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第8話 善か悪かの質問【クエスチョン】

 

 リアはいくつも質問してくるがそのほとんどに右手を上げるしかなかった。


「何、アンタ、戦闘機械人形(アーマードオートマタ)も知らないの? 」


 YESとうなづく。


「アンタ、本当に(コア)なの? 適当に答えたり、嘘とかついてない?」


 ブンブンと強く首を振り、NOと否定する。


「ほとんど、わかってないじゃない。お姉ちゃんより馬鹿なの? 信じられないっ」


「おい、リア。今、さらっと酷いこと言わなかったか?」


「お姉ちゃんはややこしくなるから黙っててっ」


 リアが苛立っているのが分かる。

 質問することによって、俺の真意を探ろうとしたのだろうが、あまりにも俺が何も知らないので困っているのだろう。


 しかし、実際、俺はこの世界の事も自分が何故、核などというものに姿を変えたかも、まったく分からないのだ。

 どうすることもできない。


「どうしよう。本当に何も知らないのか、知ってて隠しているのか、わからないわ」


 リアが頭を抱えている。

 俺もどうすれば信じてもらえるかわからない。


「面倒な事をせず、直接聞けばいいじゃないか。お前は悪いコアなのか?」


 サクラがイキナリ目の前で質問してきた。

 反射的にブンブンと首を振る。


「いい奴みたいだぞ、リア」


「ややこしくなるから黙ってて、て言ったでしょっ!」


 リアが怒鳴るがサクラは動じない。


「反射的に首を振った。ワタシは嘘じゃないと思う」


「そ、そんなの、わからないよ」


 サクラがあまりに自信満々で言うので、リアは動揺してしまう。


「交代だ。ワタシが質問してみる」


 サクラがそう言って、顔と顔がくっつく位に接近してくる。

 綺麗な顔が間近に来て、思わず心臓が高鳴る。

 いや、心臓はないのだが、そういう感覚を全身に感じる。


「お姉ちゃん、核が赤くなってる。絶対スケベだよ、その核っ」


 ギクリとするが、サクラは騒ぐリアの前に右手を広げ、黙っていろ、と意思表示する。

 しばらく、沈黙が続いた後、サクラが口を開く。


「お前の事は犬と呼んでいいのか?」


 その質問に少し戸惑う。出来れば犬と呼ばれるのは勘弁してほしい。

 ゆっくりと首を横に振る。


「そうか、なんと呼べばいい?」


 質問はYESかNOかわからないで答える筈だったが、サクラはそこを理解していないのか。ただ、普通に会話しているように聞いてくる。


 俺は前の世界で呼ばれていたあだ名を久し振りに思い出す。

 右手の人差し指を一本立てて、サクラの顔の前に見せる。


「指? いや、一本ということか? 数字の1のことか?」


 首を思い切り縦に振る。


「1? イチと呼べばいいのか?」


 さらに強くうなづく。

 イチと呼ばれる事がこんなに嬉しいことだとは思わなかった。

 核という存在になってから初めて、自分の存在を認識されたような気がしたのだ。


「そうか、お前の名前はイチか」


 サクラがそう言って、にっと笑った。

 いい笑顔だった。


「ワタシはサクラ。機械(マシン)闘士(グラップラー)のサクラだ」


 機械闘士? 機械パーツを装備して戦う人の事だろうか。


「アッチは、ワタシの妹のリア。機械(マシン)技師(エンジニア)のリアだ」


 機械闘士と機械技師。戦うのは姉のサクラで、機械のメンテナンスやサポートを妹のリアが行なっているということだろうか?


「ワタシ達二人は、ある事情で短期間で強くならなければならない。だから、今の装備を強化するために新しい機械パーツや核を見つけるためにダンジョンに潜っていた」


 俺がいたダンジョンのことだろう。

 この世界では、機械パーツや核はダンジョンで発見されるのか。


「そこでイチ。お前と出会った。リアがイチを王道(ゾディアック)(オブ)十二核(トゥエルヴコア)とか難しいことを言ってるが、ワタシにはよく分からない」


「い、いっぱい説明したのに......」


 リアの悲しみを含んだ声が聞こえてくる。


「だけどイチ、お前が良い奴か悪い奴か、それを確かめる方法は知っている」


 サクラはそう言うと、右拳を握りしめ、俺の顔の前に持ってきた。


「闘おう。それで全てが分かる」


「なんでやねんっ!」


 YESかNOか返事を考える前にリアが叫んでいた。


「いや、ほんまになんでやねんっ。そんな少年漫画みたいな能力、お姉ちゃん、あらへんがなっ」


 興奮したのか、リアの言葉が関西弁になっている。

 こちらの世界でもツッコミは関西弁なのだろうか。


「そんなことはない。ワカルヨ、タブン」


 リアと目を合わさずにサクラが言う。

 だが、棒読みだ。


「お姉ちゃん、ダンジョンで自分がやられて、イチに助けられたのが悔しいだけでしょっ」


「ソンナコト、ナイヨ?」


 ダメだ、カタコトな上に疑問系だ。


「王道の十二核は危険な存在なんだよ。なんでわざわざ戦うなんて言うのっ」


 リアは心の底からサクラを心配している。

 しかし、サクラはゆっくりと首を横に振る。


「強い奴がいたら戦いたくなるのが機械闘士だ」


 サクラの赤い瞳が燃えているように感じた。


「それに本当に戦ったらわかる気がするんだ。イチのことを」


 あれだろうか。河原で殴り合ったら俺とお前はもう親友だ、という感じのそういうノリなんだろうか。

 それが正しいことかどうかはわからない。

 だが、俺は自然と拳を握りしめていた。


 左拳をまっすぐサクラの方に伸ばし、右拳を(あばら)の下に置く。正拳突きの構えだ。


 その姿を見たサクラがリアに聞こえないような小さな声で密かに呟いた。


「本当はもう、イチが悪いコアじゃないという事は、なんとなくわかってるんだ」


 悪戯っ子のような、そんな笑みを浮かべる。


「でも戦ってみたいんだ。いいだろう?」


 心配しているリアが少し可哀想だが、俺も知りたいと思っていた。

 サクラの力を、そして、自分の力を。


 力強くYESとうなづく。

 サクラとの戦いが始まった。









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