13話 錬金の素材
昨日分も含め本日は2話分更新しております。こちらは2話目です。
レッドベアの魔石を入手して喜んでいると、商人が話しかけてくる。
「いや~お強いのですね。あなたのおかげで助かりました」
「いえ、困ったときはお互い様ですから」
本当は魔石が目的だったとは黙っておこう。
彼は四十前後のふっくらとした人で、服装など見るからに裕福そうだ。
お互い自己紹介する。
彼はオットさんと言うようだ。フィラセムから別の町に商売に行くところだったが、魔物に襲われてこの惨状だと悲しそうに話す。
「護衛料はお支払いしますので、お付き合いいただけないでしょうか」
「……そうですね、わかりました」
俺ももうここに用はない。応じて一緒にフィラセムに戻ることに。
傭兵が死体を馬に乗せ、俺とオットさんは歩きながら移動する。
「どんな物をお売りになるのです?」
彼の荷物は大きく、興味本位で尋ねる。
「こういった物を取り扱っております」
彼が取り出したのは様々な魔物の素材だ。牙、爪、毛、指など。失礼だけど、こんな物何に使うのだろう?
そんな疑問が顔に出ていたのだろう。オットさんは朗らかに説明してくれる。
「今回の商売相手は錬金術師でしてね。これらは魔物の素材なのですが、錬金の素材に使えるらしいのです」
「オットさんがお取りに?」
「いえ、安く入手するツテがありまして」
なるほどね、要は転売するってことか。日本では転売屋にちょっと嫌悪感があったけれど、こちらだと特にそういう感情は芽生えないな。
俺は錬金術に役立つのがないか眺める。鳥の羽に注目する。
「これは鳥の魔物ですよね」
「ええ、その通りです。相当に速く飛ぶようです。私は詳しくないのですが、速い魔物は結構良い素材になるようです」
そうそう、動きの速い魔物、体重の軽い敵は錬金に役立つ。俺もゲームで、それらを使って武器の重さを軽くしたり、身軽になる服や靴を作っていた。
欲しいな。売ってくれないかと交渉してみた。
「もちろんです。ユウト様は命の恩人ですし、特別料金で取引させていただきます」
「ありがとうございます」
スピードバードの羽を購入する。値段はかなりまけてくれたのか相当に安かった。
行路は順調で、特に危ない魔物に襲われることなくフィラセムに到着する。
彼が財布を出そうとしたので俺は止める。
「ここまで安くしていただきましたし、護衛料はなくて大丈夫ですよ」
「お気遣い感謝します。ユウト様、私はここで商店も営んでおります。何かありましたらいつでもおたずね下さい」
「今後ともよろしくお願いします」
オットさんと和やかに別れる。人脈はあるに越したことはない。
『クラクナッテ、キタネー』
「そうだなー、帰ろうか」
日が暮れてきたので、今日は大人しく宿に戻る。魔石の使い道だが、やはり錬金術に使うのが良いかな。
そろそろ強い武器かアイテムが欲しい。
夕食を食べ、部屋でギンローの毛並みをとかしてやる。
「気持ちいいかー?」
『スー……スー……』
すっかり眠っているので耳をいじったり、尻尾をにぎにぎして遊ぶ。
魔石の使い道をぼんやり考える。
魔石、剣、それから魔物の素材があれば、そこそこ強い武器は作れる。今日オットさんから買った素材を使ってしまおうか?
