第29話 答えの暴走【アンコントロール】
「決まったな、さすがビフのシルバだ」
「くそっ、やはり1分以内だっ。やられたぜ」
観客達が騒めく中、俺の意識は戻り、ゆっくりと起き上がる。
「おい、まだ立つのか?」
「無駄なことを。寝てればいいのにな」
意識はある。だが、身体を動かしているのは自分ではない。
【全ての答えオールアンサー】にすべてを委ねていた。
『十二核スキル 【全ての答え】レベル測定不能【完璧な計画】が発動しました』
「ガアァアアアアアアっ!」
【全ての答え】が咆哮をあげる。
騒いでいた観客達が静まりかえった。
「まさか、声は出せない筈だ。これは......」
俺の正体を知っているギアナさんがそう呟く。
驚いたのか、目を大きく見開きこちらを見ている。
「なんだ。まだやるのか。シルバっ、さっさと片付けるぞ」
ビフの声と共にシルバが再び、その姿を消す。
高速の動き。風切り音だけが聞こえ、位置が把握できない。
敵の位置を探るしっぽを見ると、全く動いていなかった。
【全ての答え】はしっぽを使えないのか?
『大丈夫や。これくらい、しっぽ使わんでもいけるわ』
【全ての答え】がそう言いながら、すっ、と後ろに下がる。
その目の前にしゃがんだシルバが現れ、起き上がりながらアッパーカットを繰り出してくる。
顔面スレスレをシルバの拳が通過した。
「なっ、かわしたっ、だとっ」
シルバの攻撃を初めてよける。
ビフの動揺は半端ではない。
見えていない攻撃を交わすことなど出来ず、やってくる方向に拳を突き出し、当てるしかなかったのだ。
それを見越して、シルバはしゃがんで攻撃をしたのだろう。
「まぐれだっ。見えている筈がないんだっ」
スピードに相当の自信を持っているのだろう。
ビフがコントローラーをものすごい勢いで動かす。
矢継ぎ早に、シルバの攻撃が繰り出される。
だが、まるで全ての攻撃箇所が分かっているように、 【全ての答え】は事前に動き、ギリギリの所でかわし続ける。
『悪いな、見えてるんや、だいぶ先までな』
確定予測。 【全ての答え】には未来が見えているとしか思えない。
「おい、なんだぁ、シルバの攻撃、当たらねえぞ」
「1分、過ぎちまったぞ、くそっ」
「いや、凄いよ。よけ方に無駄がない。実力を隠していたんだよ」
観客が再び騒めき立つ。
「まさか、シルバが負けたりしないよな」
「大丈夫だろ。本当の核の位置がわからない、まだまだシルバが有利だ」
核の位置は分かっていた。
シルバの背中、首に近い辺りが薄っすらと赤く光って見える。
だが、 【全ての答え】は攻撃をかわすだけで、手を出そうとしない。
『圧倒的な実力差を見せ付けて倒すんや。ここにいる奴らに、わしらが強いって記憶を植え付けるで』
しばらく 【全ての答え】は出てこれなくなると言っていた。
この後、別の者に決闘を挑まれないようにする為だろうか。
「シルバっ、一旦ひくぞっ」
普通の攻撃が無駄だと気がついたビフが距離を置く。
【全ての答え】はそれを追うことなく、中央の位置で立っている。
「まさか、大会用の必殺技をここで使うことになるとはな」
ビフはそう言うと、シルバが鉄柵の前で、軽く跳ねる。
ウォーミングアップか?
ぴょんぴょん、と何度か跳ねた後だった。
いきなり、大きくジャンプする。三メートル程ありそうな鉄柵を超えるような勢いだ。
ほぼ、頂点に達した所で、シルバは両足を曲げ、伸ばすと同時に鉄柵を蹴りあげた。
どんっ、と、ものすごいスピードで頭からこちらに向かって飛んでくる。
攻撃を予測している 【全ての答え】はまたギリギリで身体を傾けてかわす。
だが、シルバは反対側の鉄柵の前で一回転して、再び両足で鉄柵を蹴る。
跳ね返ったシルバのスピードは更に早くなり、こちらに向かってくる。
それをかわすと、また鉄柵を蹴り、跳ね返る。
繰り返すたびにそのスピードはぐんぐんと上がっていく。
「止まらぬ無限の銀の槍っ」
ビフが必殺技の名前を叫ぶ。
「止めれるものなら、止めてみろっ」
観客がどっ、と湧く。
派手な必殺技にシルバの勝利を確信したのだろう。
だが、そうはならない。
【全ての答え】の力は、観客の予想も俺の予想も遥かに超えていた。
ひょい、と、まるで階段を上るような簡単な動作で、向かってきたシルバの背中に乗っかった。
「なっ! 降り落とせっ」
シルバはそのまま鉄柵の前で回転する。
【全ての答え】は全く同じように回転して、鉄柵を蹴ったシルバの上に再び着地した。
わああああああああっ
怒号の混じった歓声が大きくなる。
「なんだっ、ふざけるなっ、このっ」
サーフィンのようにシルバの上に乗ったまま、腕を組む 【全ての答え】。
いつでも本物のシルバの核を攻撃できる。
決着をつける時だ。そう思った。だが、しかし。
「まだまだ、これからやで」
上に乗ったままの状態で、シルバの両腕を掴む。
そのまま、思い切り、ねじり込むように引っ張り上げた。
めきゃ、という嫌な音と共にシルバの両腕が背中の方に折れ曲がる。
さらに鉄柵の前でシルバが回転出来ず、頭から柵に激突する。
「ああっ、シルバっ」
折れた腕の機械パーツから、針金のような細いものがはみ出ていた。
中の木偶だろうか。
さらに倒れたシルバの上から、攻撃する。
あえて核は攻撃せず、その周りを攻撃する。
銀の機械パーツが、どんどんと壊されていく。
もういいだろう。勝負はついた。そう思ったが 【全ての答え】は止まらない。
『甘いわ。大会に出場できひんように、徹底的に破壊するんや』
【全ての答え】っ!
止まらない。
ガン、ガン、ガン、ガン、と金属を叩くような音が響きシルバが原型を留めない程、破壊される。
「やめてくれっ、ギブアップだっ、止めてくれっ」
ビフの声にも、【全ての答え】は止まらない。
あまりの凄惨な光景に観客達は静まりかえる。
審判が中に入って、ようやく止めた時には、シルバは完全にただのガラクタになっていた。
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