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18話 成長速度

 無事、試験官のところまでついた俺は、収納スキルを使ってアーマーオークの死体を二つ出す。


「……驚いたな。二人も合格者が出るなんて」


 試験官のおじさんが口元を押さえて驚く。単純にオークを倒したこともそうだが、俺たちに目立った傷がないことが珍しいようだ。


「他の冒険者に狙われなかったのか?」

「その辺は、適当にこなしました。俺とロイは合格ですよね」

「もちろんだ。時間もまだ十五分の余裕がある。……しかしユウト、お前は何者なんだ?」

「ただのEランク冒険者ですよ」


 今日から、Dランクに昇格できそうだけどね。

 少しすると、森からゾロゾロと冒険者たちが出てくる。

 おそらく、コイントスで負けた人たちだろう。ふて腐れた様子だ。試験官が発破をかける。


「なんだお前ら? まだ時間はあるぞ、戻ってきてる場合かっ」

「いやいや、もう無理っしょ。また、次回の試験にかけますよ」


 まあ、そうなるだろう。彼らは元々、この森のアーマーオークと真面目に戦うつもりはないんだから。

 今回の勝者は、運の良かった二人と俺たち。四人になるんだろう。


 と思ったのに、時間が経っても死体を持った二人は現れない。


「時間だ、これで試験終了となる。まだ……二人帰ってきていないな」


 試験官が探しに森に入るので、俺たちもついていく。

 すると、意外な光景を目にする。


「ひー、ひぃー……なんで、こんなに重いんだよ」

「全然、動かねえ、クソ」


 俺とロイは顔を見合わせ、吹き出してしまう。

 コイントスに勝ったはいいものの、アーマーオークの死体が重すぎて運べなかったのだ。

 これは予想外だった。

 けどよく考えれば数百キロはあるし、新人冒険者ならまともに運べなくて当然なのかもしれない。

 彼らは俺を見ると、泣きそうな顔で言う。


「ユウトさん、あんたよくこんなの涼しげに運んでたなぁ……」


 身体強化に怪力スキルはあるからな。

 俺が苦笑いしていると、代わりにギンローが説教してくれた。


『ズルシネーデ、モット、キタエロ!』

「「「……」」」


 素晴らしいぞ、ギンロー。

 場が沈黙に包まれた。ギンローに反論できる人はいない。

 0歳の魔物に説教された気分はいかがですか、冒険者の皆さん!


