表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/70

14話 ソフィアの決闘

「ソフィアさえ良ければ、この剣を使ってみないか」


 そう言って、俺は先ほど作ったばかりの剣を渡す。


「先生の剣をお借りでき――え? 凄く軽くありません!?」 

「錬金術で作ったんだ。軽くて丈夫な魔剣のはずだから、ドーガさんの大剣にも耐えられるはずだ」

「……よろしいのです?」

「もちろん。俺だってソフィアには勝って欲しいしさ」

「先生…………」


 ソフィアの目がうるうるとしてくる。少し気を許したら泣きそうなほどに。彼女は剣を大事そうに抱えながら言う。


「お借りします。私は、先生に剣を教えていただいて、本当に良かったです!」


 眩しいくらいの笑顔を向けられ、俺は目を逸らす。

 太陽の下で見ると、改めて超美人だよなぁ。

 さて、そろそろ行かねば。ソフィアと一緒に彼女の自宅に移動した。

 ドーガさんとの決闘は庭で行われる。

 彼はすでにいて、威厳たっぷりに仁王立ちしている。そして、ソフィアの婚約者であろう男性とその従者もいた。


「おぉ、ようやく僕の花嫁がやってきたようだ」


 茶髪で顔にそばかすのある青年が、大仰に手を広げてソフィアにハグを求める。


「お待たせしました、レントル様」


 彼女はハグには応じず、軽く頭を下げるに留まる。レントルは上も下も真っ白な服で、胸のポケットにバラを一輪差し込んでいる。腰には帯剣。剣に覚えがあるのかもしれない。

 にしても……俺が貴族だ、と主張するような格好だなー。


「おやおやソフィア。ハグに応じてくれないのかい?」

「……すみません、今はそういう気分ではなく」

「ふーん、まあ、いいや。結婚したらいくらでもできるようになるしねえ」


 エロい目つきでソフィアをなめ回すように眺めるレントル。

 うーん、あの目。セクハラで会社辞めた元上司にそっくりだ。

 俺がソフィアでも死ぬ気で結婚に抗いそう。

 ここで、ドーガさんが咳払いをする。


「レントル様には、すでに事情を説明してある。ソフィアが勝利した際は、自由に生きることを認める。ただし俺が勝ったときは、約束通りにしてもらう。いいな?」

「はい、問題ありません」

「ぷぷ、ドーガさんが負けるなんてあり得ないでしょう。手を抜いたりしませんよねー?」


 軽く尋ねるレントルに、ドーガさんは力強く頷く。


「それは絶対にありません。俺に勝てないようでは、この世界を一人で生きていくなど不可能でしょう」

「じゃあ、早く始めちゃって、僕の花嫁になることを決めてくださいよ~」


 チャラチャラしていて、俺も好きになれないな。

 ともあれ、審判は誰がするのかと思えば、ドーガさんが俺を指名してくる。


「ユウト君なら、信頼できる。いいかな?」

「……引き受けます」


 俺がソフィアの先生だと知って、なお指名してくるんだ。真剣に務めさせてもらう。

 しかし、レントルからすれば見逃せるものじゃない。


「ドーガさん、あの男はソフィアに剣を教えていたという男では?」

「そうです」

「そんなの審判にしたらマズイでしょう?」

「いえ、問題ありません。信じてください」

「貴族ですか?」

「いえ、冒険者です」


 貴族ではないと知ると、レントルは俺を睨んでくる。


「もしソフィアに有利な判定をしたら……わかってるな?」


 わかりませーん、とふざけたくなったが、ここは真面目に返事をしておいた。


「二人とも準備はいいですか?」

「うむ」

「はい、こちらも大丈夫です」


 ドーガさんが大剣を、ソフィアが魔剣を構える。

 最後に、俺はルールを確認しておく。

 殺しは当然無し。武器を落とす、参ったと口にする、気絶するで負けだ。


「では、始め」

「覚悟しろ、ソフィア!」


 さすがドーガさん、実の娘だろうと手加減する様子など微塵もない。巨躯と長い大剣を活かして猛然と攻めかかる。

 ソフィアの方は対抗せずに、避けることに集中する。静と動の出だしで対照的だ。序盤はあまり積極的に行かない方が良い、と俺はソフィアにアドバイスしてある。それを忠実に守っているな。

