出す。
「うっそーん……」
全然足りてないらしい。俺はまた猿に誘導された。
せっかくなので、俺は別の魔法の試し撃ちも行う。
その後もギンローが中々満足してくれないので、沢山魔物を倒すハメに。
この森は、基本猿とスライムしかいないみたいだ。
慣れもあり、かなり楽に狩れるようになった。
やがて日が落ち、俺は予定を変更して野宿をする。
ギンローに言葉を教えると、真綿が水を吸うように覚えていく。
勉強が終わるとギンローは眠った。
翌朝、俺は異世界に来て一番驚く。
「ギ、ギ、ギンロー、お前デカくなってない!?」
体長が二十センチくらい伸びてるのだ。
『デカク、ナッタァッ』
「いやいや、たった一晩でデカくなりすぎ! そりゃいっぱい食ってたけどさ!」
『ゴメナサイ』
「あ、いや、全然いいんだけどさ。あとゴメンナサイ、ね」
『ゴメンナサイ。サル、タベタイ』
「また食うんかーい!」
ツッコミつつ、俺たちは再び猿の魔物を探しにいく。
順調に発見、退治を繰り返した。
しかし十体目で、異変が生じた。
剣で俺が戦っていた際、猿に隙ができた途端、ギンローが飛びかかって喉元を噛み切って倒したのだ。
「おー、やるなっ」
『ヤル!』
もしかすると、ギンローはとんでもない魔物だったりして。
魔物狩りを終え、森を出て街を目指した。
現在の俺の能力はこうなった。
フリーP:732
スキル:オゾン語7 身体能力2 拳術2 剣術2 槍術1 斧術1 鎚術1 弓術1 盾術1 火魔法3 水魔法2 風魔法2 土魔法2 雷魔法2 回復魔法2 物理耐性1 魔法耐性1 全状態異常耐性1 魔力調整2 魔力増量2 従魔6 全スキル成長10
いい感じだ。
堅牢な壁に囲まれた都市が見えてくると、ワクワク感に胸が弾む。ただ、魔法がある世界なら科学はあまり期待できないかなー。
「見ない格好だな。旅人かい?」
門兵に話しかけられ、俺は首肯する。
「そっちの銀狼は従魔?」
「はい。ここには一緒に観光に来ました」
「ようこそフィラセムへ。ただ、ちょっと後回しになる。貴族様だ」
後ろから馬車がやって来て門を通過しようとするのだ。
「えっ、あの魔物って……!? ああちょっと、ちょっと、止めてくださーーい!」
女性が声が響くなり、御者が馬を止めた。
馬車のドアが開いて、中から洋画でしかお目にかかれないような金髪碧眼の美少女が飛び出してきた。
「貴方、旅人ですかっ?」
「はい、そうですが」
興味の対象が俺だったことに焦る。キラキラの瞳に滑らかな白い肌をした美少女が、顔を近づけてくる。
「貴方の従魔ですよね?」
「そうです。ギンローと言います」
「間違ってたらごめんなさい。マーナガルムですね?」
わからないので言葉に詰まる。
助け船を出したのは意外にもギンローだった。
『ユウトノ、トモダチ?』
「きゃーっ、この賢さはやっぱりそうですよ! このサイズってことは、生まれたばかりですか?」
「ええと、実は昨日森で見つけたばかりで」
「そうでしたの。触らせていただけませんか?」
「どうぞ」
女性は愛おしそうにギンローを撫でる。
ギンローも特に反発しなくてホッとした。
「名乗り遅れました。アルライト家のソフィアと申します。十六歳です」
「ユウト・ダイモン、二十八歳です。ここには観光で訪れました」
「ユウトさん、貴族街に私の家があるので、ぜひギンローと一緒にお越しください!」
「――ソフィア」
ここで、もう一人お父さんらしき人が出てきて注意する。
「素性の知れない人を簡単に信用するな。その従魔もマーナガルムではなく、シルバーウルフだ。マーナガルムは最高ランクの魔物、そう簡単にいるはずがない」
「お父様っ、夢がありません」
「旅の人よ。もしその魔物が今月中に今の倍以上に大きくなったら、家に来ても構わない。だが、そうでないなら気安く訪ねないで欲しい。……行くぞ」
お父さんは警戒心が強いな。
だが、彼の立場を考えたら当然の対応だろう。
「ご、ごめんなさい。良い一日を過ごしてくださいね」
ソフィアさんが気まずそうに謝って、馬車に乗り込む。
『ボク、シルバーウルフ? マーナガルム?』
「うーん……」
さっきのお父さんの発言。
そして俺の転生場所は神様が選んだわけで。
可能性あるなぁぁあああ。