 現地解散だったので、俺はロイとギルドに帰る。

 Dランク昇格の簡単な手続きを済ます。

 リンリンさんは俺の合格をとても喜んでくれた。

 Sランク評価した相手が落ちると、受付嬢の資質を問われるのだとか。


「おれはソロ専門だが、ユウトとならまた依頼を受けてもいいと思ったぜ。機会があったらよろしくな」

「こちらこそ、色々と助かりました。また縁があれば」


 ロイさんとは熱い握手を交わしてから別れた。

 実力も確かだし、性格的にも合うし、なにかあったらまたご一緒したいものだ。


『オナカ、ヘッタ……カエロー』

「ギンローもお疲れ様。今日はいっぱい食べてくれな」

『ヤターッ!』


 今日も、だったかな。

 ともあれ、俺も疲れたのでこの日はしっかりと休んだ。


  ◇ ◆ ◇


 俺は根っからの日本人気質なんだろうな。

 お金には余裕が出てきたけど、毎日働いている。

 会社員のときはもっとダラダラしたいと感じたけど、異世界にきたらあっちと同じか、それ以上に仕事している。

 まあ、自分が強くなっていくのが楽しいってのは大きいかな。


 朝からジェシカ治癒院で怪我人を治す。

 急患で魔物に胸を引き裂かれた冒険者もきた。


「今、魔法かけます!」


 ハイヒールを使うと、みるみる傷が塞いでいく。致命傷だとさすがにここまで回復はしない。


「あんたは命の恩人だよ、先生」

「先生は、あちらです。俺は手伝いなので」


 そう言ってジェシカさんに視線を送るが彼の熱意は俺に注がれたままだ。


「いいや、俺にとっちゃあんたが先生だ。お手伝いさんなんてやらず、自分の医院を持ちなよ」

「いえ、俺はそういうのは向いてなくて」


 開業すれば儲かるのかもしれないけど、一日中治癒院は精神的にきつい。今のバイトでの働き方が性に合っている。

 もっとも、回復魔法5が6にアップしたらバイト辞めるのもありかと考えてはいるが。

 6で『リカバリー』という体力回復、状態異常の両方を癒やす魔法を覚える。そこまであげたら、あとは他のスキルをあげる方に力を入れたい。

 Dランクからは遠征の依頼も増えるので、こまめに通うのは難しくなる。

 本日の仕事を終えると、ジェシカさんが悩ましげに話す。


「最近、私よりユウト君の方が人気あるのよねぇ」

「俺では、まだまだジェシカさんには及びませんよ」

「でも、明日には抜いてるかも……」

「まさかー」


 俺は普通に笑うけど、ジェシカさんの顔は真剣そのものだ。


「貴方は天才だと思うし、治癒院を開いてもやってけると思う。そこで相談なんだけど、院長をやってみない?」


 さすがに目を見開く俺に、ジェシカさんは慌てて言い直す。


「ここのじゃないわよ。私、もう一つ治癒院を作ろうかと考えていたの。貴方が、そこの院長してくれないかなって」


 そこまで俺のことを評価してくれていたなんて……。

 少しウルッとするし、院長をやってもいいかなと思った。

 だが、ここで流されるのは良くない。

 院長ともなれば責任重大で、バイト感覚ではやれなくなる。俺はまだ色んな可能性を模索中だ。

 冒険者の他、錬金術でも稼げそうだし、そっちの店を持つという手もなくはない。


「とても光栄ではありますが……すみません。俺はやっぱり、メインは冒険者で行こうと考えています」

「……そっかぁ。そうよねー。貴方、そっちでも凄いやり手みたいだし」

「ええと、どこかで俺の話を?」

「患者がさっき教えてくれたわ。登録から最速でDランク試験を合格したって。しかも一番難しい試験だったって」


 へえ、最速だったんだ。なんて他人事のように感じてしまう。

 昨日、ギルド内で有名になったのか。リンリンさん、そんなこと全然教えてくれなかったな。

 ジェシカさんは、綺麗な足を組みかえると、柔和な顔で告げる。


「貴方はSランクもいけそうね。その才能を引き留めるのは、私のエゴになる。もし辞めたくなったらいつでも言って」

「お気遣い、助かります。あと二週間前後は、勤めますので」

「もし将来、治癒院を開くことになったら、絶対に私にも教えてねえ。怪我したら通わせてもらうわ!」

「あはは、了解です」


 そのときは、礼儀として真っ先にジェシカさんに伝えよう。

 さあ次は冒険者の仕事だ。

 宿でギンローを拾おうとしたら、すでにいなかった。

 どこに行ったんだ? 困っていると看板娘のアリナさんが急いで近寄ってきた。


「ユウトさん、ギンローなら暇だから魔物狩りに行くって言ってました。追ってこなくていいそうです」

「そうだったんですね。伝言、助かります」

「いえいえ。それにしてもギンローはすごく頭が良いですよね」

「日に日に賢くなってくんですよ」

「この前なんて、足し算してましたもの」

「ええええ!?」


 さすがにビビる。しかも正解していたとアリナさんが教えてくれて、俺は驚愕から感心に変わる。

 自分で魔物を狩りにいく自主性も芽生えてきた。

 本当に、一日一日成長しているんだな。

 子供がこんな勢いで成長してくれたら、親はどんなに楽なことか。怖いのは、そのうち俺より頭良くなることだ。

 従魔に顎で使われる未来か……。


 ブルブルッと俺は頭を振って、強制的に思考をやめる。

 俺は俺で、頑張るしかないよな。

 気合いを入れ直して冒険者ギルドに足を向けた。


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