魔石、剣、羽があれば軽い剣の作成に成功するはず。
「ただあれ、折れやすいんだよな」
ゲームでは、剣は軽くて攻撃は速かったが、そのぶん壊れやすかった。無論、ここは現実なので違うかもしれない
でも不安がある。
そこで、別の作成方法を取る。上の三つに、固い魔物の素材を入れると、頑強さと軽さのバランスが取れた武器が作れる。
明日の午前、オットさんの店を訪ねてみよう。
朝、起きてまず考えたのは剣じゃなくソフィアのことだ。
今日の正午、彼女は将来をかけて戦う。
ちゃんと見届けてやらないとな。
昨日教えてもらったオットさんの店に、ギンローと一緒にお邪魔する。
魔物の素材、道具、回復薬を扱うお店で結構大きい。
「おや? ユウト様ではありませんか」
「昨日の今日ですみません。実は欲しい物がありまして。固い魔物の素材は扱ってますか? ゴーレムとか岩系の魔物だと助かります」
「少々お待ちください」
オットさんは棚に飾ってある角状の岩を取り、俺に渡してくる。
「それはロックカメレオンという岩に擬態する魔物の尻尾です」
角じゃなくて尻尾の先端なんだ。岩にしか見えないので、本体も相当固いのだろう。これなら十分、錬金に耐えられるかな。
値段は二十万ギラと少々お高い。
「失礼ですが、ユウト様はこれをどのようにお使いになるのでしょう?」
あっ……若干だけどオットさんの目が鋭い。
もしかして、転売すると疑われているのかもしれない。
彼からしたら気分の良いものじゃない。顔が厳しくなるのも当然だ。
「錬金術に使います」
「なんと! ユウト様も錬金術を扱えるですか! ……これは失礼しました。てっきり私、他に高く売るのかもしれないと一瞬考えてしまい」
「いえいえ、商人なら当然ですよ。俺はそれはしないのでご安心ください」
「どうでしょう。もし錬金術をここでお見せしてくださったら、代金を十八万ギラにしますが」
疑ってるわけじゃなく、興味本位だろうな。そんなことで安くなるなら断る理由はない。
机に剣、魔石、スピードバードの羽、カメレオンの尻尾を並べる。
手をかざして錬金術スキルを使用する。
今まで使ってた剣に比べて刃が少し長くなったショートソードが出来上がる。
「ほぉーーっ! お見事ですな!」
オットさんのテンションが高い。ただ、俺はまだ喜べない。ギンローも不思議そうに首をかしげている。
『コレ、ナニカ、カワッタノー?』
そこなのだ。ぱっと見、先ほどの剣と大差ないように思える。
俺は緊張しながら剣を持ち上げ、笑みがこぼれる。
何度か振ってみて、それは確信に変わる。
「かなり使いやすくなってる。良かったら持ってみてください」
「よろしいのですかな。――こ、こ、これは素晴らしいっ!?」
彼が絶賛するのは、剣が普通の物よりずっと軽いからだ。
振ってみていいと告げると、嬉々として素振りするオットさん。
「私は剣の腕はないですけど、これを握ってると戦えそうな気がしてきますな~」
『ボクダケ、ヨクワカラナーイ』
「よーし、じゃあギンローもくわえてみ」
俺は柄をギンローに噛ませてみる。
『アーッ、カリー、カリー!』
「かりーか、そりゃ良かった」
『コレ、ボクガツカッテ、イインカイ?』
「悪いけど、それは俺が使うよ。っていうかギンロー持たないほう強いぞ」
『シュゥ……』
シュンとして落ち込むギンローの頭をなでなでして慰めておく。
「ユウト様、もし余ったアイテムなどありましたら、ぜひウチにお売りください。他店より高く買い取らせていただきます」
「はい、お世話になります」
ポーションなど、今後はここに売りにこよう。
さっきので錬金術3も4にアップしており、より色々と作れるようになった。
オット商店から出ると、俺はソフィアの家に向かう。
途中の公園で、ギンローが珍しくワンワン吠える。
「急に何だ?」
『ソフィア、イルヨーッ』
「……本当だ」
額に汗を浮かべ、公園内で一人で素振りをしている。
対決の前の最後の練習っていったところか。
ただ、少々やり過ぎのような気がするので止める。
「ソフィア、熱が入ってるね」
「先生っ!? いつからいたのです?」
「今、偶然通りかかったんだ。それより、少しやり過ぎじゃないかな。戦いの前に体力消費はもったいないぞ」
「……ジッとしていられなくて。家に、もう婚約相手が来ていることもありまして……」
ああ、そういうことか。
家にいると顔を合わせなくちゃいけないもんな。
ソフィアは、婚約者のことがよっぽど好きじゃないんだろうなぁ。




