第9話 機械闘士との戦闘【バトル】
核として、サクラの胸に装着されていた時に見たサクラと岩巨人の戦いでは、サクラの戦闘スタイルはわからなかった。
サクラは両手拳を目の前に構え、軽いステップで揺れながら俺との距離を測っている。
ボクシングに似ている、と思った。
それもアウトボクサーだ。
素早い動きで相手を翻弄し、撃たせずに撃つスタイルだろう。
対して、こちらは空手のスタイル。
足は動かさず、最初の構えのまま、目だけでサクラを追っている。
最初の一撃はサクラの攻撃だった。
残像が残るような素早い左パンチが顔面に炸裂する。
痛みはない。しかし、頭の中にアナウンスが流れる。
『頭部に78のダメージ。あと422ダメージで頭部が破壊されます』
一撃で岩巨人の頭を破壊していたサクラの拳だが、今のは軽いジャブといったところなのか。
「挨拶がわりだ」
威力は低いが、まるで避けれるような気はしなかった。
スピードではかなわないだろう。
サクラの動きに合わせて、少しずつ動く。
身体が重いように感じていた。
ダンジョンでサクラの身体を操っていた感覚とは違う。
まるで、人を一人、背負って戦うようなそんなイメージだ。
岩巨人の重い身体で、あの時の正拳突きが果たして使えるのだろうか。
自分の周りをクルクルと円を描くように動くサクラに、左拳を標準に、その場で自分も回っていく。
次にサクラが攻撃してきたと同時に正拳突きを放つ。そう思って右拳にぐっ、と力を込めた。
「お姉ちゃんっ」
檻のそとから心配そうにリアが声をかける。
岩巨人を破壊した正拳突きがサクラにまともに当たっても大丈夫だろうか。
サクラの機械パーツの頑丈そうな部位に当てるように狙いを定める。
「はっ!」
再び、サクラの拳が顔面に向かって飛んできた。
それと同時に正拳突きをサクラの腹に向かって、撃ち放つ。
がんっ、と鈍い音がして、顔面が仰け反った。
『頭部に372ダメージ。あと50ダメージで破壊されます』
顔面にヒビが入る。
あと少しで頭部が破壊される。
サクラの攻撃と同時に放った正拳突きは、あっさりと躱された。
サクラの身体で放った正拳突きと全く違う正拳突き。
岩巨人の身体と練習用の機械パーツで繰り出したそれは、まるでスローモーションのように、重くゆっくりとしたものだった。
『現在の木偶のレベルでは、スキル【正拳突き】を使用出来ません』
残念なアナウンスが頭に流れる。
唯一の技が、この身体では使えない。
そこに新たなアナウンスが流れてくる。
『スキル【正拳突き・鈍】を覚えました』
鈍という文字が追加された正拳突き。
鈍い正拳突き。まったく役に立ちそうにない。
「あれ? こんなもん?」
拍子抜け、といったようなサクラの声。
岩巨人を倒せたのは、サクラの身体と機械パーツのおかげだったのか。
「手を抜いてる? だったら、許さない」
次に来たのは蹴りだった。
サクラの右ローキックが、左足の太ももに炸裂し、パァンと弾けるような音が響く。
『脚部に280のダメージ。行動速度が30パーセント低下します。後、220ダメージで破壊されます』
只でさえ、動きについていけないというのに、左足にもヒビが入り、ダメージで更に遅くなる。
とにかく距離を取らなければならない。
焦って後退しようとするが、ダメージを受けた左足がもたついて、バランスを崩す。
あわわわわ、と心の中で叫ぶ。
どうしようもなかった。
ばったーーんっ、とそのまま後ろにひっくり返る。
じとり、と白けた目で倒れた俺を見下ろすサクラ。
次にリアの方を見て、がっかりした声で言う。
「めっちゃ弱いよ。王道の十二核」
「いや、ダンジョンでは強かったんだよ? 岩巨人の核の位置もわかってたみたいだし」
リアは首を傾げている。
確かに岩巨人の核の位置を知ることができた。
しかし、核をもたないサクラ相手には意味はない。
「わざと弱い振りをして油断させようとしてるんじゃないかな?」
「それはない。戦ってわかる。イチは必死だ」
そうだ。俺は全力だ。サクラは戦う前に俺を良い奴だと思うと言ってくれた。
イチという名で呼んでくれた。
彼女の望む戦いに、手を抜きたくない。
しかし、もどかしいほどに実力差がありすぎる。
「やっぱり、噂に尾ビレがついた大袈裟な伝説だったのかな。これじゃあ、練習相手にもならないね」
リアの声には、安堵の色が強く混ざっている。
「お姉ちゃんの実力が凄かったんだよ。気絶して眠っていた力をイチが引き出してくれたんじゃないかな?」
「そうかなぁ。うん、きっとそうだな」
サクラが照れたように機械パーツの頭をかく。
和やかな雰囲気の中、人間だった頃の思い出が蘇る。
空手の公式戦で、一度も勝つことができなかった。
好きな人の前で、何も出来ず、負けていた自分。
核となり、別の身体を手に入れても同じことを繰り返すのか。
嫌だ。そうだ、俺は認めてほしいのだ。
今度こそ、彼女に、俺を見てほしい。
熱い想いが、核から溢れて岩巨人に広がっていく。
それは、ダンジョンで姉妹を岩巨人から救おうとした時と同じような感覚だった。
起き上がろうと地面に手をついた時、変化が起きた。地面から砂が身体中にまとわりつくように吸い込まれていく。
あっという間に、ヒビが入っていた頭と足が再生され、元通りになっていく。
『ダメージが完全回復しました。スキル【砂の再生】を覚えました』
ダンジョンで岩巨人が使っていた再生を木偶でも使えた事に驚く。
だが、それ以上にもう一つ、更なる驚きがあった。
「お姉ちゃんっ」
「ああ、わかっている。油断はしない」
あの時、身体の中の岩巨人の核が赤く光って見えた。自分が核になったので、同じ核を見ることが出来るものだと思っていた。
だが、それは違っていた。
ゆっくりと立ち上がる。
これまで見えなかったものが見えていた。
確信する。これはヒントだ。
岩巨人の核が見えたように。
サクラとの戦いに勝つ為のヒントが、目の前に提示されているのだ。
『十二核スキル 【全ての答え】レベル1【簡単なヒント】が発動しました』
サクラの弱点を改めて確認する。
俺はリアに向かって、全力で突進した。