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第35話 蛇の物語【ストーリー】

 

「見てください、見てください」


 ハルが庭ではしゃいでいる。

 月明かりとランタンの灯りの中、お尻のしっぽがブンブンと大きく揺れている。


「ちょんわっ」


 よくわからない掛け声と共にハルがくるりと空中をくるりと回る。

 壊滅的運動音痴だったハルが、しっぽ装備をつけたとたん、信じられないほどの動きを見せる。


「うわあ、すごい、わたし、今、輝いてる」


 今の研究室(ラボ)の状態で三人で寝るのは厳しいということで、リアが部屋を片付けている。

 俺は試験管の中で万能薬(エリクサー)に浸かり、シルバ戦で傷ついた身体を直していた。


「なかなか良い動きだな。明日一緒にダンジョンに行けるな」


 サクラが試験管に入った俺を持ちながら、ハルの動きを見ている。

 頭以外の借りていた戦闘機械人形(アーマードオートマタ)を装備しているので、寝る前にトレーニングでもするつもりなんだろう。


「イチさん、サクラさん、わたし、幸せですっ」


 ぴょんぴょんと庭を飛び跳ねながら、はしゃぐハル。

 後でしっぽ返してねと言いにくくなる。


「えっ、返すんですか?」


 貰ったつもりでいたらしい。

 ハルがガッカリした顔になる。


「また、ダンジョンで同じのが出るかもしれないから、明日皆で一緒に行けばいい」


「わぁ、楽しみですっ。わたし、頑張ります」


 確かに、同タイプの装備が見つかるかもしれない。

 それまで貸していてもいいだろう。

 しっぽのないハルを一緒に連れて行ったら大変だ。


「お待たせ、片付いたよ」


 リアが研究室から出てくる。

 もうすぐ寝るのか、ラフなシャツに着替えていた。


「早いな、さすがリア」


 サクラが俺をリアに手渡す。


「じゃあ、今から走ってくる。先に寝といてくれ」


 山の夜道を走るのだろうか。ルートを覚えているのか、夜目がきくのか、どちらにしろすごい。


「ちょっと待って、お姉ちゃん。あの白女のことを調べたの。色々とわかったことがあるから、聞いてからにして」


 ハルから名前を聞いて、輪蛇(りんだ)さんが巳【み】の(コア)の可能性が高いとリアは言っていた。

 どうやら研究室を片付けながら、それも調べていたようだ。


「ほう、それは聞いておかないとな」


 サクラはリベンジに燃えているのか、興味深々といった感じだ。


「巳【み】の(コア)が最初に発見されたのは約100年前。極寒の北方地方で見つかったとされているわ」


 100年前、輪蛇さんは自分と同じ時期にここに来たのではないのか。


「所持したのは、当時の王で最初の記憶だと、巳【み】の(コア)骸骨(スケルトン)木偶(デク)を操っていたと記憶されてる」


「スケルトンって、あの骨だけの魔物(モンスター)だよな。木偶を乗り換えたってことか?」


 サクラの質問にリアが首を振る。


「古い記録で曖昧な部分もあるけど違うみたい。骸骨の姿だった木偶は、少しずつレベルが上がって肉がついていとたとされている。イチの岩巨人(ゴーレム)も鼻が出来たでしょ。それと同じみたいね」


 思わず鼻を触ってしまう。

 輪蛇さんは木偶のレベルを上げて骸骨の姿から、元の人間の姿に変わったのか。

 なら、自分の岩巨人もレベルが上がれば完全な人間の姿になれるのだろうか。


「多分だけど、骸骨(スケルトン)から屍人(ゾンビ)、さらに屍人王(リッチ)まで木偶がクラスアップしているはずよ」


 かなりの進化を遂げて木偶がそこまでのレベルになったのか。

 どうやら、岩巨人が人間の姿になるのは、まだまだ先のようだ。


「あの身体は多分、限りなく不死に近い。イチの岩巨人の再生能力よりもずっと強力だと思う。白女を倒すには、核を破壊するしかないと思うの」


 輪蛇さんの核を破壊する。

 それは彼女の死を意味するのか、いや、もしかしたら核を破壊されたら元の世界に帰れるかもしれない。


 心の声が聞こえるハルが俺のほうをじっ、と見ている。

 だが、意味がわからないのか、気を使っているのか、何も言わないでいてくれる。


「ここからはもう吟遊詩人の唄や、寓話が混ざっている話だけど、巳【み】の(コア)の能力は【全ての(オール)断絶(カッター)】と呼ばれているらしいわ」


 全ての(オール)断絶(カッター)

 間違いないだろう。

 俺の全ての(オール)答え(アンサー)と同系の能力だと予想できる。


「空間を切り裂いたり、それを繋げることができる。どこまでが本当かわからないけど1万ブロック離れた場所にも一瞬で移動できたり、城をまるごと真っ二つにしたという話が残ってるわ」


 城を真っ二つ。輪蛇さんならやりそうだ。


「話半分だとしても、こんな話を聞いても、まだやる気なの、お姉ちゃん」


 聞くまでもないと言ったようにサクラがニッと笑う。


「大丈夫だ、イチも同じ伝説の核なんだろ。しかもあっちは一人でこっちは四人もいるんだ。負けるわけがない」


 サクラの理論は間違っているかもしれない。

 しかし、自信満々にそう言われると本当にそうではないかと思ってしまう。


「わかったわ」


 リアが決意したようにうなづく。


「明日からダンジョンを徹底的に攻略する。装備を集めて強くなったら、町に出て決闘(デュエル)を申し込み、さらに強い装備を獲得する。いい? 本当に死ぬ気で強くなるよっ」


「おう」


「ハイです!」


 サクラとハルが元気よく返事する。

 声が出せない俺は返事の代わりに心の中で強く叫ぶ。


「イチさんもやる気満々で吠えてますっ」


 輪蛇さん打倒、そして大会優勝を目指して、俺達の戦いが始まった。





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