第6話 王道の十二核【トゥエルヴコア】
「王道の十二核が最初に確認されたのは三百年前の機械戦争と言われてるわ」
リアが研究所のガラクタ(本当はガラクタでないのかもしれないが俺にはガラクタにしか見えない)の中から、黒板を取り出し、壁に貼り付ける。
そこに丁寧に図解入りで文字を書いていく。
文字は読めないが、重要らしい所に花丸をつけたり、
可愛い顔のイラストをつけたりして、なんだかほっこりする。
「王道の十二核は、その名の通り、世界に12個しか存在せず、そのすべてに動物の名が付けられているのよ」
サクラは真面目に聞いているが、本当に理解しているのだろうか。
今にも頭から湯気が出そうな難しい顔になっていた。
「千年前に滅んだと言われる古代文明の暦。子【ね】丑【うし】寅【とら】卯【う】辰【たつ】巳【み】午【うま】未【ひつじ】申【さる】酉【とり】戌【いぬ】亥【い】の12の王道【ゾディアック】で構成されているの」
「殆どが滅んだか、伝説の動物だな。今残っているのは辰【たつ】のドラゴンくらいか」
核となって目覚めて初めて耳慣れた言葉を聞く。
12支だ。リアは12支のことを話している。
そして、俺が知る動物はこの世界には存在せず、逆に伝説上だったドラゴンが、この世界には存在するというのか。
そして、リアは気になることを言っていた。
千年前に滅んだ世界の暦。
まさか、俺が住んでいた世界はすでに滅んでなくなっているのか?
「現在までに発見された王道の十二核は10個。この核が本物なら11個目ってことになるわ」
「本物なのか?」
「ほぼ間違いないよ。抜き出した情報から核の名前が判明したわ」
リアが黒板に大きく俺の名前を書く。
『犬飼 一郎』
「漢字と呼ばれる古代文字。私もほとんど読めないけど一字だけわかるわ。犬。12の王道で戌【いぬ】を表す言葉よ」
「犬か。純血種が滅んだのが、百年くらい前だったかな」
飼っていたペットの犬を思い出す。
マメという名前の豆柴。
もう二度と会えないのだろうか。
「リア、前の十個、今までの王道の十二核はどうだったんだ?」
「......全部、違う結果になっている。核の性格は全て違うの。男だったり、女だったり、子供だったり、老人だったり、正義の味方だったり、悪の帝王だったり、人かどうかわからないけど、まさしく十人十色よ」
もし、他の核が俺と同じようなものだとしたら、普通の人間が核として生まれ変わったということなのだろうか。
「でも一つだけ、共通点がある。それは王道の十二核を装備した戦闘機械人形は危険だってことよ」
「そこがイマイチ信じられないんだ。ただ自動で動くだけの核だろう? ワタシは負けない自信があるぞ」
サクラが俺の方を挑戦的な瞳で見る。
確かにサクラの身体を借りて岩人形を倒したが、そこまで自分が強いとは思えない。
「参考例が少ないから、確かな情報かどうかわからないけど、王道の十二核は成長して強くなるらしいよ」
「成長するのは、ワタシ達も同じだろう」
「少し、違うみたい。十二核、それぞれに違いはあるみたいだけど、一度見ただけの技【スキル】をコピーしたり、破壊されそうになった後、爆発的に強くなったり、そんな急激な成長があるみたい」
そういえば、正拳突きの技【スキル】を覚えた後、全く同じ威力の正拳突きを放つことが出来た。
あれはもしかしたら、俺の特性か何かだったのだろうか。
「つまり、王道の十二核は、人にはないチート級の能力を持っているってことか」
リアがうなづき、黒板にまた何か書き込んでいる。
「今、殆どの十二核は、国家か上位ランカーが保管して表に出ないようにしてるわ。有名なのは、百二十年前、国を滅ぼしかけた寅【とら】の十二核ね。今は城の地下に百年以上封印されているらしいわ」
「お伽話か、伝説の類いだと思っていた」
「私も実際に見るまでは信じられなかったよ」
サクラとリア、二人の視線が俺に注がれる。
自分がそんな伝説的な核だというのか。
何故、ただの高校生だった俺がそんな大層なものになってしまったのか。全くわからない。
俺のいた世界はどうなってしまったのか。
俺の家族や他の人達、そして彼女は一体どうなってしまったのか。何もわからない。
「この核、私達には手に余るものだと思うわ」
リアは最初から俺を恐れている。
「売ればかなりのお金になると思う。お姉ちゃんも大会に参加しなくてよくなるわ」
大会? 二人は何かの大会に参加してお金を稼ごうとしているのだろうか。
「大会には参加する。お金の問題じゃない」
サクラの言葉には力が込められていた。
残念そうな表情でリアは下を向く。
「それにこの核は、ダンジョンでワタシ達を助けてくれただろう。国を滅ぼすような悪い核には思えない」
うん。俺も国を滅ぼそうなんて思わない。
「そんなのっ、わからないよっ。良い子の振りして何か企んでいるかもしれないよっ」
企んでません。そう言いたいが、言葉はでない。
サクラの身体を操ったときは話をすることが出来たが、今はそれが出来ず、もどかしい。
「そうだ。まだ良い核か悪い核かわからないなら、もう一度試して見たらいいじゃないか」
「もう、お姉ちゃんが操られるのは、嫌だよ」
泣きそうな顔でリアが下を向く。
しばらく俯いていたが、意を決したようにサクラの方を見た。
「これを使うわ。もし、悪い核だったらお姉ちゃんが破壊してね」
そう言ってリアが取り出したのは、岩人形の赤い核だった。