 大剣が地面を打ち、土を撒き散らす。これが結構厄介で目に入るとまずい。

 ソフィアはそれも計算に入れて動いているので、今は心配しなくていいな。


「ソフィア、逃げてばかりだな。それがお前の戦い方だと? これからもそういう生き方をしていくか」


 挑発だ。乗っちゃダメだぞソフィア。


「私は……逃げてなどいません!」


 乗っちゃった!? 猪突猛進するという、あまり良くないパターンに入る。

 ドーガさんはこれを完全に狙っていて、彼女の踏み出しに合わせて斬撃波を飛ばす。

 冷や汗をかく俺だけど、ソフィアはかなり冷静にスライディングしてそれを避けると、一気に距離を詰める。


「ヤァアアア――!」


 高速の突き、無慮百の剣閃がソフィアから繰り出される。息を呑むほどの猛攻には、さすがのドーガさんも大剣を盾代わりにするしか道がなくなる。

 豪快一辺倒なドーガさんに対して、ソフィアはメリハリを効かせられる剣士だ。柔と豪を兼ね備え、相手に合わせて臨機応変に闘っていく。

 魔剣の効果もあって、剣速がとんでもないことになっている。

 このまま勝負決定かと思われたけど、ドーガさんが意地を見せる。


「きゃっ!?」


 ソフィアが短く悲鳴をあげるのは、風魔法の強風を使われたからだ。彼女の体重は軽く、咄嗟にやられると踏ん張りがきかずに吹き飛ばされる。

 とはいえ、軽やかに着地するあたりはさすがだな。


「はぁ、はぁ、強くなったな。だがこの程度では、まだまだ」

「私はまだまだ闘えます」


 疲れ気味のドーガさんを見抜いて、ソフィアは一気に畳みかける。

 接近戦にて、手数で押していく。もう、さっきと同じ手も食らうことはない。風魔法を使おうと彼が腕を伸ばすと、すぐに回り込んで回避するからだ。

 ドーガさんの大振りが終わった直後、狙い澄まされた彼女の剣が太腕を斬る。


「ウグッ……」


 ソフィアの一撃は、ついに大剣を落とすことに成功した。


「そこまで」


 俺は合図を出す。武器を落としたら負けなので勝負ありだ。


 ドーガさんは疲弊していて、座ったまま話す。


「まさか、この俺が負けるとは……。以前あった悪い癖がほとんど矯正されているな」

「先生との訓練で、自然と修正されていきました」

「俺も、ユウト君に剣を習うべきかな……」

「お父様、私の勝ちを認めてくださいますね?」


 完敗だ。認めざるを得ない。彼も納得した表情で首肯する。

 これで緊張の糸が切れたのだろう、ソフィアは満面の笑みを浮かべて俺に抱きついてきた。


「やりました先生!」

「気迫のこもった闘いだったよ」

「何もかも先生のおかげです! 先生が見守っていてくれたから、落ち着いて闘えたんです」

「……ドーガさんの右膝、狙わなかったな」


 ソフィアには、弱点をちゃんと伝えてあった。積極的に攻めれば、もっと楽に勝てたはずだ。


「何だか、そこを狙って勝っても本当の勝利じゃない気がしたんです。……先生は甘いと思いますか?」

「魔物相手なら甘いけど……個人的にはカッコいいと思うな」

『カッコエエー! ソフィア、カッコエカッター!』

「うふふ、先生もギンローもありがとうございますっ」


 素晴らしくほのぼのした空間は気持ち良いけれど、これが長く続くようには思えなかった。

 俺は鬼の形相をしている彼に顔を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